韓国人のゲノムデータ
取り上げるのが遅れてしまいましたが、韓国人のゲノムデータを報告した研究(Jeon et al., 2020)が公表されました。韓国人(というかもっと広く朝鮮民族)は、遺伝的にひじょうに均質で、過去には大規模な混合事象が少なかった、と考えられてきましたが、公式な調査はほとんど行なわれていません。世界中の現代人の遺伝的多様性を特徴づける目的で進められている1000ゲノム計画でも、近隣の中国(南北の漢人など)や日本の人々のゲノムデータが報告されているのに、韓国からの標本はまだ含まれていません。そこで、韓国人を対象としたゲノム計画が進められており(将来的には、もっと広く朝鮮民族全体を対象とするのでしょう)、本論文は韓国人1094人のゲノムデータを報告します。これにより、韓国人の遺伝的構造が以前よりも明らかになり、医療のような「実用性」だけではなく、韓国人(朝鮮民族)の形成過程の解明にも役立つのではないか、と期待されます。
このゲノムデータに基づき、韓国人のミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)とY染色体ハプログループ(YHg)も報告されています。mtHgでは、D(34.19%)やB(13.89%)やM(13.80%)が一般的で、YHgではO(73.49%)が圧倒的に多く、C(16.9%)とN(6.58%)が続きます。YHg-Oはアジア東部および南東部に広く分布しますが、YHg-Cはおもにアジア東部および北東部に分布します。なお、日本やチベットやアンダマン諸島など、世界では珍しいYHg-Dも確認されています(1.42%)。またmtHgでは、アジア東部において一般的なA・G・Fも確認されました。
主成分分析により、韓国人と他集団とが比較されました。図2Aは世界中の集団を対象としており、韓国人が中国人と日本人という同じアジア東部集団と遺伝的にひじょうに近縁である、と改めて確認されました。図2Bはアジア東部集団を対象としており、韓国人と中国人と日本人がそれぞれ明確にクラスタ化し、区別できることが確認されました。これは、3ソース集団によるADMIXTURE分析でも確認されますが、中国人に関しては、漢人の南北間でも明確な違いがあり、傣(Dai)人は漢人との間にさらに大きな違いを示し、北部漢人よりも南部漢人の方と近縁です。以下、本論文の図2です。
本論文の分析では、韓国人が中国人や日本人といった他のアジア東部集団と比較して遺伝的に均一である、と改めて示されました。本論文は、これが過去数千年の地政学的孤立に起因する、と推測しています。上述のように、中国人は漢人と傣人との間の遺伝的違いが大きく、漢人の南北間でもやや違いが目立ちます。中国人と比較すると、日本人も遺伝的に均一と言えるでしょうが、韓国人は日本人よりもさらに遺伝的に均一というわけです。韓国人はさらに、本論文のデータセットで中国人としてまとめられている北部漢人や南部漢人や傣人との比較でも、遺伝的に均一です。
本論文は今後の課題として、韓国人標本のほとんどが蔚山(Ulsan)広域市で得られているため、朝鮮半島全体が反映されていないことを挙げています。蔚山広域市の人口は100万人以上で、急速な工業化により居住者は朝鮮半島全体から集まっていますが、ほぼ蔚山広域市の1000人ほどの標本規模では、韓国人集団を表したり、潜在的なゲノム構造多様性を解明したりするのに充分ではない、と本論文は指摘します。
本論文は、朝鮮民族の形成過程の解明に役立つ基本的情報になりそうなので、注目されます。最近、朝鮮民族の起源に関する研究が公表されましたが(関連記事)、古代ゲノムデータは他地域から得られており、朝鮮半島からのものは参照されていませんでした。韓国でも古代DNA研究は進められているのでしょうが、まだ日本や中国との比較でも遅れているのでしょうか。日本人の起源の解明に寄与するという意味でも、今後、朝鮮半島の古代DNA研究が進展することを期待しています。
参考文献:
Jeon S. et al.(2020): Korean Genome Project: 1094 Korean personal genomes with clinical information. Science Advances, 6, 22, eaaz7835.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz7835
このゲノムデータに基づき、韓国人のミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)とY染色体ハプログループ(YHg)も報告されています。mtHgでは、D(34.19%)やB(13.89%)やM(13.80%)が一般的で、YHgではO(73.49%)が圧倒的に多く、C(16.9%)とN(6.58%)が続きます。YHg-Oはアジア東部および南東部に広く分布しますが、YHg-Cはおもにアジア東部および北東部に分布します。なお、日本やチベットやアンダマン諸島など、世界では珍しいYHg-Dも確認されています(1.42%)。またmtHgでは、アジア東部において一般的なA・G・Fも確認されました。
主成分分析により、韓国人と他集団とが比較されました。図2Aは世界中の集団を対象としており、韓国人が中国人と日本人という同じアジア東部集団と遺伝的にひじょうに近縁である、と改めて確認されました。図2Bはアジア東部集団を対象としており、韓国人と中国人と日本人がそれぞれ明確にクラスタ化し、区別できることが確認されました。これは、3ソース集団によるADMIXTURE分析でも確認されますが、中国人に関しては、漢人の南北間でも明確な違いがあり、傣(Dai)人は漢人との間にさらに大きな違いを示し、北部漢人よりも南部漢人の方と近縁です。以下、本論文の図2です。
本論文の分析では、韓国人が中国人や日本人といった他のアジア東部集団と比較して遺伝的に均一である、と改めて示されました。本論文は、これが過去数千年の地政学的孤立に起因する、と推測しています。上述のように、中国人は漢人と傣人との間の遺伝的違いが大きく、漢人の南北間でもやや違いが目立ちます。中国人と比較すると、日本人も遺伝的に均一と言えるでしょうが、韓国人は日本人よりもさらに遺伝的に均一というわけです。韓国人はさらに、本論文のデータセットで中国人としてまとめられている北部漢人や南部漢人や傣人との比較でも、遺伝的に均一です。
本論文は今後の課題として、韓国人標本のほとんどが蔚山(Ulsan)広域市で得られているため、朝鮮半島全体が反映されていないことを挙げています。蔚山広域市の人口は100万人以上で、急速な工業化により居住者は朝鮮半島全体から集まっていますが、ほぼ蔚山広域市の1000人ほどの標本規模では、韓国人集団を表したり、潜在的なゲノム構造多様性を解明したりするのに充分ではない、と本論文は指摘します。
本論文は、朝鮮民族の形成過程の解明に役立つ基本的情報になりそうなので、注目されます。最近、朝鮮民族の起源に関する研究が公表されましたが(関連記事)、古代ゲノムデータは他地域から得られており、朝鮮半島からのものは参照されていませんでした。韓国でも古代DNA研究は進められているのでしょうが、まだ日本や中国との比較でも遅れているのでしょうか。日本人の起源の解明に寄与するという意味でも、今後、朝鮮半島の古代DNA研究が進展することを期待しています。
参考文献:
Jeon S. et al.(2020): Korean Genome Project: 1094 Korean personal genomes with clinical information. Science Advances, 6, 22, eaaz7835.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz7835
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