ヒトゲノムにおける構造多様性のマッピングと特性解析

 ヒトゲノムにおける構造多様性のマッピングと特性解析に関する研究(Abel et al., 2020)が公表されました。ヒト遺伝学研究における全ゲノム塩基配列解読の主要な目標の一つは、一塩基多様体、小さな挿入や欠損(インデル)、構造多様体をはじめとする、あらゆるタイプの多様性を調べることです。しかし、構造多様体を研究するためのツールや情報資源は、より小さな多様体のものより遅れています。

 この研究は、スケーラブルなパイプラインを用いて、高深度塩基配列解読した17795例のヒトゲノムで、構造多様体のマッピングと特性解析を行ないました。部位頻度データを公開することで、既知で最大となる、全ゲノム塩基配列解読に基づく構造多様体の情報資源が得られました。コード領域を変化させる稀な構造多様体は1人当たり平均して2.9個ある、と明らかになり、これらの多様体は4.2個の遺伝子の遺伝子量や構造に影響を及ぼしており、影響力の大きい稀なコードアレル(対立遺伝子)の4.0〜11.2%を占めていました。

 計算モデルを用いると、構造多様体がゲノム規模で稀な対立遺伝子の17.2%を占めると推定され、その有害な影響はコード対立遺伝子と同等と予測されました。また本論文は、そのような構造多様体の約90%は非コード欠失でした(ゲノム当たり平均19.1個)。この研究は、158991個のひじょうに稀な構造多様体について報告し、2%のヒトがひじょうに稀なメガ塩基規模の構造多様体を持ち、その半数近くで、均衡の取れたあるいは複雑な再配列が起きている、と示します。

 さらに本論文は、遺伝子と非コードエレメントの遺伝子量感受性を推測し、エレメントのクラスや保存に関連する傾向を明らかにします。本論文は、この一連の研究が、全ゲノム塩基配列解読時代において構造多様体の解析や解釈を導く上で役立つだろう、と指摘します。構造多様体に関する研究は、DNA解析技術の飛躍的な発展とともに大きく進み、最近も複数の研究が相次いで報告されています(関連記事)。また、構造多様体は現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との交雑の詳細な解明にも役立つと考えられ(関連記事)、その点でも今後の研究の進展が期待されます。


参考文献:
Abel HJ. et al.(2020): Mapping and characterization of structural variation in 17,795 human genomes. Nature, 583, 7814, 83–89.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2371-0

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