最古の寝具
最古の寝具に関する研究(Wadley et al., 2020)が報道されました。人類による火の使用の古い証拠は、100万年前頃となる南アフリカ共和国のワンダーウェーク洞窟(Wonderwerk Cave)遺跡(関連記事)や、150万年前頃となるケニアのクービフォラ(Koobi Fora)のFxJj20遺跡で得られています。アフリカ外での火の使用の古い事例としては、80万年前頃となるスペインのネグラ洞窟(Cueva Negra del Estrecho del Río Quípar)岩陰遺跡や78万年前頃となるイスラエルのジスルバノトヤコブ(Gesher Benot Ya’akov)開地遺跡(関連記事)が知られています。これらの遺跡における積み重ねられた炉床と複数の熱使用の証拠から、人類が火を意図的に制御していた、と示唆されます。40万年前頃以降、火は遺跡で頻繁に確認されるようになり、調理や暖房や明かりや社交や捕食者対策のために用いられました。
本論文は、南アフリカ共和国のボーダー洞窟(Border Cave)における、20万年以上前となる新たな火の使用法を報告します。ボーダー洞窟の住人は、灰層の上に広い葉の草の敷物(寝具)を体系的に置き、近くに炉床を設置し、時々寝具を燃やしました。既知の最古となる植物製の寝具は南アフリカ共和国のシブドゥ(Sibudu)遺跡で発見された77000年前頃のもので(関連記事)、より新しい年代のものが他の遺跡で発見されています。シブドゥ遺跡では、殺虫性の化学物質を含む芳香植物(スゲや他の単子葉植物)から葉を切り取った寝具が作られ、古くなった寝具が焼かれることもありました。ボーダー洞窟の事例は、そうした行動がシブドゥ遺跡の事例よりもずっと早く20万年以上前に始まっていたことを示します。
ボーダー洞窟では227000~1000年前頃までの人類による居住が確認されています。炉床や灰層や草の寝具はボーダー洞窟の全層で確認されます。最古の草の寝具は227000±11000~183000±2000年前頃となる5WA層で発見され、炉床が近くにあり草の端が焦げていますが、ほとんどは焼かれていないため、寝具の偶発的な焼失は稀だったと推測されます。4 WA層の厚い灰は、捕食者からの防御や調理のための燃焼の痕跡と推測されます。ボーダー洞窟では、5BS層と4 WA層でヒポキシス属の根茎を調理していた痕跡が発見されています(関連記事)。
5WA層の寝具の草は、プラントオパール分析により、キビ亜科(イネ科)と特定されました。また、寝具の炭には、現代アフリカにおいて植物製寝具で防虫剤として使用されている、芳香性の葉を有するレレシュワ(Tarchonanthus camphoratus)が含まれています。ボーダー洞窟で確認された植物は、現在でも近くの森林に存在します。また寝具が時々新調される前に、維持のために焼かれたことを示す証拠も見つかりました。灰には防虫効果があります。寝具では赤色と橙色のオーカー粒も発見されており、人々が寝具を利用した時に物体やヒトの皮膚から剥がれた、と推測されます。オーカーは30万年以上前からアフリカで使用されていました(関連記事)。石器製作の残骸が草の残骸と混ざり合っているので、人々は寝具の上で作業したり寝たりした、と推測されます。
ボーダー洞窟の住民は、火を制御できて定期的に使用し、火と灰と薬用植物により防虫効果のある拠点を維持できました。狩猟採集民の重要な特徴として移動性がありますが、このように防虫効果のある行動は居住地の潜在的範囲を広げた、と推測されます。ボーダー洞窟の20万年前頃の人類の行動は、10万年前頃以降の革新的な物質文化に明らかな、認知的・行動的・社会的複雑さの早期の可能性も示唆しています。「現代的」行動は、ある時点で一括して出現したのではなく、長期の試行錯誤の過程でじょじょに出現し、揃っていったと推測されます。
参考文献:
Wadley L. et al.(2020): Fire and grass-bedding construction 200 thousand years ago at Border Cave, South Africa. Science, 369, 6505, 863–866.
https://doi.org/10.1126/science.abc7239
本論文は、南アフリカ共和国のボーダー洞窟(Border Cave)における、20万年以上前となる新たな火の使用法を報告します。ボーダー洞窟の住人は、灰層の上に広い葉の草の敷物(寝具)を体系的に置き、近くに炉床を設置し、時々寝具を燃やしました。既知の最古となる植物製の寝具は南アフリカ共和国のシブドゥ(Sibudu)遺跡で発見された77000年前頃のもので(関連記事)、より新しい年代のものが他の遺跡で発見されています。シブドゥ遺跡では、殺虫性の化学物質を含む芳香植物(スゲや他の単子葉植物)から葉を切り取った寝具が作られ、古くなった寝具が焼かれることもありました。ボーダー洞窟の事例は、そうした行動がシブドゥ遺跡の事例よりもずっと早く20万年以上前に始まっていたことを示します。
ボーダー洞窟では227000~1000年前頃までの人類による居住が確認されています。炉床や灰層や草の寝具はボーダー洞窟の全層で確認されます。最古の草の寝具は227000±11000~183000±2000年前頃となる5WA層で発見され、炉床が近くにあり草の端が焦げていますが、ほとんどは焼かれていないため、寝具の偶発的な焼失は稀だったと推測されます。4 WA層の厚い灰は、捕食者からの防御や調理のための燃焼の痕跡と推測されます。ボーダー洞窟では、5BS層と4 WA層でヒポキシス属の根茎を調理していた痕跡が発見されています(関連記事)。
5WA層の寝具の草は、プラントオパール分析により、キビ亜科(イネ科)と特定されました。また、寝具の炭には、現代アフリカにおいて植物製寝具で防虫剤として使用されている、芳香性の葉を有するレレシュワ(Tarchonanthus camphoratus)が含まれています。ボーダー洞窟で確認された植物は、現在でも近くの森林に存在します。また寝具が時々新調される前に、維持のために焼かれたことを示す証拠も見つかりました。灰には防虫効果があります。寝具では赤色と橙色のオーカー粒も発見されており、人々が寝具を利用した時に物体やヒトの皮膚から剥がれた、と推測されます。オーカーは30万年以上前からアフリカで使用されていました(関連記事)。石器製作の残骸が草の残骸と混ざり合っているので、人々は寝具の上で作業したり寝たりした、と推測されます。
ボーダー洞窟の住民は、火を制御できて定期的に使用し、火と灰と薬用植物により防虫効果のある拠点を維持できました。狩猟採集民の重要な特徴として移動性がありますが、このように防虫効果のある行動は居住地の潜在的範囲を広げた、と推測されます。ボーダー洞窟の20万年前頃の人類の行動は、10万年前頃以降の革新的な物質文化に明らかな、認知的・行動的・社会的複雑さの早期の可能性も示唆しています。「現代的」行動は、ある時点で一括して出現したのではなく、長期の試行錯誤の過程でじょじょに出現し、揃っていったと推測されます。
参考文献:
Wadley L. et al.(2020): Fire and grass-bedding construction 200 thousand years ago at Border Cave, South Africa. Science, 369, 6505, 863–866.
https://doi.org/10.1126/science.abc7239
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