コーカサスの25000年前頃の人類のゲノムデータ(追記有)
人間進化研究ヨーロッパ協会第10回総会で、コーカサスの25000年前頃の人類のゲノムデータに関するPDFファイル(Gelabert et al., 2020)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P49)。近年では、環境DNA研究の古代DNA研究の応用により、遺跡の堆積物から、後期および中期更新世のさまざまなホモ属系統や他の哺乳類の複数のミトコンドリアゲノムが解析されました(関連記事)。この手法は、人類遺骸の古代ゲノム研究への補完的もしくは代替的手法として、人類の進化と交雑史と拡散の研究に、新たな地平を開きます。この手法はまた、過去の環境と人類の生計および行動についての新たな情報を提供する可能性を有します。
この研究は、ジョージア(グルジア)西部のイメレティ(Imereti)地域に位置するサツルブリア(Satsurblia)洞窟の、25000年前頃となる上部旧石器時代層から得られたゲノムデータを報告します。サツルブリア洞窟遺跡では、33000~14000年前にまたがる、上部旧石器時代の豊富な考古学的記録が得られています。上部旧石器時代後期(較正年代で13380~13132年前)となる、サツルブリア洞窟遺跡で発見された人類の右側頭骨の完全なゲノムに関する以前の研究では、この地域に居住していた最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)後の集団は「コーカサス狩猟採集民(CHG)」で、いくつかのユーラシア集団の主要な祖先集団でした(関連記事)。しかし、この地域のLGM前の集団の遺伝的構成は、ユーラシア西部のこの期間のゲノムデータがないため、不明なままです。
サツルブリア洞窟の25000年前頃の人類のミトコンドリアゲノムは、45000年前頃となるブルガリアのバチョキロ洞窟(Bacho Kiro Cave)で発見された個体(関連記事)との明確な類似性を示します。核ゲノムデータの分析では、この25000年前頃の人類は、同じくサツルブリア洞窟で発見された13000年前頃の人類とはクラスタ化せず、対照的に現在のレヴァント集団に近いようです。これは、南コーカサス地域の人類集団におけるLGM前後での遺伝的不連続性を示唆します。さらに、サツルブリア洞窟の25000年前頃の層では、他の哺乳類3種の存在が特定されました。それは、タイリクオオカミ(Canis lupus)とウシ(Bos taurus)とヒツジ属の種です。
遺跡の堆積物のDNA解析により、人類遺骸のない遺跡でも遺伝的データを得ることが可能となりましたから、更新世の人類遺骸がひじょうに少ない日本列島のような地域への適用により、研究が大いに進展するのではないか、と期待されます。中国や朝鮮半島でもこうした研究が進めば、日本人の形成過程もより詳細に解明されるでしょう。また、この研究で非ヒト動物の遺伝的データが得られたように、当時の動物相のより詳細な解明も進むのではないか、と期待されます。
参考文献:
Gelabert P. et al.(2020): Metagenomes and ancient human lineages from a pre-LGM layer of Satsurblia cave in the Caucasus. The 10th Annual ESHE Meeting.
追記(2021年1月12日)
この報告が査読前ながら論文として公表されたので、当ブログで取り上げました(関連記事)。
この研究は、ジョージア(グルジア)西部のイメレティ(Imereti)地域に位置するサツルブリア(Satsurblia)洞窟の、25000年前頃となる上部旧石器時代層から得られたゲノムデータを報告します。サツルブリア洞窟遺跡では、33000~14000年前にまたがる、上部旧石器時代の豊富な考古学的記録が得られています。上部旧石器時代後期(較正年代で13380~13132年前)となる、サツルブリア洞窟遺跡で発見された人類の右側頭骨の完全なゲノムに関する以前の研究では、この地域に居住していた最終氷期極大期(Last Glacial Maximum、略してLGM)後の集団は「コーカサス狩猟採集民(CHG)」で、いくつかのユーラシア集団の主要な祖先集団でした(関連記事)。しかし、この地域のLGM前の集団の遺伝的構成は、ユーラシア西部のこの期間のゲノムデータがないため、不明なままです。
サツルブリア洞窟の25000年前頃の人類のミトコンドリアゲノムは、45000年前頃となるブルガリアのバチョキロ洞窟(Bacho Kiro Cave)で発見された個体(関連記事)との明確な類似性を示します。核ゲノムデータの分析では、この25000年前頃の人類は、同じくサツルブリア洞窟で発見された13000年前頃の人類とはクラスタ化せず、対照的に現在のレヴァント集団に近いようです。これは、南コーカサス地域の人類集団におけるLGM前後での遺伝的不連続性を示唆します。さらに、サツルブリア洞窟の25000年前頃の層では、他の哺乳類3種の存在が特定されました。それは、タイリクオオカミ(Canis lupus)とウシ(Bos taurus)とヒツジ属の種です。
遺跡の堆積物のDNA解析により、人類遺骸のない遺跡でも遺伝的データを得ることが可能となりましたから、更新世の人類遺骸がひじょうに少ない日本列島のような地域への適用により、研究が大いに進展するのではないか、と期待されます。中国や朝鮮半島でもこうした研究が進めば、日本人の形成過程もより詳細に解明されるでしょう。また、この研究で非ヒト動物の遺伝的データが得られたように、当時の動物相のより詳細な解明も進むのではないか、と期待されます。
参考文献:
Gelabert P. et al.(2020): Metagenomes and ancient human lineages from a pre-LGM layer of Satsurblia cave in the Caucasus. The 10th Annual ESHE Meeting.
追記(2021年1月12日)
この報告が査読前ながら論文として公表されたので、当ブログで取り上げました(関連記事)。
この記事へのコメント
ブレード技法の集団がMに近くて、アジアの北方ルート集団としてヒマラヤの北麓を通ってきたという事なのかと。
その後現代の西方集団に近い古代シベリア集団に置き換わってしまったという事なのかと。
これ北方ルートの話としてはとても重要な気がします。
元々現代人に影響を与えてない北方ルート集団は考えていましたし、古代シベリア集団が東アジア人に混血してるのは間違いないのでおかしなことじゃないです。
東アジアのNO系の集団がこの集団の大半の子孫だとなるとかなり重要ですけど。
元々北方ルート集団として
元々北方ルート集団としてQの系統が中国に多いことは分かっていて、以前はエスキモーの集団だと思っていたのですが、過去に中央アジアから古代DNAが見つかっていてそっちだと思います。
中国の歴史時代にQの集団とOの集団が結合して初期王朝の根幹をなしたと見られています。
周王朝がこのQの末裔じゃないか?と言われていて、中国でQが増えた時代が周王朝の時代だと現代人のDNAから分析されています。