狩猟採集技能の文化および個体間の多様性
狩猟採集技能の文化および個体間の多様性に関する研究(Koster et al., 2020)が公表されました。ヒト(Homo sapiens)は類人猿(ヒト上科)の間で、長い学童期(juvenile)と思春期(adolescent)を含む遅い生活史、短い出産間隔、繁殖後の長い寿命という一連の生活史により区別されます。これらの特性の進化を説明するため、一夫一婦や祖父母による孫の世話など、複数のモデルが提示されました。このモデルは、ヒトの重要な特徴である大きな脳を説明しなければなりません。狩猟採集の複雑さと競争的な社会的課題は、大きな脳の進化要因として支持されていますが、さらに文化学習の利点が組み合わされることもあります。
人類系統における脳容量増加の要因として、最近の研究では生態(個体vs自然)および協同(個体群vs自然)が重視されています(関連記事)。これは、狩猟採集活動が人類系統における脳容量増加に重要な役割を果たしてきた、と示唆します。そこで本論文は、技能・生産性の評価が農耕や牧畜よりも容易な狩猟を対象として、その年齢による技能の変動を推定し、ヒト生活史と文化的学習の進化のモデルを検証します。データは、アメリカ大陸(カナダおよびラテンアメリカ)とサハラ砂漠以南のアフリカとシベリア北極圏とアジア南東部とオセアニアの、計40ヶ所1800人以上の約23000の狩猟記録から得られました。
全体の平均的な狩猟技能の最大値は33歳となります。加齢による技能曲線は、18歳時に最大値の89%に達し、33歳を過ぎるとゆっくり低下していき、56歳以後になってようやく18歳時の89%を下回ります。ただ、これはあくまでも全体的なパターンで、集団(共同体)や個体による違いも見られます。とくに、個体差はひじょうに大きくなる可能性があり、一部の個体は同じ共同体の他の成人と比較して半分程度の場合もあります。また集団間では、狩猟技能が最大値となる年齢に違いが見られ、下限では24歳頃、上限では37歳と45歳の集団が存在します。
狩猟技能の発達に関しては、成人期の高水準平坦域に達する前に、子供期(childhood)と思春期において最も急速に成長します。また全集団で、技能は身体および性的成熟後に最大値に達します。集団間および集団内での技能のバラツキについては、外因性死亡リスクなどが考えられますが、経験・動機・社会的学習機会・狩猟の身体的および社会的要求などの変数も想定され、異文化間の狩猟技能発達過程の違いには、追加の理論が必要となります。本論文の知見は、現代だけではなく、過去の環境における狩猟技能の発達過程にも示唆を与えるものとなるでしょう。
集団内における狩猟技能の個体間格差に関しては、体力と持久力や蓄積された知識や動機がすべて、おそらくは年齢に関連した変動に寄与しています。狩猟技能が最大値になる33歳頃は、体力と生態学的知識が頭打ちになる年齢に近くなっています。これも、現代の各運動競技で全盛期の年齢が異なるように、狩猟内容により異なってくるのかもしれません。狩猟技能の個体差に関しては、集団内では増加率よりも衰退率の方で違いが大きい、と示されます。ただ、その比率は集団間ではほぼ同等です。
狩猟では毎日の収穫が予測不可能なので、現代人の祖先においては、小さなバンドでの相互の食料分配が必要と考えられています。しかし、これまでの研究では、個々の狩猟者の加齢による技能の変動はあまり考慮されていませんでした。本論文は、この加齢による狩猟技能の変動性がヒト狩猟採集民共同体の典型で、リスク緩和のための食料共有の効果を変える、と示唆します。狩猟者がその技能と生産性において大きく異なる場合、リスク集積分布体系への参加には非対称的な利益があります。ヒト系統における向社会性および他の特徴が、この非対称性によりもたらされる協調的課題に由来する限り、障害にわたる狩猟技能の高い変動は、さらに注目に値します。
参考文献:
Koster K. et al.(2020): The life history of human foraging: Cross-cultural and individual variation. Science Advances, 6, 26, eaax9070.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aax9070
人類系統における脳容量増加の要因として、最近の研究では生態(個体vs自然)および協同(個体群vs自然)が重視されています(関連記事)。これは、狩猟採集活動が人類系統における脳容量増加に重要な役割を果たしてきた、と示唆します。そこで本論文は、技能・生産性の評価が農耕や牧畜よりも容易な狩猟を対象として、その年齢による技能の変動を推定し、ヒト生活史と文化的学習の進化のモデルを検証します。データは、アメリカ大陸(カナダおよびラテンアメリカ)とサハラ砂漠以南のアフリカとシベリア北極圏とアジア南東部とオセアニアの、計40ヶ所1800人以上の約23000の狩猟記録から得られました。
全体の平均的な狩猟技能の最大値は33歳となります。加齢による技能曲線は、18歳時に最大値の89%に達し、33歳を過ぎるとゆっくり低下していき、56歳以後になってようやく18歳時の89%を下回ります。ただ、これはあくまでも全体的なパターンで、集団(共同体)や個体による違いも見られます。とくに、個体差はひじょうに大きくなる可能性があり、一部の個体は同じ共同体の他の成人と比較して半分程度の場合もあります。また集団間では、狩猟技能が最大値となる年齢に違いが見られ、下限では24歳頃、上限では37歳と45歳の集団が存在します。
狩猟技能の発達に関しては、成人期の高水準平坦域に達する前に、子供期(childhood)と思春期において最も急速に成長します。また全集団で、技能は身体および性的成熟後に最大値に達します。集団間および集団内での技能のバラツキについては、外因性死亡リスクなどが考えられますが、経験・動機・社会的学習機会・狩猟の身体的および社会的要求などの変数も想定され、異文化間の狩猟技能発達過程の違いには、追加の理論が必要となります。本論文の知見は、現代だけではなく、過去の環境における狩猟技能の発達過程にも示唆を与えるものとなるでしょう。
集団内における狩猟技能の個体間格差に関しては、体力と持久力や蓄積された知識や動機がすべて、おそらくは年齢に関連した変動に寄与しています。狩猟技能が最大値になる33歳頃は、体力と生態学的知識が頭打ちになる年齢に近くなっています。これも、現代の各運動競技で全盛期の年齢が異なるように、狩猟内容により異なってくるのかもしれません。狩猟技能の個体差に関しては、集団内では増加率よりも衰退率の方で違いが大きい、と示されます。ただ、その比率は集団間ではほぼ同等です。
狩猟では毎日の収穫が予測不可能なので、現代人の祖先においては、小さなバンドでの相互の食料分配が必要と考えられています。しかし、これまでの研究では、個々の狩猟者の加齢による技能の変動はあまり考慮されていませんでした。本論文は、この加齢による狩猟技能の変動性がヒト狩猟採集民共同体の典型で、リスク緩和のための食料共有の効果を変える、と示唆します。狩猟者がその技能と生産性において大きく異なる場合、リスク集積分布体系への参加には非対称的な利益があります。ヒト系統における向社会性および他の特徴が、この非対称性によりもたらされる協調的課題に由来する限り、障害にわたる狩猟技能の高い変動は、さらに注目に値します。
参考文献:
Koster K. et al.(2020): The life history of human foraging: Cross-cultural and individual variation. Science Advances, 6, 26, eaax9070.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aax9070
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