非生殖細胞におけるY染色体遺伝子の効果

 非生殖細胞におけるY染色体遺伝子の効果に関する研究(Deschepper., 2020)が報道されました。哺乳類は1対の性染色体と多数の常染色体を有します(ヒトでは22対の常染色体)。雌は2本のX性染色体を有していますが、雄はX染色体とY染色体を1本ずつ持っています。Y染色体には雌に欠けている遺伝子があります。これらの雄特有の遺伝子は体のすべての細胞で発現していますが、これまでに確認された唯一の役割は、本質的に性器の機能に限定されています。

 この研究では、マウスのY染色体上の2つの雄特有の遺伝子を不活性化する遺伝子操作が実行され、性器以外の細胞の特定の機能で重要な役割を果たす、いくつかのシグナル伝達経路が変更されました。たとえばストレス下では、影響を受けるメカニズムのいくつかは、心臓の細胞が虚血(血液供給の低下)や機械的ストレスなどの攻撃性から身を守る方法に影響を与える可能性があります。この研究はさらに、これら雄特有の遺伝子が、常染色体上の他のほとんどの遺伝子により一般的に使用されるメカニズムと比較して、異常な方法でそれらの調節機能を実行する、と示しました。

 つまり、Y染色体は、ゲノムレベルでの直接作用により特定の遺伝子を特異的に活性化する代わりに、タンパク質産生に作用することにより細胞機能に影響を与えているのではないか、というわけです。これらの機能の違いの発見は、雄のY染色体遺伝子の機能がこれまで充分に理解されていなかった理由の一部を説明するかもしれません。ヒトの場合、男性は、ほとんどの病気の症状・重症度・結果において女性とは異なります。この性差の最近の事例例は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で、男性の死亡率は女性の2倍です。

 Y染色体は、現代日本では皇位継承問題との関連で注目が高まっているようで、それまで生物学や人類進化やY染色体の解析・比較による人類集団の移動といった問題に関心がなかったような人々も、皇位継承の根拠としてY染色体を持ち出すことが多くなっているように思います。それに対する批判・反発として、Y染色体には性を決定する機能しかない、といった揶揄が少なくないように思いますが、この研究は、Y染色体がタンパク質産生に作用することにより細胞機能に影響を与えている可能性を提示しており、今後、性決定以外のY染色体の機能がさらに明らかにされていくかもしれない、と期待されます。


参考文献:
Deschepper CF.(2020): Regulatory effects of the Uty/Ddx3y locus on neighboring chromosome Y genes and autosomal mRNA transcripts in adult mouse non-reproductive cells. Scientific Reports, 10, 14900.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-71447-3

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