神経堤細胞の多様化を促進したエンドセリン経路の進化
エンドセリン経路の進化と神経堤細胞の多様化に関する研究(Square et al., 2020)が報道されました。魚は最初の脊椎動物で、そこからヒトを含む他のすべての脊椎動物が進化しました。しかし、最初の魚が進化した直後の化石記録にはギャップがあり、それは小さく柔らかい骨格のために化石記録に保存されていなかったからです。そこで、化石ではなく、分子生物学や遺伝学などを使用して、遺伝子古生物学のように、進化がどのように起こったのか、解明されるようになりました。
この研究で取り上げられた神経堤細胞(NCC)は移動性の多能性胚細胞であり、脊椎動物に固有で、クレード(単系統群)を特徴付ける成体の特徴の数々を形成します。NCCの進化は、新たな遺伝子調節ネットワークの進化、遺伝子のde novo進化、ゲノム規模の重複事象におけるパラログ遺伝子の増幅など、さまざまなゲノム事象と関連づけられてきました。しかし、新規遺伝子や重複遺伝子とNCCの進化とを結びつける決定的な機能的証拠はまだありません。エンドセリンリガンド(Edn)とエンドセリン受容体(Ednr)は脊椎動物に固有で、有顎類(顎口類)のNCC発生の複数の局面を調節します。
この研究は、Ednシグナル伝達の進化がNCC進化の駆動要因だったかどうか調べるため、ヤツメウナギ類のウミヤツメ(Petromyzon marinus)のednとednrとdlx遺伝子を、CRISPR–Cas9による変異誘発を用いて破壊しました。ヤツメウナギ類は無顎魚類で、約5億年前に現生の有顎類と最終共通祖先を共有していました。したがって、ヤツメウナギ類と有顎類の比較から、脊椎動物発生の高度に保存されており、進化的に柔軟な特性を明らかにできます。これらの遺伝子を取り除くと、幼生の発育中にウミヤツメがより無脊椎動物のようなワームに戻り、進化の祖先になるだろう、というわけです。
この研究は、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)を用いて有顎類の系統発生学的表現を拡張するとともに、並行解析を容易にすることで、Ednシグナル伝達の古代の役割と系統特異的な役割を特定しました。これらの知見は、脊椎動物ゲノムの重複が起こる前から、Ednシグナル伝達がNCCで活性化されていたことを示唆しています。また、脊椎動物の基部で1回以上のゲノム規模重複が起きた後、パラログ(遺伝子重複により生じた類似の機能を有する遺伝子)のEdn経路は機能的に分岐し、その結果、Ednシグナル伝達の異なる必要条件を持つNCC亜集団が生じました。
この発生の新たなモジュール性が、ステム群脊椎動物におけるNCC派生細胞の独立した進化を促したと、この研究は推測します。この見解と一致して、Edn経路の標的の違いは、ヤツメウナギ類と現生有顎類の、口腔咽頭骨格と自律神経系に見られる違いと関連づけられました。まとめると、これらの知見は、新たな脊椎動物遺伝子の起源や重複と、特徴的な脊椎動物の新規性の段階的な進化とを結びつける機能的な遺伝学的証拠を提供しています。
参考文献:
Square TA. et al.(2020): Evolution of the endothelin pathway drove neural crest cell diversification. Nature, 585, 7826, 563–568.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2720-z
この研究で取り上げられた神経堤細胞(NCC)は移動性の多能性胚細胞であり、脊椎動物に固有で、クレード(単系統群)を特徴付ける成体の特徴の数々を形成します。NCCの進化は、新たな遺伝子調節ネットワークの進化、遺伝子のde novo進化、ゲノム規模の重複事象におけるパラログ遺伝子の増幅など、さまざまなゲノム事象と関連づけられてきました。しかし、新規遺伝子や重複遺伝子とNCCの進化とを結びつける決定的な機能的証拠はまだありません。エンドセリンリガンド(Edn)とエンドセリン受容体(Ednr)は脊椎動物に固有で、有顎類(顎口類)のNCC発生の複数の局面を調節します。
この研究は、Ednシグナル伝達の進化がNCC進化の駆動要因だったかどうか調べるため、ヤツメウナギ類のウミヤツメ(Petromyzon marinus)のednとednrとdlx遺伝子を、CRISPR–Cas9による変異誘発を用いて破壊しました。ヤツメウナギ類は無顎魚類で、約5億年前に現生の有顎類と最終共通祖先を共有していました。したがって、ヤツメウナギ類と有顎類の比較から、脊椎動物発生の高度に保存されており、進化的に柔軟な特性を明らかにできます。これらの遺伝子を取り除くと、幼生の発育中にウミヤツメがより無脊椎動物のようなワームに戻り、進化の祖先になるだろう、というわけです。
この研究は、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)を用いて有顎類の系統発生学的表現を拡張するとともに、並行解析を容易にすることで、Ednシグナル伝達の古代の役割と系統特異的な役割を特定しました。これらの知見は、脊椎動物ゲノムの重複が起こる前から、Ednシグナル伝達がNCCで活性化されていたことを示唆しています。また、脊椎動物の基部で1回以上のゲノム規模重複が起きた後、パラログ(遺伝子重複により生じた類似の機能を有する遺伝子)のEdn経路は機能的に分岐し、その結果、Ednシグナル伝達の異なる必要条件を持つNCC亜集団が生じました。
この発生の新たなモジュール性が、ステム群脊椎動物におけるNCC派生細胞の独立した進化を促したと、この研究は推測します。この見解と一致して、Edn経路の標的の違いは、ヤツメウナギ類と現生有顎類の、口腔咽頭骨格と自律神経系に見られる違いと関連づけられました。まとめると、これらの知見は、新たな脊椎動物遺伝子の起源や重複と、特徴的な脊椎動物の新規性の段階的な進化とを結びつける機能的な遺伝学的証拠を提供しています。
参考文献:
Square TA. et al.(2020): Evolution of the endothelin pathway drove neural crest cell diversification. Nature, 585, 7826, 563–568.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2720-z
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