貧困層の人々の富裕層への課税に対する支持
貧困層の人々の富裕層への課税に対する支持に関する研究(Sands, and de Kadt., 2020)が公表されました。心理学研究から、個人の態度形成は仲間や他者との社会的比較によって形作られる、と示されています。人々は、不平等に関する情報を提示されると行動を変え、たとえば、気前が悪くなったり、協力的でなくなったりする、と明らかになっています。そうした比較の機会は世界的な不平等の拡大とともに増えており、それは、日常的な経験が社会的階級のシグナルを介して経済格差をより顕著にし得るからです。しかし、現実世界における不平等を思い起こさせる物理的実体に対して個人がどのような応答をするのかについては、あまり分かっていません。
この研究は、社会経済的地位の低い人々では、そうした不平等への身近な曝露により富の再分配への支持が駆動されることを示しています。この研究は、社会経済的地位の低い人々が、ランダム化された高級車の存在を通して不平等を想起させる実世界の対象に遭遇する、というプラセボ対照野外実験を設計し、南アフリカの複数の地区で実施しました。この実験では、通行人に対して、富の再分配に役立てるための富裕層への増税を求める請願書への署名を求める場合と、原子力発電を代替エネルギー源に切り替えることの請願書を見せる場合とが設定されました。その結果、実験的プラセボ効果を考慮に入れると、近くの路上に高級車を停めておくという不平等の存在下では、請願書に署名する確率が11パーセントポイント上昇する、と明らかになりました。全体的に見て、高級車が停めてあった場合に、通行人が原子力発電所の請願書に署名する確率は相当に低くなりましたが、対照群が税金に関する請願書に署名する確率とあまり変わりませんでした。
このプラセボ効果は、個人が請願書に署名する一般的な確率を低下させ、これは、社会的な上方比較が政治的有効性を低下させることを示す証拠と一致します。経済的不平等の尺度は地域レベルで構築され、社会経済的地位の低い人々の調査結果と結びつけられました。不平等への身近な曝露は、経済格差に取り組むための富裕層への課税に対する支持と正に関連する、と明らかになりました。不平等は身近な曝露を通して富の再分配への選好性に影響を及ぼす、と推測されます。しかし、この研究の結果は不平等が参加を抑制する可能性も示しており、そのため、これらの知見がより広い地域規模または国家規模で持つ政治的な意味合いについては、まだ不確かです。こうした心理の進化的基盤という観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
人間行動:不平等を目の当たりにすると富裕層への課税を支持する気持ちが増す
南アフリカ共和国の低所得者居住地域の住民は、不平等を思い起こさせる物理的実体が存在すると、富裕層への課税を要求する確率が高くなることを示唆する研究論文が、今週、Nature に掲載される。不平等な社会では経済格差が至る所に存在するため、今回の研究は、あまり裕福ではない人々が社会的不平等に対して行動を起こすきっかけとなる状況について重要な知見をもたらしている。
これまでの調査や実験室での研究で、人々は、不平等に関する情報を提示されると行動を変え、例えば、気前が悪くなったり、協力的でなくなったりすることが明らかになっている。しかし、現実世界における不平等を思い起こさせる物理的実体に対して個人がどのような応答をするのかについては、あまり分かっていない。
今回、Melissa SandsとDaniel de Kadtは、高級車の存在が富裕層への課税に関する人々の意見に影響を与えたかどうかを調べた。今回の研究では、南アフリカ生まれの人が、南アフリカのソウェトの低所得者居住地域の繁華街で請願活動を行い、通行人に対して請願書への署名を募った。この調査では、富裕層への課税強化の請願書を見せる場合と原子力発電を代替エネルギー源に切り替えることの請願書を見せる場合を設定した。その結果、近くの路上に高級車を停めておいた場合には、富裕税への支持が増えたが、その一方で、請願書に署名する意欲が抑制されたことも分かった。Sandsとde Kadtは、請願書に署名する意欲が抑制される点を補正した上で、富裕層課税の請願書署名者の割合が11ポイント増えたと報告している。全体的に見て、高級車が停めてあった場合に、通行人が原子力発電所の請願書に署名する確率が相当に低くなったが、対照群が税金に関する請願書に署名する確率とあまり変わらなかった。
同時掲載されるColin TredouxとJohn DixonによるNews & Viewでは「Sandsとde Kadtの研究は、人々が、不平等を思い起こさせる物理的実体を毎日見ていると、抵抗行動に駆り立てられることを明らかにしている」と記されている。あまり裕福ではない人々に署名を働きかけると、規範的抗議行動(例えば、政府が所管する徴税の要求)を取る傾向が強い。このことが、有意義な貢献となって、永続的な変化につながるかどうかは、いまだに分かっていない。
人間行動:不平等への身近な曝露は、貧困層の人々の富裕層への課税に対する支持を高める
人間行動:人々を不平等にさらすと富裕層への課税に対する支持が高まる
我々は常に自分と他者を比較している。社会的比較というこの習慣を使って、不平等を緩和することは可能なのか。M SandsとD de Ladtは今回、南アフリカの社会経済的地位の低さと関連付けられている複数の地区において、高級車が存在する場合には存在しない場合よりも、人々が富の再分配のための課税を求める請願書に署名する確率が高まることを明らかにしている。地区レベルの分析結果をまとめたところ、不平等への身近な曝露が、経済格差に取り組むための富裕層への課税に対する支持と関連付けられることが示された。
参考文献:
Sands ML, and de Kadt D.(2020): Local exposure to inequality raises support of people of low wealth for taxing the wealthy. Nature, 586, 7828, 257–261.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2763-1
この研究は、社会経済的地位の低い人々では、そうした不平等への身近な曝露により富の再分配への支持が駆動されることを示しています。この研究は、社会経済的地位の低い人々が、ランダム化された高級車の存在を通して不平等を想起させる実世界の対象に遭遇する、というプラセボ対照野外実験を設計し、南アフリカの複数の地区で実施しました。この実験では、通行人に対して、富の再分配に役立てるための富裕層への増税を求める請願書への署名を求める場合と、原子力発電を代替エネルギー源に切り替えることの請願書を見せる場合とが設定されました。その結果、実験的プラセボ効果を考慮に入れると、近くの路上に高級車を停めておくという不平等の存在下では、請願書に署名する確率が11パーセントポイント上昇する、と明らかになりました。全体的に見て、高級車が停めてあった場合に、通行人が原子力発電所の請願書に署名する確率は相当に低くなりましたが、対照群が税金に関する請願書に署名する確率とあまり変わりませんでした。
このプラセボ効果は、個人が請願書に署名する一般的な確率を低下させ、これは、社会的な上方比較が政治的有効性を低下させることを示す証拠と一致します。経済的不平等の尺度は地域レベルで構築され、社会経済的地位の低い人々の調査結果と結びつけられました。不平等への身近な曝露は、経済格差に取り組むための富裕層への課税に対する支持と正に関連する、と明らかになりました。不平等は身近な曝露を通して富の再分配への選好性に影響を及ぼす、と推測されます。しかし、この研究の結果は不平等が参加を抑制する可能性も示しており、そのため、これらの知見がより広い地域規模または国家規模で持つ政治的な意味合いについては、まだ不確かです。こうした心理の進化的基盤という観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
人間行動:不平等を目の当たりにすると富裕層への課税を支持する気持ちが増す
南アフリカ共和国の低所得者居住地域の住民は、不平等を思い起こさせる物理的実体が存在すると、富裕層への課税を要求する確率が高くなることを示唆する研究論文が、今週、Nature に掲載される。不平等な社会では経済格差が至る所に存在するため、今回の研究は、あまり裕福ではない人々が社会的不平等に対して行動を起こすきっかけとなる状況について重要な知見をもたらしている。
これまでの調査や実験室での研究で、人々は、不平等に関する情報を提示されると行動を変え、例えば、気前が悪くなったり、協力的でなくなったりすることが明らかになっている。しかし、現実世界における不平等を思い起こさせる物理的実体に対して個人がどのような応答をするのかについては、あまり分かっていない。
今回、Melissa SandsとDaniel de Kadtは、高級車の存在が富裕層への課税に関する人々の意見に影響を与えたかどうかを調べた。今回の研究では、南アフリカ生まれの人が、南アフリカのソウェトの低所得者居住地域の繁華街で請願活動を行い、通行人に対して請願書への署名を募った。この調査では、富裕層への課税強化の請願書を見せる場合と原子力発電を代替エネルギー源に切り替えることの請願書を見せる場合を設定した。その結果、近くの路上に高級車を停めておいた場合には、富裕税への支持が増えたが、その一方で、請願書に署名する意欲が抑制されたことも分かった。Sandsとde Kadtは、請願書に署名する意欲が抑制される点を補正した上で、富裕層課税の請願書署名者の割合が11ポイント増えたと報告している。全体的に見て、高級車が停めてあった場合に、通行人が原子力発電所の請願書に署名する確率が相当に低くなったが、対照群が税金に関する請願書に署名する確率とあまり変わらなかった。
同時掲載されるColin TredouxとJohn DixonによるNews & Viewでは「Sandsとde Kadtの研究は、人々が、不平等を思い起こさせる物理的実体を毎日見ていると、抵抗行動に駆り立てられることを明らかにしている」と記されている。あまり裕福ではない人々に署名を働きかけると、規範的抗議行動(例えば、政府が所管する徴税の要求)を取る傾向が強い。このことが、有意義な貢献となって、永続的な変化につながるかどうかは、いまだに分かっていない。
人間行動:不平等への身近な曝露は、貧困層の人々の富裕層への課税に対する支持を高める
人間行動:人々を不平等にさらすと富裕層への課税に対する支持が高まる
我々は常に自分と他者を比較している。社会的比較というこの習慣を使って、不平等を緩和することは可能なのか。M SandsとD de Ladtは今回、南アフリカの社会経済的地位の低さと関連付けられている複数の地区において、高級車が存在する場合には存在しない場合よりも、人々が富の再分配のための課税を求める請願書に署名する確率が高まることを明らかにしている。地区レベルの分析結果をまとめたところ、不平等への身近な曝露が、経済格差に取り組むための富裕層への課税に対する支持と関連付けられることが示された。
参考文献:
Sands ML, and de Kadt D.(2020): Local exposure to inequality raises support of people of low wealth for taxing the wealthy. Nature, 586, 7828, 257–261.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2763-1
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