森恒二『創世のタイガ』第7巻(講談社)
本書は2020年9月に刊行されました。第7巻は、タイガたちのいる現生人類(Homo sapiens)の集落がネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)に襲撃され、リカとユカなど拉致された女性たちをタイガたちが奪回に行く場面から始まります。タイガにより飼われている狼のウルフが敵であるネアンデルタール人の気配を察知し、タイガたちはネアンデルタール人を発見して攻撃しますが、ネアンデルタール人は少なく、逃げるばかりでした。またしてもネアンデルタール人たちの囮に引っかかった、とタイガたちは悟ります。
奪回部隊を率いるナクムの指示により、アキルという男性が捕虜になったネアンデルタール人男性に拉致された女性たちの行方を尋問します。アキルは現生人類とネアンデルタール人との間に生まれ、ネアンデルタール人社会で育ったこともあるか、以前は現生人類とネアンデルタール人との間の穏やかな交流もあり、その時にネアンデルタール人の言語を習得したのでしょうか。或いは、捕虜にしたネアンデルタール人から言語を習得したのかもしれません。女性たちはもう遠くに連れ去られた、と聞いたナクムたちは愕然とします。アラタは、ネアンデルタール人が陽動作戦をとったことに衝撃を受けていました。ネアンデルタール人は、タイガたちが狼を使うと想定して囮部隊を用意していた、というわけです。
集落の守りもあるため、奪回部隊の半数は集落に戻ることになります。タイガはティアリに集落に戻るよう促しますが、ティアリは奪回部隊に戻ります。二十数人となった奪回部隊は、2~3倍はいると思われるネアンデルタール人相手に強い不安を抱きつつも立ち向かおうとします。タイガたちのいる集落を襲撃したネアンデルタール人たちは、一時的な野営地と思われる場所に集まり、宴会を開いていました。現生人類の女性たちはネアンデルタール人男性に次々と犯されていき、ユカも犯されますが、その間もユカは呆然としたままでした。
夜、奪回部隊は休憩していましたが、ティアリは休んでいる暇はない、と焦り、兄のナクムに抗議します。タイガはティアリから、ネアンデルタール人が現生人類の女性を奴隷とするために拉致したのではない、と聞かされます。以前のネアンデルタール人は、現生人類の女性たちを拉致しても殺さず、子供を産ませて奴隷にしていましたが、今は現生人類の女性たちを拉致して奴隷にしてもすぐに殺し、子供を産ませてもその子供さえ殺すようになりました。史実では、現生人類が勢力を拡大して北のネアンデルタール人が滅ぶはずなのに、現在勢力を拡大しているのは軍隊のように組織的な行動をとるネアンデルタール人であることに、アラタは強い疑問と不安を抱きます。このままでは、滅ぶのは現生人類の方だ、というわけです。タイガは、そうさせないために自分たちは来た、リカコもユカも殺させない、と強く誓います。そもそも、自分がオーストラリアへの旅行で洞窟を見ようと提案したことで、過去に行ってしまったことを思い出したアラタは、強く後悔します。
偵察に出ていた男から、ネアンデルタール人が「熊の岩山」と呼ばれる拠点にいる、との報告が奪回部隊に入ります。昔そこには現生人類が住んでいたそうですが、南下してきたネアンデルタール人に奪われたようです。ネアンデルタール人たちは拠点で宴会を開いており、女たちを連れて帰って奴隷にしたい、と言ってきた男たちに、指揮官らしきドゥクスは要請を却下します。自分たちの新たな王は「色つき」を認めない、「色つき混じり者」を全て殺す、北の民(ネアンデルタール人)だけが人間なのだ、と言います。
ネアンデルタール人の砦を見つけた奪回部隊は、ナクムの方針により、ネアンデルタール人たちの一部が狩猟に出かけた隙を襲撃することにしました。20~30人のネアンデルタール人が狩猟に出たことを確認した奪回部隊は、20人程度しかいないのに、70人のネアンデルタール人たちを襲撃しようとしていました。ナクムは、まず投槍で敵をできるだけ減らし、敵に武装させる隙を与えないよう、指示を出します。ついに奪回部隊はネアンデルタール人に襲いかかり、最初の投槍で12~13人を倒しますが、依然として人数で不利な状況は変わりません。しかし、狼のウルフも襲撃に加わり、奇襲効果もあってネアンデルタール人たちを退却させます。しかし、ドゥクスが支持を出すと、狼狽していたネアンデルタール人たちは奪回部隊を包囲するように陣形を組みます。包囲された奪回部隊は、ナクムの攻撃により包囲網に穴を開け、そこから突破しようとします。格闘技を学んでいたタイガはそれを剣術に応用し、剣術を知らないネアンデルタール人に対して優位に立ちます。タイガには、戦いの中でも冷静さを保つ精神力があり、「戦士」として成長していました。
包囲を破った奪回部隊は、捕虜となっていた女性たちを発見し、アラタが女性たちを解放します。奪回部隊も半数を失ったものの、ネアンデルタール人も少なくなり、まだウルフもナクムも健在であることから、タイガは勝利を確信します。ところが、ネアンデルタール人が狼煙を上げているのを見たタイガは、狩猟に行ったネアンデルタール人たちが戻って来ると悟り、早く脱出するよう、ナクムに促します。しかし間に合わず、30~40人のネアンデルタール人たちが襲撃してきます。絶望的な状況の中、タイガは諦めず強い戦意を示しますが、ドゥクスは冷静で、配下のネアンデルタール人たちに槍を投げるよう、指示を出します。絶体絶命の状況に奪回部隊の戦意が喪失しかける中、突如として大きな鳴き声とともに、マンモスが現れます。それがかつて命を救ったアフリカだと気づいたタイガは、アフリカに乗ってネアンデルタール人たちに反撃します。突然のマンモスの出現に狼狽したネアンデルタール人たちは敗走し、ドゥクスはこの信じがたい状況を見て、タイガも自分たちの王と同じ神なのか、と驚きます。私も含めて、アフリカが登場した時からこのような展開を予想していた人は少なくなかったでしょうから、もう少しひねってもよかったのではないか、とも思います。
こうしてネアンデルタール人に拉致されていた現生人類の女性たちも解放されますが、ユカはタイガを知らない人のように呆然と眺めるだけでした。アラタは、ネアンデルタール人が軍隊のような組織を持っていることに強い疑問を抱いていました。カシンは現生人類の言葉を少し話せるネアンデルタール人の捕虜を尋問し、その呻き声に気づいたタイガとアラタも向かいます。なぜ自分たちを殺そうとするのか、とカシンに問われたネアンデルタール人の捕虜は、「王」の命令だからだ、と答えます。しかし、カシンもナクムも「王」とは何なのか、知りません。「王」とは何者なのか、ナクムに問われたネアンデルタール人の捕虜は、嘲笑するように、お前たちには分からない、と答えます。お前たち「色つき」は人ではない、「王」は「神」の子供でこの世界を統べる者だ、この世界は「王」と血を分けた我々「白き者」の世界だ、とネアンデルタール人の捕虜は言い、アラタは愕然としますが、ナクムは「神」とは何か知りません。ネアンデルタール人の捕虜はナクムたちを、お前たち不浄の者・「色つき」の者は滅びる、我々「白き者」だけが唯一の「人」だ、王はお前たち「色つき」を滅ぼし、清浄な(正常な?)大地を取り戻す、お前たちは我々により滅ぼされる、と言って嘲笑します。これは重要な情報ですが、ナクムたちの部族の言葉で「王」や「神」をネアンデルタール人がどう表現したのか、それをタイガやアラタがどうやって理解できたのか、ということは気になります。まあ、これは創作ものですから、気にせず受け入れるべきなのかもしれませんが。
奪回部隊が集落に戻ると、マンモスを見て最初は驚いた人々も、仲間を見て歓喜します。タイガから、「王」とは一族や他の部族や土地も支配する「大きな力を持つ者」という意味で、人々の上に立つと言われており、人々を滅ぼそうとする危険な王もいる、と聞かされた賢者ムジャンジャは、先代や先々代の賢者からも聞かされていなかった事態だと悟ります。これまで、ネアンデルタール人と現生人類の間に争いはあっても、互いを滅ぼそうとはしませんでしたが、ネアンデルタール人は拉致した現生人類を殺し、拉致した女性に産ませた子供も殺すようになりました。ムジャンジャはナクムに、見て感じたことを信じ、決断するよう促します。一族を率いて生きる道を探し、滅んではならない、というわけです。ネアンデルタール人が自分たちを滅ぼすつもりだと知ったナクムは戦いを決断し、タイガに共闘を要請し、タイガは即座に快諾します。あくまでも戦いを避けようとして現実逃避するレンをリカコは叱責し、アラタはレンに、共に戦うか女性や子供たちと隠れるか、選択するよう迫ります。タイガは、ここが自分たちの知る歴史ではないと考え、傍観者ではいられないので、命懸けで「今」を生きるしかない、と決意します。
ホラアナグマの狩猟などで現生人類の結束はますます高まりますが、ナクムは、カシンたちが何度か見たネアンデルタール人の大群が気がかりでした。ネアンデルタール人の方はバラバラだった者たちを統一した王がいるのに、現生人類の方は部族がバラバラであることを懸念するナクムは、自分たちにも王が必要だと考え、タイガに自分たちの王となるよう、要請します。しかしタイガは、ナクムこそが王だ、と言います。自分たちが何のためにここに来たのか、ずっと考えていたタイガは、王になる男を助けるためだ、との結論に至りました。皆を率いて現生人類を救う男こそが王たるべきナクムなのだ、とタイガがナクムに力説するところで第7巻は終了です。
第7巻は、ひじょうに重要な情報が明かされ、たいへん楽しめました。そもそも、タイガたち21世紀(で間違いないと思います)の大学生が更新世にタイムスリップするという点で非現実的な設定ですから、これまでは当時の状況が比較的忠実に描かれてきたとはいえ、実際とは何かの点で大きく異なる世界だったとしても不思議ではありません。本作の世界は、神のような超越的な存在、あるいはタイムスリップが可能となった未来世界の人々による実験で、タイガたち人類学のゼミ生が選ばれた、ということでしょうか。
この謎の核心に迫りそうな情報が、ネアンデルタール人の捕虜から語られました。ネアンデルタール人には新たな「王」がおり、この「王」は神の子供で、「王」と血を分けた「白き者」たるネアンデルタール人が「色つき」の者たる現生人類を滅ぼすよう命じた、というわけです。この「王」は組織化に長けており、軍隊の訓練も指示しているようです。そうすると、ネアンデルタール人の「王」も未来からタイムスリップしてきた、ということでしょうか。「白き者」が「色つき」を滅ぼすよう命じていることから、この「王」からは白人至上主義的な思想が窺えます。とはいえ、ネアンデルタール人と現生人類は異なりますから、白人至上主義者がネアンデルタール人の「王」となり、ネアンデルタール人に肩入れするのも変だとは思います。
ただ、ネアンデルタール人がまだあまり知られていなかった、というか人類進化史において正確には位置づけられていなかった19世紀後半の白人至上主義的な人物ならば、あるいはアフリカ起源の肌の色の濃い現生人類に対して、肌の色が薄かっただろうネアンデルタール人に肩入れして、現生人類を滅ぼそうと考えることもあり得るかな、とは思います。あるいは、ネアンデルタール人に強い思い入れを抱いている狂信的な人物なのでしょうか。もっとも、単に当時のネアンデルタール人と現生人類に未来人が知恵を授けてどの程度のことができるのか、また史実とどう変わるのか、と思いついた気まぐれで冷酷な未来人もしくは神のような超越的存在によるゲームのようなものなのかもしれません。まあ、ネアンデルタール人の肌の色については議論があり、ネアンデルタール人の肌と髪の色も、現代人と同じく多様だったのではないか、と推測する研究もあります(関連記事)。なお、第1巻~第6巻までの記事は以下の通りです。
第1巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201708article_27.html
第2巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201801article_28.html
第3巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201806article_42.html
第4巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201810article_57.html
第5巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201905article_44.html
第6巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201911article_41.html
奪回部隊を率いるナクムの指示により、アキルという男性が捕虜になったネアンデルタール人男性に拉致された女性たちの行方を尋問します。アキルは現生人類とネアンデルタール人との間に生まれ、ネアンデルタール人社会で育ったこともあるか、以前は現生人類とネアンデルタール人との間の穏やかな交流もあり、その時にネアンデルタール人の言語を習得したのでしょうか。或いは、捕虜にしたネアンデルタール人から言語を習得したのかもしれません。女性たちはもう遠くに連れ去られた、と聞いたナクムたちは愕然とします。アラタは、ネアンデルタール人が陽動作戦をとったことに衝撃を受けていました。ネアンデルタール人は、タイガたちが狼を使うと想定して囮部隊を用意していた、というわけです。
集落の守りもあるため、奪回部隊の半数は集落に戻ることになります。タイガはティアリに集落に戻るよう促しますが、ティアリは奪回部隊に戻ります。二十数人となった奪回部隊は、2~3倍はいると思われるネアンデルタール人相手に強い不安を抱きつつも立ち向かおうとします。タイガたちのいる集落を襲撃したネアンデルタール人たちは、一時的な野営地と思われる場所に集まり、宴会を開いていました。現生人類の女性たちはネアンデルタール人男性に次々と犯されていき、ユカも犯されますが、その間もユカは呆然としたままでした。
夜、奪回部隊は休憩していましたが、ティアリは休んでいる暇はない、と焦り、兄のナクムに抗議します。タイガはティアリから、ネアンデルタール人が現生人類の女性を奴隷とするために拉致したのではない、と聞かされます。以前のネアンデルタール人は、現生人類の女性たちを拉致しても殺さず、子供を産ませて奴隷にしていましたが、今は現生人類の女性たちを拉致して奴隷にしてもすぐに殺し、子供を産ませてもその子供さえ殺すようになりました。史実では、現生人類が勢力を拡大して北のネアンデルタール人が滅ぶはずなのに、現在勢力を拡大しているのは軍隊のように組織的な行動をとるネアンデルタール人であることに、アラタは強い疑問と不安を抱きます。このままでは、滅ぶのは現生人類の方だ、というわけです。タイガは、そうさせないために自分たちは来た、リカコもユカも殺させない、と強く誓います。そもそも、自分がオーストラリアへの旅行で洞窟を見ようと提案したことで、過去に行ってしまったことを思い出したアラタは、強く後悔します。
偵察に出ていた男から、ネアンデルタール人が「熊の岩山」と呼ばれる拠点にいる、との報告が奪回部隊に入ります。昔そこには現生人類が住んでいたそうですが、南下してきたネアンデルタール人に奪われたようです。ネアンデルタール人たちは拠点で宴会を開いており、女たちを連れて帰って奴隷にしたい、と言ってきた男たちに、指揮官らしきドゥクスは要請を却下します。自分たちの新たな王は「色つき」を認めない、「色つき混じり者」を全て殺す、北の民(ネアンデルタール人)だけが人間なのだ、と言います。
ネアンデルタール人の砦を見つけた奪回部隊は、ナクムの方針により、ネアンデルタール人たちの一部が狩猟に出かけた隙を襲撃することにしました。20~30人のネアンデルタール人が狩猟に出たことを確認した奪回部隊は、20人程度しかいないのに、70人のネアンデルタール人たちを襲撃しようとしていました。ナクムは、まず投槍で敵をできるだけ減らし、敵に武装させる隙を与えないよう、指示を出します。ついに奪回部隊はネアンデルタール人に襲いかかり、最初の投槍で12~13人を倒しますが、依然として人数で不利な状況は変わりません。しかし、狼のウルフも襲撃に加わり、奇襲効果もあってネアンデルタール人たちを退却させます。しかし、ドゥクスが支持を出すと、狼狽していたネアンデルタール人たちは奪回部隊を包囲するように陣形を組みます。包囲された奪回部隊は、ナクムの攻撃により包囲網に穴を開け、そこから突破しようとします。格闘技を学んでいたタイガはそれを剣術に応用し、剣術を知らないネアンデルタール人に対して優位に立ちます。タイガには、戦いの中でも冷静さを保つ精神力があり、「戦士」として成長していました。
包囲を破った奪回部隊は、捕虜となっていた女性たちを発見し、アラタが女性たちを解放します。奪回部隊も半数を失ったものの、ネアンデルタール人も少なくなり、まだウルフもナクムも健在であることから、タイガは勝利を確信します。ところが、ネアンデルタール人が狼煙を上げているのを見たタイガは、狩猟に行ったネアンデルタール人たちが戻って来ると悟り、早く脱出するよう、ナクムに促します。しかし間に合わず、30~40人のネアンデルタール人たちが襲撃してきます。絶望的な状況の中、タイガは諦めず強い戦意を示しますが、ドゥクスは冷静で、配下のネアンデルタール人たちに槍を投げるよう、指示を出します。絶体絶命の状況に奪回部隊の戦意が喪失しかける中、突如として大きな鳴き声とともに、マンモスが現れます。それがかつて命を救ったアフリカだと気づいたタイガは、アフリカに乗ってネアンデルタール人たちに反撃します。突然のマンモスの出現に狼狽したネアンデルタール人たちは敗走し、ドゥクスはこの信じがたい状況を見て、タイガも自分たちの王と同じ神なのか、と驚きます。私も含めて、アフリカが登場した時からこのような展開を予想していた人は少なくなかったでしょうから、もう少しひねってもよかったのではないか、とも思います。
こうしてネアンデルタール人に拉致されていた現生人類の女性たちも解放されますが、ユカはタイガを知らない人のように呆然と眺めるだけでした。アラタは、ネアンデルタール人が軍隊のような組織を持っていることに強い疑問を抱いていました。カシンは現生人類の言葉を少し話せるネアンデルタール人の捕虜を尋問し、その呻き声に気づいたタイガとアラタも向かいます。なぜ自分たちを殺そうとするのか、とカシンに問われたネアンデルタール人の捕虜は、「王」の命令だからだ、と答えます。しかし、カシンもナクムも「王」とは何なのか、知りません。「王」とは何者なのか、ナクムに問われたネアンデルタール人の捕虜は、嘲笑するように、お前たちには分からない、と答えます。お前たち「色つき」は人ではない、「王」は「神」の子供でこの世界を統べる者だ、この世界は「王」と血を分けた我々「白き者」の世界だ、とネアンデルタール人の捕虜は言い、アラタは愕然としますが、ナクムは「神」とは何か知りません。ネアンデルタール人の捕虜はナクムたちを、お前たち不浄の者・「色つき」の者は滅びる、我々「白き者」だけが唯一の「人」だ、王はお前たち「色つき」を滅ぼし、清浄な(正常な?)大地を取り戻す、お前たちは我々により滅ぼされる、と言って嘲笑します。これは重要な情報ですが、ナクムたちの部族の言葉で「王」や「神」をネアンデルタール人がどう表現したのか、それをタイガやアラタがどうやって理解できたのか、ということは気になります。まあ、これは創作ものですから、気にせず受け入れるべきなのかもしれませんが。
奪回部隊が集落に戻ると、マンモスを見て最初は驚いた人々も、仲間を見て歓喜します。タイガから、「王」とは一族や他の部族や土地も支配する「大きな力を持つ者」という意味で、人々の上に立つと言われており、人々を滅ぼそうとする危険な王もいる、と聞かされた賢者ムジャンジャは、先代や先々代の賢者からも聞かされていなかった事態だと悟ります。これまで、ネアンデルタール人と現生人類の間に争いはあっても、互いを滅ぼそうとはしませんでしたが、ネアンデルタール人は拉致した現生人類を殺し、拉致した女性に産ませた子供も殺すようになりました。ムジャンジャはナクムに、見て感じたことを信じ、決断するよう促します。一族を率いて生きる道を探し、滅んではならない、というわけです。ネアンデルタール人が自分たちを滅ぼすつもりだと知ったナクムは戦いを決断し、タイガに共闘を要請し、タイガは即座に快諾します。あくまでも戦いを避けようとして現実逃避するレンをリカコは叱責し、アラタはレンに、共に戦うか女性や子供たちと隠れるか、選択するよう迫ります。タイガは、ここが自分たちの知る歴史ではないと考え、傍観者ではいられないので、命懸けで「今」を生きるしかない、と決意します。
ホラアナグマの狩猟などで現生人類の結束はますます高まりますが、ナクムは、カシンたちが何度か見たネアンデルタール人の大群が気がかりでした。ネアンデルタール人の方はバラバラだった者たちを統一した王がいるのに、現生人類の方は部族がバラバラであることを懸念するナクムは、自分たちにも王が必要だと考え、タイガに自分たちの王となるよう、要請します。しかしタイガは、ナクムこそが王だ、と言います。自分たちが何のためにここに来たのか、ずっと考えていたタイガは、王になる男を助けるためだ、との結論に至りました。皆を率いて現生人類を救う男こそが王たるべきナクムなのだ、とタイガがナクムに力説するところで第7巻は終了です。
第7巻は、ひじょうに重要な情報が明かされ、たいへん楽しめました。そもそも、タイガたち21世紀(で間違いないと思います)の大学生が更新世にタイムスリップするという点で非現実的な設定ですから、これまでは当時の状況が比較的忠実に描かれてきたとはいえ、実際とは何かの点で大きく異なる世界だったとしても不思議ではありません。本作の世界は、神のような超越的な存在、あるいはタイムスリップが可能となった未来世界の人々による実験で、タイガたち人類学のゼミ生が選ばれた、ということでしょうか。
この謎の核心に迫りそうな情報が、ネアンデルタール人の捕虜から語られました。ネアンデルタール人には新たな「王」がおり、この「王」は神の子供で、「王」と血を分けた「白き者」たるネアンデルタール人が「色つき」の者たる現生人類を滅ぼすよう命じた、というわけです。この「王」は組織化に長けており、軍隊の訓練も指示しているようです。そうすると、ネアンデルタール人の「王」も未来からタイムスリップしてきた、ということでしょうか。「白き者」が「色つき」を滅ぼすよう命じていることから、この「王」からは白人至上主義的な思想が窺えます。とはいえ、ネアンデルタール人と現生人類は異なりますから、白人至上主義者がネアンデルタール人の「王」となり、ネアンデルタール人に肩入れするのも変だとは思います。
ただ、ネアンデルタール人がまだあまり知られていなかった、というか人類進化史において正確には位置づけられていなかった19世紀後半の白人至上主義的な人物ならば、あるいはアフリカ起源の肌の色の濃い現生人類に対して、肌の色が薄かっただろうネアンデルタール人に肩入れして、現生人類を滅ぼそうと考えることもあり得るかな、とは思います。あるいは、ネアンデルタール人に強い思い入れを抱いている狂信的な人物なのでしょうか。もっとも、単に当時のネアンデルタール人と現生人類に未来人が知恵を授けてどの程度のことができるのか、また史実とどう変わるのか、と思いついた気まぐれで冷酷な未来人もしくは神のような超越的存在によるゲームのようなものなのかもしれません。まあ、ネアンデルタール人の肌の色については議論があり、ネアンデルタール人の肌と髪の色も、現代人と同じく多様だったのではないか、と推測する研究もあります(関連記事)。なお、第1巻~第6巻までの記事は以下の通りです。
第1巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201708article_27.html
第2巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201801article_28.html
第3巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201806article_42.html
第4巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201810article_57.html
第5巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201905article_44.html
第6巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201911article_41.html
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