バッタが群れになる原因となるフェロモン

 バッタが群れになる原因となるフェロモンに関する研究(Guo et al., 2020)が公表されました。ワタリバッタ類の大発生が、世界各地で農業および環境の安全を脅かしています。その中で、最も危険なバッタ種の一つであるトノサマバッタ(Locustia migratoria)は、全世界の農業に対する深刻な脅威になっています。ワタリバッタの孤独相から破壊的な群生相への相変異、および大群の形成では、集合フェロモンがきわめて重要な役割を担っています。しかし、既知の候補化合物で、ワタリバッタの集合フェロモンの基準を全て満たすものは存在しません。

 この研究は、行動アッセイ、電気生理学的記録、嗅覚受容体の特性評価、野外実験を用いて、4-ビニルアニソール(4VA;別名4-メトキシスチレン)がトノサマバッタの集合フェロモンであることを明らかにしています。群生相と孤独相の個体はいずれも、齢や性に関係なく4VAに強く誘引されました。4VAは群生相の個体から特異的に放出されますが、その産生は孤独相の個体でも4~5匹集まると誘発される、と明らかになりました。

 4VAは、トノサマバッタの触角の特定の感覚細胞(鐘状感覚子)の応答を特異的に誘発しました。また、4VAの特異的な嗅覚受容体としてOR35が特定されました。CRISPR–Cas9を用いてOR35をノックアウトすると、触角の電気生理学的応答が顕著に低下し、4VAの行動誘引性が損なわれました。さらに、野外での捕獲実験により、4VAの実験個体群および野生個体群に対する誘引性が確認されました。これらの知見は、トノサマバッタの集合フェロモンを特定したもので、ワタリバッタ類の新たな防除戦略を編み出すための洞察をもたらします。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


動物行動学:トノサマバッタを敵の大群に変えるフェロモン

 バッタが群れになる原因のフェロモンが明らかになったことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、バッタの大量発生を制御する新しい方法の開発に役立つかもしれない。

 最も広範囲に分布し、最も危険なバッタ種の1つであるトノサマバッタ(Locustia migratoria)は、全世界の農業に対する深刻な脅威になっている。今回の研究で、Le Kangらの研究チームは、群生するトノサマバッタが放出する4-ビニルアニソール(4VA)という低分子有機化合物を特定した。この分子は、年齢や性別を問わず、全てのトノサマバッタに対して強力な誘引物質として作用する。孤独相のトノサマバッタ4~5匹を同じ場所に収容したところ、これらのトノサマバッタもこのフェロモンを産生し、放出し始めた。また、4VAは、野外実験でもトノサマバッタを誘引した。

 このフェロモンは、バッタの触角にある特定の感覚細胞(鐘状感覚子)によって検出され、この分子が嗅覚受容体OR35と特異的に結合する。Le Kangたちは、遺伝子操作でOR35を欠損させたトノサマバッタが、4VAに誘引されにくくなると報告している。

 Le Kangたちは、以上の知見に基づいて、今後の研究の有望なシナリオ候補をいくつか明示している。例えば、合成した4VAを屋外で使用し、トノサマバッタを罠におびき寄せて駆除できる可能性がある。また、4VA分子の活性を阻害する化学物質を放出することで、トノサマバッタが大群になって移動するのを防止できる可能性もある。こうしたシナリオやその他の関連戦略の実行可能性を検証するためには、さらなる研究が必要となる。


昆虫行動学:4-ビニルアニソールはトノサマバッタの集合フェロモンである

昆虫行動学:ワタリバッタを集合させるもの

 孤独相のワタリバッタは無害だが、集合して大群を形成すると農業および生態系に害が及ぶ。ワタリバッタ類の集合を促進する化合物の正体はこれまで不明であった。今回L Kangたちは、4-ビニルアニソール(4VA)と呼ばれる低分子有機化合物がトノサマバッタ(Locusta migratoria)の集合フェロモンであることを明らかにしている。4VAは群生相の個体によって特異的に放出され、雌雄両方の個体を誘引する。著者たちは、4VAの嗅覚受容体としてOR35を特定し、これが欠損するとトノサマバッタが集合しなくなることを示した。



参考文献:
Guo X. et al.(2020): 4-Vinylanisole is an aggregation pheromone in locusts. Nature, 584, 7822, 584–588.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2610-4

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