イギリスにおける血液型への関心

 イギリスにおける血液型への関心について報道されました。イギリスの成人に血液型を尋ねたところ、「知らない」という回答が55%だった、とのことです。どの血液型なのか明示されていないのですが、ABO式血液型が発見された経緯に触れられているので、おそらくはABO式血液型なのでしょう。とくに若い世代で知らない割合が高く、18~24歳では81%で、25~49歳でも60%が知らなかったそうです。今では輸血前に必ず検査する、と聞いたのは随分前なので、若い世代が自分のABO式血液型を知らないのも当然で、検索してみたところ、日本では現在、子供のABO式血液型の検査はやらないそうです。私は小学1年生の時にABO式血液型の検査を受けた、と記憶しています。イギリスの事情は知りませんが、おそらく同様なのでしょう。

 ただ、随分前になりますが、ABO式血液型への関心が高いのは世界でも日本を含めて漢字文化圏の一部だけと聞いたこともあるので、イギリスでは25~49歳で40%も自分のABO式血液型を知っているのは、やや意外でもありました。かつてはイギリスでも、子供の頃にABO式血液型の検査が行なわれ、本人に通知されていたのでしょうか。おそらく今後、日本やイギリスに限らず世界全体で、自分のABO式血液型を知らない人が増えていくのでしょう。

 これは、日本に関してはたいへん歓迎すべきと思います。20世紀の頃から感じ続けてきたことですが、日本社会におけるABO式血液型への関心の高さは明らかに不健全です。血液型の種類は多くあるのに、ABO式血液型への関心が突出して高いのは、やはりABO式血液型と性格(気質)を結びつける見解が浸透しているからでしょう。ABO式血液型で*型なので**のような性格だ、といった与太話が現代日本社会ではありふれています。これは「ABO式血液型ハラスメント」と言うべきであり、現代日本社会において改善すべき欠陥・恥部の一つでしょう。今では日本社会でも子供のABO式血液型は調べられていないそうですから、日本でも今後ABO式血液型への関心が低下していくのではないか、と期待されます。

 しかし、これはあまりにも楽観的かもしれません。今でも個人紹介でABO式血液型を明示することは少なくないわけで、若い人の多い(というか殆どの)女性アイドルグループの中で、1番人気(らしい)乃木坂46の公式サイトを閲覧したら、生年月日・星座(生年月日から星座が分かるので不要なように思いますが)・身長とともに、血液型が明示されていました。個人情報の中でもとくに秘匿性を高くすべき遺伝情報を明示することは、私の感覚では、奴隷制や優生学を堂々と肯定的に主張するほどではないとしても、現代においては論外です。これでは、今後も日本でABO式血液型信仰とでも言うべきものが残っていくのではないか、と懸念されます。

 世界でもABO式血液型への関心が高いのは漢字文化圏の一部だけ、との言説の傍証になりそうなのは、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のABO式血液型に関する研究で、現代人と近縁な絶滅ホモ属(古代型ホモ属)であるネアンデルタール人とデニソワ人のABO式血液型関連遺伝子はほとんど注目されてこなかった、と指摘されていたことです(関連記事)。古代型ホモ属の遺伝的研究は盛んですが、その研究の中心地はヨーロッパとアメリカ合衆国で、ヨーロッパ系の研究者が多いため、ABO式血液型遺伝子はほとんど注目されてこなかったのではないか、と思います。一方、古代DNA研究でも、日本人研究者が中心だったためと言えるのか、自信はありませんが、北海道の「縄文人」のDNA研究では、ABO式血液型関連遺伝子について言及されています(関連記事)。

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