伊藤之雄『真実の原敬 維新を超えた宰相』
講談社現代新書の一冊として、講談社より2020年8月に刊行されました。電子書籍での購入です。著者の講談社選書メチエ『原敬 外交と政治の理想』をいつか読もうと思っていたのですが、分厚いので尻込みしていたところ、本書の刊行を知り、講談社選書メチエよりは気軽に読めるかな、と考えて購入しました。本書も原敬についての堅実な評伝になっていますが、より詳しく知るために、いつか講談社選書メチエ『原敬 外交と政治の理想』も読むつもりです。
本書は原を、維新功臣たちの近代国家建設を受け継ぎ、時代の変遷に対応しつつ、政策を構想して実行していった、大政治家として描き出します。もちろん原は単なる理想主義者ではありませんでしたが、一方で既存秩序を大前提としてそこに安住して政権獲得・維持を図るだけの「現実追認主義者」でもなく、均衡のとれた先見の明がある政治家で、複雑な現実を踏まえて、シベリア出兵などで時として妥協しつつ、政策を進めていくだけの実行力があった、というわけです。
原の先見の明として本書が指摘するのは、第一次世界大戦中に、戦後の新国際秩序をほぼ正確に予測できていたことです。原はすでに1908~1909年にかけての半年のアメリカ合衆国とヨーロッパの視察旅行で、イギリスに代わってアメリカ合衆国が世界を主導する、と予測していました。これは、当時の日本の有力政治家・経済人の中で最も早く、それ故に第一次世界大戦後のアメリカ合衆国主導のヴェルサイユ体制への対応策も的確だった、と本書は指摘します。一方、大隈重信は第一次世界大戦後にアメリカ合衆国が世界を主導するようになったことを充分には理解できず、ヴェルサイユ体制にも疑問を抱いていました。本書は、伊藤博文が大隈のように第一次世界大戦後にも存命だったとしても、この国際情勢の変化をすぐには理解できなかっただろう、と指摘します。
また本書は、原が幼少時から優秀ではあったものの、議会対策など内政でも、列強との駆け引きなど外交でも、当初は未熟なところがあり、経験を積んでいくことで成熟していった、と指摘します。徒に美化するのではなく、成長をしっかりと描くところは、堅実な伝記としてよい、と思います。本書は、このように成熟していった原に大きな影響を及ぼした人物として、母のリツと中江兆民と陸奥宗光と伊藤博文を挙げます。とくに、母のリツは原に大きな影響を与えたというか、その生涯を規定したとも言えそうです。また陸奥宗光に対して、原はとくに強い尊敬と親愛の念を抱いていたようです。
最後に本書は、原が暗殺されたことにより失われてしまった可能性を論じます。原は首相就任後、伊藤博文と山県有朋という例外的な人物を除いて、従来の首相が充分には統制できなかった軍部や宮中を、法律の改正ではなく、非公式な形で統制し、イギリス風の政党政治に近づけました。原の影響力が持続すれば、法改正や整備により、法の支配下での統制に変えることができ、原のような大物政治家がいなくても、より安定した政党政治が可能になったかもしれない、と本書は指摘します。また本書は、原の殺害により、政党改革が停滞し、腐敗が進んだことで、軍部の台頭を招来した、指摘します。さらに本書が重視するのは、原が昭和天皇の適切な助言者になった可能性です。昭和天皇は即位後5年間に、張作霖爆殺事件と海軍軍縮条約と満州事変で相次いで不適切な行動を選択し、軍部の不信感を買って統制の形成に失敗しました。本書はこれを、側近が未熟だったからと指摘します。原が存命ならば、これらは避けられたかもしれない、というわけです。
本書は原を、維新功臣たちの近代国家建設を受け継ぎ、時代の変遷に対応しつつ、政策を構想して実行していった、大政治家として描き出します。もちろん原は単なる理想主義者ではありませんでしたが、一方で既存秩序を大前提としてそこに安住して政権獲得・維持を図るだけの「現実追認主義者」でもなく、均衡のとれた先見の明がある政治家で、複雑な現実を踏まえて、シベリア出兵などで時として妥協しつつ、政策を進めていくだけの実行力があった、というわけです。
原の先見の明として本書が指摘するのは、第一次世界大戦中に、戦後の新国際秩序をほぼ正確に予測できていたことです。原はすでに1908~1909年にかけての半年のアメリカ合衆国とヨーロッパの視察旅行で、イギリスに代わってアメリカ合衆国が世界を主導する、と予測していました。これは、当時の日本の有力政治家・経済人の中で最も早く、それ故に第一次世界大戦後のアメリカ合衆国主導のヴェルサイユ体制への対応策も的確だった、と本書は指摘します。一方、大隈重信は第一次世界大戦後にアメリカ合衆国が世界を主導するようになったことを充分には理解できず、ヴェルサイユ体制にも疑問を抱いていました。本書は、伊藤博文が大隈のように第一次世界大戦後にも存命だったとしても、この国際情勢の変化をすぐには理解できなかっただろう、と指摘します。
また本書は、原が幼少時から優秀ではあったものの、議会対策など内政でも、列強との駆け引きなど外交でも、当初は未熟なところがあり、経験を積んでいくことで成熟していった、と指摘します。徒に美化するのではなく、成長をしっかりと描くところは、堅実な伝記としてよい、と思います。本書は、このように成熟していった原に大きな影響を及ぼした人物として、母のリツと中江兆民と陸奥宗光と伊藤博文を挙げます。とくに、母のリツは原に大きな影響を与えたというか、その生涯を規定したとも言えそうです。また陸奥宗光に対して、原はとくに強い尊敬と親愛の念を抱いていたようです。
最後に本書は、原が暗殺されたことにより失われてしまった可能性を論じます。原は首相就任後、伊藤博文と山県有朋という例外的な人物を除いて、従来の首相が充分には統制できなかった軍部や宮中を、法律の改正ではなく、非公式な形で統制し、イギリス風の政党政治に近づけました。原の影響力が持続すれば、法改正や整備により、法の支配下での統制に変えることができ、原のような大物政治家がいなくても、より安定した政党政治が可能になったかもしれない、と本書は指摘します。また本書は、原の殺害により、政党改革が停滞し、腐敗が進んだことで、軍部の台頭を招来した、指摘します。さらに本書が重視するのは、原が昭和天皇の適切な助言者になった可能性です。昭和天皇は即位後5年間に、張作霖爆殺事件と海軍軍縮条約と満州事変で相次いで不適切な行動を選択し、軍部の不信感を買って統制の形成に失敗しました。本書はこれを、側近が未熟だったからと指摘します。原が存命ならば、これらは避けられたかもしれない、というわけです。
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