イスラエルの旧石器時代遺跡の堆積物のDNA解析
人間進化研究ヨーロッパ協会第10回総会で、イスラエルの旧石器時代遺跡の堆積物のDNA解析に関する研究(Slon et al., 2020)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P110)。古代DNA研究の進展により、ユーラシアにおいて更新世人類のDNA解析に成功したため、中部旧石器時代と上部旧石器時代の人類集団の関係も明らかになってきました。DNAが解析された人類は、現時点ではネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)と古代の現生人類(Homo sapiens)です。
しかし、レヴァントの温暖な気候はDNAをより急速に分解するため、これまでネアンデルタール人やデニソワ人が存在した年代の人類遺骸のDNA解析には成功していません。現時点で、レヴァントで解析された最古のDNAは14000~12000年前頃の個体群に由来します。この研究は、ユーラシア全域の考古学的堆積物におけるDNA解析を目的とした大規模な研究の一環として、遺伝的分析のため、イスラエルのセフニム洞窟(Sefunim Cave)から33標本を収集しました。この33標本は新たに発掘された地区から採取され、取り扱いによりもたらされる汚染を最小限に抑えるための予防策が講じられ、セフニム洞窟遺跡の旧石器時代の5層(AH7~3)にまたがっています。
古代の堆積物からDNAを解析する方法は、環境DNA研究の古代DNA研究への応用により、近年盛んになりつつあり、すでにユーラシアの遺跡でネアンデルタール人とデニソワ人のミトコンドリアDNA(mtDNA)が確認されています(関連記事)。各標本で特定された分類群ごとに、現代の汚染から真の古代DNA断片を区別するために、回収されたmtDNA断片は、時間の経過に伴い蓄積する傾向があるヌクレオチド置換の存在で評価されました。
古代人類のmtDNAがどの標本でも検出されなかった一方で、4点の標本から古代の非ヒト動物のmtDNA断片が回収されました。このうち2点の標本(標本1および2)は、中部旧石器時代となるムステリアン(Mousterian)の層(AH7)から収集され、シカ科とハイエナ科のミトコンドリアゲノムに分類されるわずかなDNA断片から構成されます。標本3はシカ科のmtDNA断片を含んでおり、中部旧石器時代から上部旧石器時代の移行にまたがる層(AH6)で収集されました。AH7および6のの光刺激ルミネッセンス法 (OSL)年代測定はまだ保留中ですが、現在の推定では70000~45000年前頃の間です。
標本4は上部旧石器時代となるレヴァントオーリナシアン(Levantine Aurignacian)の人工物により特徴づけられる層(AH5)に由来し、その放射性炭素年代は40000~30000年前頃です。この標本は、ミトコンドリアゲノム配列の約1/4を復元するのに充分なDNA断片を生成し、シカ科のmtDNAの多様性内に位置づけることができるようになりました。堆積物におけるシカ科とハイエナ科の特定は、これらの層の考古学的記録と一致しており、シカ科は骨と枝角で、ハイエナ科は骨と糞石により表されます。
興味深いことに、4標本すべては洞窟内の同じ区域(ユニットG/H 48/49)から採取されており、局所的条件がDNAの長期保存にとくに貢献している、と示唆されます。何千年もその区域を覆い、標本抽出の直前に取り除かれた大きな岩石が、堆積物内の酸化と生物活性を制限することにより、堆積下でのDNAの損失を減少させた、と推測されます。セフニム洞窟の堆積物のDNAの回収は、レヴァントにおけるDNA保存の現在の限界を15000年以上さかのぼらせます。これは、レヴァントにおける上部旧石器時代、さらには中部旧石器時代集団のDNA分析の実現可能性を示しており、今後の研究の進展がたいへん期待されます。
参考文献:
Slon V. et al.(2020): DNA from Paleolithic sediments at Sefunim Cave, Israel. The 10th Annual ESHE Meeting.
しかし、レヴァントの温暖な気候はDNAをより急速に分解するため、これまでネアンデルタール人やデニソワ人が存在した年代の人類遺骸のDNA解析には成功していません。現時点で、レヴァントで解析された最古のDNAは14000~12000年前頃の個体群に由来します。この研究は、ユーラシア全域の考古学的堆積物におけるDNA解析を目的とした大規模な研究の一環として、遺伝的分析のため、イスラエルのセフニム洞窟(Sefunim Cave)から33標本を収集しました。この33標本は新たに発掘された地区から採取され、取り扱いによりもたらされる汚染を最小限に抑えるための予防策が講じられ、セフニム洞窟遺跡の旧石器時代の5層(AH7~3)にまたがっています。
古代の堆積物からDNAを解析する方法は、環境DNA研究の古代DNA研究への応用により、近年盛んになりつつあり、すでにユーラシアの遺跡でネアンデルタール人とデニソワ人のミトコンドリアDNA(mtDNA)が確認されています(関連記事)。各標本で特定された分類群ごとに、現代の汚染から真の古代DNA断片を区別するために、回収されたmtDNA断片は、時間の経過に伴い蓄積する傾向があるヌクレオチド置換の存在で評価されました。
古代人類のmtDNAがどの標本でも検出されなかった一方で、4点の標本から古代の非ヒト動物のmtDNA断片が回収されました。このうち2点の標本(標本1および2)は、中部旧石器時代となるムステリアン(Mousterian)の層(AH7)から収集され、シカ科とハイエナ科のミトコンドリアゲノムに分類されるわずかなDNA断片から構成されます。標本3はシカ科のmtDNA断片を含んでおり、中部旧石器時代から上部旧石器時代の移行にまたがる層(AH6)で収集されました。AH7および6のの光刺激ルミネッセンス法 (OSL)年代測定はまだ保留中ですが、現在の推定では70000~45000年前頃の間です。
標本4は上部旧石器時代となるレヴァントオーリナシアン(Levantine Aurignacian)の人工物により特徴づけられる層(AH5)に由来し、その放射性炭素年代は40000~30000年前頃です。この標本は、ミトコンドリアゲノム配列の約1/4を復元するのに充分なDNA断片を生成し、シカ科のmtDNAの多様性内に位置づけることができるようになりました。堆積物におけるシカ科とハイエナ科の特定は、これらの層の考古学的記録と一致しており、シカ科は骨と枝角で、ハイエナ科は骨と糞石により表されます。
興味深いことに、4標本すべては洞窟内の同じ区域(ユニットG/H 48/49)から採取されており、局所的条件がDNAの長期保存にとくに貢献している、と示唆されます。何千年もその区域を覆い、標本抽出の直前に取り除かれた大きな岩石が、堆積物内の酸化と生物活性を制限することにより、堆積下でのDNAの損失を減少させた、と推測されます。セフニム洞窟の堆積物のDNAの回収は、レヴァントにおけるDNA保存の現在の限界を15000年以上さかのぼらせます。これは、レヴァントにおける上部旧石器時代、さらには中部旧石器時代集団のDNA分析の実現可能性を示しており、今後の研究の進展がたいへん期待されます。
参考文献:
Slon V. et al.(2020): DNA from Paleolithic sediments at Sefunim Cave, Israel. The 10th Annual ESHE Meeting.
この記事へのコメント