生態系の劣化と生息地の消失による生物多様性の喪失
生態系の劣化と生息地の消失による生物多様性の喪失に関する研究(Chase et al., 2020)が公表されました。人新世において、生息地の消失は生物多様性の喪失につながる大きな要因ですが、生息地の消失が正確にはどのように表れ、その規模がどの程度なのかは、今なお重要な議論となっています。「受動的抽出(passive sampling)」仮説では、生物種は、自然生息地におけるそれらの個体数および分布に比例して失われるとされるのに対して、「生態系劣化(ecosystem decay)」仮説では、より小さく孤立した生息地における生態学的過程の変化により、単純に生息地の消失のみから予測されるより多くの種が失われる、とされています。これら2つの仮説の一般化可能な検証は、サンプリング設計が不均一で、規模に大きく依存する種の豊富さの見積もりに焦点が絞られていたために、限界がありました。
本論文は、さまざまなサイズの多数の生息地断片から得た、重要な複数のタクソンの集団レベルの個体数に関する123件の研究結果を分析し、受動的抽出と生態系劣化がそれぞれ生物多様性の喪失に及ぼす影響を評価しました。その結果、全体として生態系劣化仮説が支持される、と明らかになりました。調査努力量を考慮に入れると、全ての研究・生態系・タクソンにわたり、より小さな生息地断片に由来する生物多様性の見積もりでは、より大きな断片のサンプルに由来する予想と比べて、個体数と種数は少なく、群集の均一性は低い、と明らかになりました。しかし、一部の研究(たとえば、生息地が消失してから100年以上が経過している場合など)では、手付かずの生息地には本来存在しなかった種による組成的な置換の結果として、生態系劣化に起因する生物多様性の喪失は全体的パターンからの予測を下回っていました。この研究は、生息地の消失が生物多様性の変化に及ぼす非受動的な影響を組み入れることで、将来の土地利用における生物多様性のシナリオを改良し、生息地の保全および回復の計画を改善できる、と結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
生態学:生態系の劣化が生息地の消失による生物多様性の喪失を悪化させる
生態学:小さな生息地断片では個体群動態の変化が生物多様性を低下させる
生息地が失われたら、生物多様性はどうなるのか。生物多様性が喪失することは分かっているが、それが正確にどのように起こるのかについては、大きな混乱と疑問が残されている。果たして生物多様性の喪失は、種の喪失は自然生息地におけるそれらの個体数および分布に比例するとする「受動的抽出(passive sampling)」過程によって起こるのか、それとも小さな生息地断片での生物学的過程は大きな断片のものとは異なると仮定し、そうした差異によって小さな生息地では生息地の消失のみから予想されるより多くの種が減少するとする「生態系劣化(ecosystem decay)」過程によって起こるのか。今回J Chaseたちは、かつては同一の景観に含まれていたさまざまなサイズの多数の生息地断片から得た、複数の種の個体数に関する123件の研究データを用いて、これら2つの仮説を検証した。その結果、生態系劣化仮説が強く支持された。すなわち、全ての研究、生態系、分類群にわたって、より小さな生息地断片では、より大きな断片のサンプルに由来する予測よりも個体数と種数が少なく、群集の均一性が低いことが分かった。これらの知見は、土地利用の変化による生物多様性の喪失に関してより現実性の高い予測を行うための重要な一歩になると、著者たちは述べている。
参考文献:
Chase JM. et al.(2020): Ecosystem decay exacerbates biodiversity loss with habitat loss. Nature, 584, 7820, 238–243.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2531-2
本論文は、さまざまなサイズの多数の生息地断片から得た、重要な複数のタクソンの集団レベルの個体数に関する123件の研究結果を分析し、受動的抽出と生態系劣化がそれぞれ生物多様性の喪失に及ぼす影響を評価しました。その結果、全体として生態系劣化仮説が支持される、と明らかになりました。調査努力量を考慮に入れると、全ての研究・生態系・タクソンにわたり、より小さな生息地断片に由来する生物多様性の見積もりでは、より大きな断片のサンプルに由来する予想と比べて、個体数と種数は少なく、群集の均一性は低い、と明らかになりました。しかし、一部の研究(たとえば、生息地が消失してから100年以上が経過している場合など)では、手付かずの生息地には本来存在しなかった種による組成的な置換の結果として、生態系劣化に起因する生物多様性の喪失は全体的パターンからの予測を下回っていました。この研究は、生息地の消失が生物多様性の変化に及ぼす非受動的な影響を組み入れることで、将来の土地利用における生物多様性のシナリオを改良し、生息地の保全および回復の計画を改善できる、と結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
生態学:生態系の劣化が生息地の消失による生物多様性の喪失を悪化させる
生態学:小さな生息地断片では個体群動態の変化が生物多様性を低下させる
生息地が失われたら、生物多様性はどうなるのか。生物多様性が喪失することは分かっているが、それが正確にどのように起こるのかについては、大きな混乱と疑問が残されている。果たして生物多様性の喪失は、種の喪失は自然生息地におけるそれらの個体数および分布に比例するとする「受動的抽出(passive sampling)」過程によって起こるのか、それとも小さな生息地断片での生物学的過程は大きな断片のものとは異なると仮定し、そうした差異によって小さな生息地では生息地の消失のみから予想されるより多くの種が減少するとする「生態系劣化(ecosystem decay)」過程によって起こるのか。今回J Chaseたちは、かつては同一の景観に含まれていたさまざまなサイズの多数の生息地断片から得た、複数の種の個体数に関する123件の研究データを用いて、これら2つの仮説を検証した。その結果、生態系劣化仮説が強く支持された。すなわち、全ての研究、生態系、分類群にわたって、より小さな生息地断片では、より大きな断片のサンプルに由来する予測よりも個体数と種数が少なく、群集の均一性が低いことが分かった。これらの知見は、土地利用の変化による生物多様性の喪失に関してより現実性の高い予測を行うための重要な一歩になると、著者たちは述べている。
参考文献:
Chase JM. et al.(2020): Ecosystem decay exacerbates biodiversity loss with habitat loss. Nature, 584, 7820, 238–243.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2531-2
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