アジア南東部における人類も含む大型動物絶滅の環境要因

 アジア南東部における人類も含む大型動物絶滅の環境要因に関する研究(Louys, and Roberts., 2020)が報道されました。アジア南東部は北部のインドシナ地域と南部のスンダ地域で構成されており、広大なフタバガキ科熱帯雨林により特徴づけられ、世界で最も種が豊富な生態系を有します。アジア南東部では、寒冷期に海面が低下するとスンダランドが形成され、とくにインドシナからジャワ島にかけての生物地理地域で深刻な環境変化が起きた、と主張されています。アジア南東部の大半で降水量をかなり減少させた熱帯収束帯の変化に伴い、より乾燥した草原環境の拡大により、アジア南東部本土と島嶼部の大半でホモ属の早期種と大型グレーザー(おもに草本を採食する動物)が拡散してきた、と主張されています。

 その後のサバンナ回廊の消失と熱帯雨林の再拡大により、これらホモ属の早期種と大型グレーザーの多くは絶滅もしくは生息範囲が縮小した、と考えられています。これらの変化はボルネオ島のオランウータンやアジアゴールデンキャットのような熱帯雨林種の拡大とも関連しています。更新世アジア南東部が開かれた地域だったことを考慮すると、これらの仮説の検証は、人類がどのように異なる生態学的耐性もしくは能力を有していたのかということや、大型動物絶滅における気候変化の役割に関する世界的な理解に大きく貢献するでしょう。

 アジア南東部において、より開放的な環境が更新世に存在したことを示唆する証拠にも関わらず、サバンナ回廊の程度、さらには存在さえ、激しく議論されてきました。それは、いくつかのモデリングと長距離花粉データから、最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)の最寒冷期にさえ、熱帯雨林が存在したと示唆されているからです。こうした仮説の検証は、限定的な古環境データと、広範囲にわたる古生態学的評価の欠如により妨げられてきました。安定同位体の炭素13および酸素18の分析は、地域・大陸・地球規模での主要な環境事象の復元に長く用いられてきました。植物は光合成経路に応じて異なる炭素13値を有し、酸素18値は環境の水により変わります。これに基づく研究では、人類遺跡と関連する中型から大型の哺乳類の環境では、C3植物の優占する湿潤な森林と、C4植物により特徴づけられるより開放的で乾燥したサバンナの生物群系とが、どの程度存在したのか、という証拠が示されます。アジア南東部における同位体分析の適用はこれまで限定的でしたが、最近の研究では、古環境の指標として化石哺乳類の分析が始まっています。しかし、化石記録を適切に解釈し、地球生物学の記録を現代の文脈に位置づけるのに必要な現代の基準データは、ほとんど完全に欠落しています。

 本論文はこの問題に対処するため、アジア南東部で見つかった哺乳類63種の、269点の現代および歴史的標本の炭素13および酸素18データを報告します。これらは、前期更新世から現代に至る化石から得られた、644点の既知の炭素13および酸素18値と比較されます。一貫性と比較可能性のため、全事例で標本から得られた炭素13値は哺乳類の食性の炭素13値の推定に修正されました。本論文で組み合わされたデータセットは、アジアにおける哺乳類からの炭素13および酸素18値の最大の収集で、通時的な動物相および人類と関連したC3およびC4植物の分布の広範な傾向の検証が可能となります。以下、地域区分とサバンナの範囲と各標本の場所とを示した本論文の図1です。
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 本論文の結果から、前期更新世にはC3およびC4植物両方の消費者(草食動物を捕食する肉食動物も含めて)がアジア南東部に存在した、と示されます。しかし、これらの哺乳類は地域全体では不均一に分布していました。C3植物の消費者はおもにインドシナ地域に、C4植物の消費者はおもにスンダランドに存在します。草食動物と雑食動物の分布は、C3もしくはC4植物の優占する生態系全体で、有意な違いはありませんでした。中期更新世までに、スンダランドの記録ではC3植物の消費者がほとんどいなくなります。ほとんどの種は、C4植物の摂取と関連した範囲内に収まるか、程度は少ないものの、C3およびC4植物の混合摂食と関連する範囲に分類されます。中期更新世の始まりの頃に、炭素13食性の頂点が見られ、インドシナ地域では、より高い炭素13値へと向かうC3植物を消費する草食動物の変化と対応しています。これは雑食動物に影響を及ぼしていないようで、インドシナとスンダランド両地域全体の分布は、前期更新世の分布と類似しています。肉食動物はこの期間、C4植物を消費するグレーザーを好みます。後期更新世までに、ほとんどのスンダとインドシナの草食動物および雑食動物は、おもにC3植物を消費していました。これは肉食動物とは著しく対照的で、肉食動物のほとんどは、食性スペクトラムのC4末端で見つかりました。完新世までに、アジア南東部の哺乳類はおもにC3植物を消費するようになりました。

 C3植物とC4植物の間の顕著な違いを超えて、C3植物が優占する生態系内における、炭素13および酸素18のかなりの変動も見られます。最も低い炭素13食性値は、閉鎖的な林冠および亜林冠生息地に対応します。逆に、より高い炭素13値は、開けた林冠もしくは森林地帯で見られます。高い酸素18値は、林冠上部で採食する草葉食動物にも見られますが、下層を好む草葉食動物はより低い酸素18値を有します。アジア南東部では、ブラウザー(低木の葉や果実を食べるヤギやシカなどの採食動物)の炭素13および酸素18値の分布は、全期間で有意に異なります。事後分析からは、環境構造における有意な違いが通時的に存在する、と示唆されます。前期更新世のインドシナの遺跡では、炭素13値に基づくと、下層で摂食していたブラウザーが何種類かいます。中期更新世までに、下層のブラウザーは記録から消え、5個体のみが閉鎖的林冠と一致する値を有します。後期更新世には、インドシナ北部の遺跡で、層序化された閉鎖的林冠森の最初の明確な証拠が記録に現れ始めます。完新世には、インドシナとスンダランド両方のブラウザーが閉鎖的な林冠森を占めており、両地域ではひじょうに高い負の歪んだ分布を示します。時間の経過に伴って増加する森林階層は、完新世における林冠専門分類群の出現により支持されます。これは、下層・中層・上層の林冠で採食する種間における、漸進的にかつ有意に高くなる酸素18値により支持されます。

 全分類群におけるC3およびC4植物消費の地域的変化と、ブラウザー集団内の炭素13および酸素18値の変化は、共通の状況を明らかにします。大気中二酸化炭素の分圧の微妙な変動が、時間の経過とともに起きたかもしれず、これは森林被覆と正確に同等であるとして炭素13値の解釈に影響しますが、C3およびC4植物の相対的な存在量、もしくはC3植物が優占する環境内における変化に関して観察された程度を曖昧にするのに充分ではありません。本論文のデータからは、閉鎖的な林冠森との混合が前期更新世のインドシナに存在しており、その頃スンダランドは開けたサバンナ草原だった、と示されます。中期更新世の始まりまでには、スンダランドとインドシナの両地域では開けたサバンナが優占しますが、インドシナのサバンナはスンダランドよりも森林が多く、いくつかの開けた森林が持続しました。閉鎖的な林冠はインドシナで後期更新世に出現しましたが、スンダランドではおもに開けた林冠森が優占していました。完新世までに、インドシナとスンダランドの両地域では閉鎖的な林冠森が優占しました。

 これらの観察は全球気候モデルと一致しており、中期更新世移行期におけるかなりの変化を示唆します。125万~70万年前頃の、41000年周期から高振幅の10万年周期への変化は、海面温度のかなりの低下、氷床の増加、アジアの乾燥化とモンスーン強度の高まりと一致します。底生酸素同位体記録に見られる氷期周期の変化は、アジア南東部の哺乳類における炭素13および酸素18値で観察された頂点と一致します。乾燥状態が低下するにつれて、サバンナは森林へと変わっていきました。この過程は、スンダ大陸棚の沈下により、40万年前頃にさらに影響を受けました。この事象は、土地を著しく減少させて反射率を低下させたことで、大気の対流と地域の降雨量の増加につながりました。本論文のデータは、この時点での炭素13および酸素18値の減少の加速を示しており、森林に好適な条件への継続的傾向が示唆されます。

 遺跡の分布から、最大時にサバンナはインドシナからスンダランドへと広がり、この広大な地域全体で大型グレーザーの拡散を可能にした、と示唆されます。これらの生態系の拡大は、この地域における最大の人類多様性の時期と一致します(関連記事)。中期更新世と後期更新世の始まりの間、C4植物の優占する生息地の顕著な衰退が起き、この時期はアジア南東部におけるほぼ全ての人類系統が絶滅しました。これらの人類集団は、アジア南東部において優先するようになる、拡大する熱帯雨林生息地に柔軟に移行できなかったようで、サバンナと森林の混合環境に依存するこれらの種の地位を浮き彫りにします。対照的に、72000~45000年前頃のこの地域における現生人類(Homo sapiens)の到来は、熱帯低地常緑熱帯雨林の存在が拡大した時に起きています。サバンナ環境はいくつか断片的に持続し、ほぼ確実に現生人類により利用されましたが、現生人類はその生態的地位をアジア南東部で拡大し、豊富な熱帯雨林と海洋生息地を利用しました。このような環境に特殊化する能力は、末期更新世と完新世においてますます明らかになっています(関連記事)。

 これらの環境変化は、人類のみならず広く哺乳類の置換にも重要な役割を果たしました。前期更新世には、ほとんどの哺乳類は開けた森林の広範な生態空間を占めていました。唯一の例外は、閉鎖林冠森に限定されていた奇蹄類です。前期および中期更新世のC4植物が優占する環境の拡大と閉鎖林冠森の生物群系の衰退により、哺乳類は、開けた森林もしくはサバンナという二つの生態空間を占めるようになりました。齧歯類や霊長類や奇蹄類は開けた森林へと後退し、一方で肉食動物や偶蹄類やゾウ目はサバンナを利用しました。森林の喪失はおそらく、これまでに存在した最大の類人猿であるギガントピテクス・ブラッキー(Gigantopithecus blacki)の絶滅に影響を及ぼしました。安定同位体データや関連する動物相および歯の形態に基づくと、ギガントピテクス・ブラッキーはインドシナ北部の熱帯雨林環境に特化していたようで、中期更新世におけるその絶滅は、おそらく好適な生息地の喪失により起きました。またこれらの変化は、武陵山熊猫(Ailuropoda wulingshanensis)や中国で発見された絶滅イノシシ(Sus peii)のような、他の前期更新世ブラウザーの絶滅にも影響を及ぼしました。現在のアジア南東部の島々のほとんどが直接大陸とつながっていた中期更新世のサバンナの大規模な分布により、インドシナと在来の固有種の交換を通じて、スンダランド全域で新たな動物相群が形成されました。以下、中期更新世のアジア南東部に広がっていたサバンナの風景の想像図です。
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 中期更新世後期以降のより高密度の熱帯林冠への再帰は、この時点までに広範に拡散していた、草原に特化した種の絶滅に影響を及ぼしました。偶蹄目は開けた林冠森環境に移行し、この期間にはウシ族種(Bubalus palaeokerabau)やウシ亜科種(Duboisia santeng)のようなグレーザーの最後の記録が残っています。この生態空間には、霊長類や齧歯類もいました。しかし、この変化は、ゾウ目に示される食性の大幅な変化との比較で見劣りします。それは、ゾウ目種(Elephas hysudrindicus)やステゴドン種(Stegodon trigonocephalus)を含むグレーザー分類群の消滅と対応しています。この時点以降、ゾウとその近縁種は閉鎖的な林冠森に限定されるようになりました。サイとバクは後期更新世までに閉鎖的な林冠森に戻りましたが、LGMにおいて熱帯雨林の明らかな減少の影響を受けました。たとえば、スマトラサイはこの期間に対応する集団減少を示します。後期更新世には、開けた環境に適応していた、肉食動物の森林生態系への著しい移動と、ハイエナの主要な絶滅事象が見られます。完新世には、開放的および閉鎖的な林冠森という、主要な森林生態系の拡大が見られます。霊長類もこの時点で、より閉鎖的な林冠を伴う森への移行を示します。

 アジア南東部の哺乳類では、炭素13および酸素18値の両方で、保全と絶滅との間の有意な正の相関があり、より乾燥して開けた環境の喪失が絶滅のより高い危険性と関連している、と示唆されます。この相関は、たとえ現生種のみを考慮しても有意なままです。本論文のデータからは、前期~中期更新世における大型動物の絶滅は、おもにC4植物に適応していた分類群を含んでいた、と示されます。これらの分類群は、後期更新世に森林再拡大とサバンナ縮小に伴って拡散します。熱帯雨林種は現在、最大の絶滅危機にあります。これは、大型哺乳類の運命における環境変化の支配的役割を浮き彫りにします。アジア南東部の現代の熱帯雨林には、世界で最も絶滅の危機に瀕している動物がいます。これらの絶滅危惧種は、乱獲と森林伐採による生息地喪失の危機に曝されており、これら熱帯雨林分類群がとくに存在しなかった草原生態系への、人為的影響による回帰を表しています。したがって、本論文の長期的視点は、現在の保全優先事項に関連する重要な洞察を提供します。たとえば、オランウータンの食性は全期間で有意に異なっており、完新世では最低の平均炭素13値が見られます。これらの変化は、おそらく中期~後期完新世における人類による搾取および土地開発の増加と関連しており、それによりオランウータンはより深い熱帯雨林に追いやられ、孤立して脆弱になっています。

 第四紀における人類や他の大型動物の変化する適応を理解するには、堅牢な古生態学的データセットが不可欠です。そのような記録はアフリカでは長く利用可能でしたが、アジア南東部では最近まで存在しませんでした。本論文の結果から、広範なサバンナ環境の往来が人類と他の哺乳類の生物地理に大きな影響を有しており、サバンナと森林の混合環境に適応した動物相は、熱帯雨林適応種によって、中期更新世後期と後期更新世に生息地を奪われていきました。アジア南東部ではかつて多様な人類が存在していましたが、現在では変化する環境によく適応した現生人類のみとなりました。現在、人類の開発・大農場開拓・人口増加を主要な動因とする、より開けた草原環境への回帰は、アジア南東部および熱帯全体の人類集団の長期的持続可能性と同様に、熱帯世界で最も絶滅の危機に瀕している哺乳類の最大の脅威となっています。本論文は、これらの脅威を長期的文脈に位置づけるのに役立ち、現生人類の運命が典型的な固有の熱帯雨林群系の到来に伴ってより良い方向に変化した一方で、我々がこれらの生態系を永久に破壊する危機にいる、と示します。


 以上、本論文をざっと見てきました。本論文は、アジア南東部における第四紀(更新世および完新世)の環境の変遷と、それに大型動物の拡大と絶滅が相関していることを示しており、今後も参照され続ける有益な結果を提示している、と思います。本論文では、アジア南東部にはかつて多様なホモ属が存在したものの、後期更新世にサバンナが後退すると非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)は絶滅し、適応能力の高い現生人類のみが存続した、と主張されます。本論文では、アジア南東部には少なくとも5系統のホモ属が存在した、と指摘されています。これは、ジャワ島のエレクトス(Homo erectus)、フローレス島のフロレシエンシス(Homo floresiensis)、ルソン島のルゾネンシス(Homo luzonensis)、種区分未定のデニソワ人(Denisovan)、現生人類です。このうちデニソワ人に関しては、ゲノムデータからアジア南東部にも存在した可能性が高いと推測されていますが(関連記事)、遺骸はまだ確認されていません。

 また本論文では、アジア南東部の古代型ホモ属の絶滅要因として、中期更新世後期以降のサバンナの縮小を挙げます。ホモ属でも多様な環境に適応できたのは現生人類だけで、古代型ホモ属はサバンナもしくはサバンナ的環境(草原と疎林の混在)にしか適応していなかった、との見解は根強いように思います(関連記事)。しかし、初期ホモ属は遅くとも250万年前頃にはアフリカからユーラシアへと拡散し、210万年前頃までに現在の中国陝西省にも拡散していますから、サバンナもしくはサバンナ的環境以外の環境や環境変化にも一定以上適応できた可能性は高いように思います。おそらく古代型ホモ属の絶滅で最も多かった要因は、現生人類との競合なのでしょう。デニソワ人とフロレシエンシスとルゾネンシスは、その可能性が高いように思います。一方、エレクトスに関しては、ジャワ島における最後の痕跡が117000~108000年前頃なので(関連記事)、現生人類との競合ではなく、サバンナから熱帯雨林への移行が要因かもしれません。しかし、スンダランド、さらにはアジア南東部全域にまで範囲を拡大すると、現生人類との競合が絶滅要因だった、という可能性も充分考えられます。あるいは、エレクトスの競合相手はデニソワ人だったかもしれませんが、アジア南東部でデニソワ人遺骸が確認されるまでは強く主張できず、憶測に留めておきます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:東南アジアにおけるヒト族の進化を取り巻く環境的状況

 東南アジアへ移動した後のヒト族の進化は、中期更新世にサバンナだった地域が完新世までに密な熱帯雨林に置き換わるという気候変動を背景にして起こったことを明らかにした論文が、今週、Nature に掲載される。今回の分析から、東南アジアでのヒト族の進化を取り巻く環境的状況と、動物の絶滅との関連が明確になった。

 東南アジアはヒト族と哺乳類の移動と絶滅を解明する上で重要な地域である。以前の注目すべき発見によって、東南アジアにはヒト属の種が少なくとも5種生息していたことが明らかになっている。炭素同位体と酸素同位体の違いから過去の植物や利用可能な水量に関する手掛かりを得ることのできる安定同位体試験は、アフリカでのこうしたヒト族の進化的変化を取り巻く環境的状況を明らかにするために長い間用いられてきたが、東南アジアに関してはほとんど調べられていなかった。

 Julien LouysとPatrick Robertsは今回の論文で、第四紀(260万年前~現在)を通じた東南アジアの哺乳類の安定同位体データの大規模データセットを示した。このデータから、前期更新世(約260万~77万4000年前)に森林だった地域が、中期更新世(約77万4000年前~)までにサバンナへと変化し、これが、草食動物の分布拡大とブラウザー(低木の葉や果実を食べるヤギやシカなどの採食動物)の絶滅につながったことが明らかになった。サバンナは、後期更新世(約12万9000年前~)に後退し、完新世(1万1700年前)までに完全に消失して、林冠の閉鎖した熱帯雨林に取って代わられた。この変化により、サバンナや森林が生息地だったホモ・エレクトス(Homo erectus)やその他の動物が犠牲になり、熱帯雨林に適応した動物種と適応能力の高いホモ・サピエンス(Homo sapiens)が優勢になった。


生態学:東南アジアにおける大型動物相とヒト族の絶滅の環境的駆動要因

生態学:ヒト族進化における東南アジアの環境

 アフリカでは、気候変動に伴い、閉鎖林が疎林や開けた土地からなるより多様性の高い環境へと移り変わったことを背景に、ヒト族が進化した。今回J LouysとP Robertsが東南アジアで行った炭素と酸素の安定同位体データの大規模収集から、この地域でのヒト族進化の背景がアフリカとは逆であったことが示された。後期更新世の東南アジアでは、西方へとつながるサバンナの「回廊」は残ったものの、アフリカとは対照的に、草原がより森林の多い環境に取って代わられていたのである。



参考文献:
Louys J, and Roberts P.(2020): Environmental drivers of megafauna and hominin extinction in Southeast Asia. Nature, 586, 7829, 402–406.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2810-y

この記事へのコメント

チェンジ
2020年10月20日 06:45
管理人さんは想定してるか?分かりませんが、私はこれハプロの西進と関係してるんじゃないか?と見てるのですけど。

ハプロで遺伝をとらえるのはまずいのは分かってますが、石器しか分からないような状況ならある程度参考にしてもいいとは思うのと、Pの西進は一応古人骨DNAの調査と重なっています。

ただその時代が新石器時代以降なので大きくずれるのですが、イラン農耕民と草原牧畜民の影響が少なかったインドの状況が分かるってのは大きいかと。

問題があるとすると大半が現代人でごくごく一部偏った地域の古人骨って点ですが、重要なのはKPが生まれたのが東南アジアだとしてもアジア北上からのアルタイってルートもある点で、何故わざわざ西進なのか?と言うと私も結果からそうだとしか言えないと。

転々とインドにPが過去合ったことはあったと。それを結ぶとヒマラヤ北側を北上するルートが見えます。


さてポイントは今回のこの記事はとても参考になりました。中東でいまいち人類が伸びなかったのはネアンデルタールとの競合に優位に立てなかったからでは?と言う推測があります。

じゃ何故インド東南アジアは違ったのか?でこれだと思う内容でした。現生人類だけが森林に適応できたからではないか?です。

これハプロの西進の根拠になりませんかね。当然Y染色体が偏った直系情報になってるのは理解した上での事です。
管理人
2020年10月21日 03:09
本論文は、アジア南東部における森林(熱帯雨林)への適応で現生人類が他のホモ属に対して優位に立っていた可能性を指摘するものであり、アジア南東部の初期現生人類が西方(ユーラシア西部)の初期現生人類に対して、YHgとmtHgの置換に至るような優位に立っていた証拠を提示しているわけではないので、YHgとmtHgのアジア南東部起源西進説の状況証拠にはならないでしょう。

熱帯雨林は人類にとって生産性が低い極限環境の一つとされており、後期更新世にアジア南東部で熱帯雨林が拡大したならば、そこに拡散した初期現生人類が他地域の現生人類に対して、YHgとmtHgの置換に至るような社会的優位に立つ可能性はかなり低いでしょう。その意味で本論文は、どちらかと言えば、YHgとmtHgのアジア南東部起源西進説に否定的な証拠を提示している、と思います。もちろん、強い証拠ではありませんし、適応度に違いをもたらすような遺伝的変異を想定すればあり得る、とも言えるかもしれませんが。

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