ヒトの皮膚由来の個々のメラノサイトのゲノムの全体像

 ヒトの皮膚由来の個々のメラノサイトのゲノムの全体像に関する研究(Tang et al., 2020)が公表されました。ヒトの全細胞は固有の体細胞変異セットを持っていますが、個々の細胞の遺伝型を包括的に決定することは困難です。この研究は、正常なヒト皮膚において、この障害を克服する方法について報告します。これにより、ヒト皮膚由来の個々のメラノサイトのゲノムの全体像を垣間見ることができるようになりました。

 予想通り、日光を遮断したメラノサイトは、日光に曝露されたメラノサイトよりも変異が少ない、と明らかになりました。しかし、顔など慢性的に日光に曝露されている皮膚のメラノサイトは、背中など間欠的に日光に曝露される皮膚のメラノサイトよりも変異量が少ない、と明らかになりました。皮膚癌に隣接して位置するメラノサイトは、皮膚癌のないドナー由来のメラノサイトよりも変異量が多いことから、正常な皮膚の変異量を用いて、日光による累積的な損傷および皮膚癌のリスクを測定できる、と考えられます。さらに、健康な皮膚由来のメラノサイトは病原性変異を含むことが多いと知られていますが、これらの変異は発癌性が弱い傾向があり、おそらくこれが認識可能な病変を生じなかった理由だろう、と推測されます。

 系統発生学的解析から、関連するメラノサイトのグループが複数特定され、メラノサイトが肉眼では分からない、クローン関係がある細胞の領域として皮膚全体に広がっている、と示唆されました。まとめると、これらの知見は個々のメラノサイトのゲノムの全体像を明らかにしており、黒色腫の原因と起源についての重要な手掛かりを提供します。また、メラノサイトのゲノムには地域差もあり、それらがどのような進化を経てきたのか、という点も注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


腫瘍生物学:ヒトの皮膚由来の個々のメラノサイトのゲノムの全体像

腫瘍生物学:メラノサイトの体細胞変異

 これまでの研究では、多くの正常な非がん組織で体細胞変異が研究されてきた。加齢に伴って体細胞変異が蓄積し、そうした変異には発がん性変化が含まれることが分かっている。J Tangたちは今回、正常な皮膚のメラノサイトの塩基配列を解読した。日光に曝露されたメラノサイトは、日光から保護された体の部位のメラノサイトよりも多くの変異を持っていることが分かった。しかし、意外にも、慢性的に日光に曝露されている皮膚(顔など)のメラノサイトは、時折日光に曝露される部位のメラノサイトよりも変異が少なかった。また、一部のメラノサイトがクローン増殖することも分かった。発見された変異には、黒色腫の形成に関係するとされている病原性変化が含まれていた。



参考文献:
Tang J. et al.(2020): The genomic landscapes of individual melanocytes from human skin. Nature, 586, 7830, 600–605.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2785-8

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