ライオンの進化史

 ライオンの進化史に関する研究(de Manue et al., 2020)が報道されました。最近まで、ライオン(Panthera leo)は最も広く分散した陸生哺乳類の一つでした。頂点捕食者として、ライオンは重要な生態的影響を有し、ヒトの図像で顕著に取り上げられてきました。更新世において、ライオンは広大な地理的範囲に存在していました。これは、ユーラシアの現代ライオン(Panthera leo leo)、ユーラシアやアラスカやユーコン準州のホラアナライオン(Panthera leo spelaea)、北アメリカ大陸のアメリカライオン(Panthera leo atrox)を含みます。

 現在、ライオンの生息範囲はサハラ砂漠以南のアフリカにほぼ限定されており、アジアライオンの小規模で孤立した1集団が、インドのグジャラート州のカーティヤーワール半島に生息しています。ライオン集団の世界的な減少は、後期更新世となる14000年前頃のホラアナライオンとアメリカライオンの絶滅から始まりました。最近では、現代ライオン集団はユーラシア南西部(紀元後19~20世紀)とアフリカ北部(紀元後20世紀)で絶滅し、それはおそらく人為的要因の結果でした。この衰退は過去150年において、アフリカ北部のバーバリーライオン、アフリカ南部のケープライオン、中東のライオン集団の絶滅という結果をもたらし、現生集団すべての断片化と衰退につながってきました。

 現生および絶滅系統間の関係を含む、ライオンの世界的な遺伝的構造が研究されてきましたが、それらの推測はミトコンドリアDNA(mtDNA)データ、もしくはミトコンドリアと常染色体遺伝標識の限定的な数に基づいていました。本論文は、現在および以前の分布の両方を表す個体も含めて、現代・歴史時代・更新世のライオンの全ゲノム配列で以前の知見を拡張します。本論文はとくに、以下のような質問への回答を目的としました。第一に、現代のライオンとホラアナライオンでどのような系統関係が見られるのか、ということです。第二に、絶滅したホラアナライオンと遺伝的に近い現代のライオン集団があるのか、ということです。第三に、現代の異なるライオン系統はいつ分岐し始めたのか、ということです。第四に、現代と比較して過去のライオンの遺伝的多様性はどうだったのか、ということです。


●ライオンのデータセットとゲノム規模系統

 古代および現代のライオン20頭の全ゲノム配列が生成されました。この中にはシベリアとユーコン準州のホラアナライオンが1頭ずつ含まれ、その放射性炭素年代は3万年前頃で、平均網羅率はそれぞれ5.3倍と0.6倍です。現代ライオンは12頭の歴史時代の標本により表され、年代は紀元後15世紀から1959年となり、ゲノム配列の網羅率は0.16~16.2倍です。これらの標本の地理的分布は、現代ライオンの歴史的範囲を覆っており、現在ではライオンが絶滅したアフリカ北部・南アフリカ共和国ケープ州・アジア西部を含みます。これらのデータと、アフリカ東部および南部4頭とインドの現生ライオン2頭と、既知のサハラ砂漠以南のアフリカの動物園で得られた2頭の全ゲノム配列により、データセットは構成されます。

 このデータセットに基づき、個体間の系統樹が作成されました(図1B)。mtDNAに基づく以前の分析と一致して、ホラアナライオンは全ての現代ライオンに対して単一系統で明確な外群を示しました。現代ライオン内では、2系統が検出されました。一方は、アジアとアフリカ北部および西部から構成される北方系統、もう一方はアフリカ中央部・東部・南部から構成される南方系統です。現代ライオン内では、この系統関係はおおむねmtDNAおよびmtDNA・常染色体の遺伝標識に基づくものと一致します。

 しかし、本論文で提示されたゲノム規模データセットでは、重要な違いと詳細が明らかになりました。まず、mtDNAではアフリカ中央部集団と北部集団とがクラスタ化します。対照的にゲノム規模データセットでは、アフリカ中央部集団はアフリカ南部系統と集団化します。さらに、ゲノム全体の局所的系統の分析でも、こうした食い違いは見られます。同様に、mtDNAデータでは、絶滅したアフリカ北部のライオンは、アフリカ西部ライオンよりもむしろ、アジアのライオンとより最近の共通祖先を共有していた、と示唆され、それはアフリカ西部ライオンとアフリカ北部ライオンとを強く関連づけるゲノム規模データと一致しません。mtDNAと核DNAのデータセット間のこうした不一致は、ネコ科では珍しくなく、mtDNAのような単一の非組換え遺伝標識の確率論的分類、および/または性的偏りの集団接続のパターンを反映しているかもしれません。以下、各標本の場所と系統関係を示した本論文の図1です。
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●ホラアナライオンと現代ライオンとの関係

 ミトコンドリアゲノムの一部に基づく以前の研究では、化石記録を用いて、ホラアナライオンと現代ライオンとは50万年前頃に分岐した、と推定されました。最近では、mtDNAの完全な配列と複数の化石記録を用いて、両系統の分岐は189万年前頃と推定されています。この不一致を調べ、系統関係をより正確に解明するため、全ゲノム配列を活用して、派生的アレル(対立遺伝子)と雄X染色体とミスマッチ率から、化石記録に依拠せずに分岐年代が推定されました。本論文の推定するホラアナライオンと現代ライオンとの間の分岐年代は50万年前頃で、ヨーロッパの化石記録においてライオンが中期更新世早期に出現することと一致します。

 ホラアナライオンと現代ライオンの祖先集団とは、ユーラシア南西部で接触した可能性があるので、両者の間の遺伝子流動について調べられました。ホラアナライオンでもシベリアの個体が他の全ての現代ライオンと対称的に関連している一方で、ユーコン準州の個体は他の現代ライオンよりもアフリカ南部の現代ライオンとより多くのアレルを共有している、と示唆されました。しかし、シベリアのホラアナライオン個体のゲノム網羅率をユーコン準州個体と同程度にすると、同じ結果が得られました。そのため、ユーコン準州のホラアナライオンとアフリカ南部の現代ライオンとの共有アレルの多さは、ユーコン準州個体の網羅率が0.6倍と低いこと、および/もしくは一塩基多型の収集における偏りに起因する歪みと考えられます。したがって、ホラアナライオンと現代ライオンとの間の遺伝子流動について、確たる証拠はない、と結論づけられます。

 この観察は、大型ネコ間の種間交雑の増加しつつある証拠とは著しく対照的です。全ての現代ライオンの祖先とホラアナライオンとの遺伝子流動の可能性は除外できませんが、混合の欠如にはもっともな理由があるかもしれません。たとえば、ホラアナライオンと現代ライオンの祖先集団は同じ場所にいなかったかもしれません。また、仮に同じ場所にいたとしても、行動学的もしくは生態学的に適合しなかったかもしれません。たとえば、ホラアナライオンの雄には、現代ライオンの雄に特徴的な鬣がなかった、と示唆されています。これが生殖隔離を誘発もしくは強化したかもしれません。その他にも、集団生活など他の行動と生態の違いが、生殖隔離をもたらしたかもしれません。mtDNAの分析では、アメリカライオンとホラアナライオンは生殖隔離の程度で一致しており、両者の間で何らかの競合が存在した可能性が示唆されます。


●現代ライオンの集団史

 主成分分析および集団クラスタ化分析により、現代ライオンの集団史が調べられました。両分析ともに、ゲノム規模系統で観察された地理的な集団分岐と同様に、南北系統の特徴を強調します。ホラアナライオンと同様に現代ライオン集団間の分岐年代が推定され、最も深い分岐は南北間の7万年前頃(98000~52000年前頃)です。これは、常染色体遺伝標識に基づく以前の推定よりはやや新しいものの、mtDNAに基づく以前の推定とは一致します。また、この7万年前頃の分岐とほぼ同時に、北方系統の有効集団規模が突然減少した、と推定されます。北方系統におけるこの深刻なボトルネック(瓶首効果)は、後期更新世に南方系統のわずかな個体群のみがサハラ砂漠北部地域へと拡散したことを示唆します。

 しかし、現代ライオンの分岐の詳細を調べると、上記の図1のような系統樹では複雑な進化史を完全には把握できていない、と明らかになりました。たとえば、アフリカ中央部ライオンは南方系統に分類されますが、一貫して他の南方集団よりも北方集団の方と近い分岐を示します。これは、常染色体およびmtDNA系統における、アフリカ中央部ライオンの混合起源と一致しており、アフリカ中央部ライオンが南北両系統をかなり有する、と強く示唆します。じっさい、全ゲノムデータを用いた最近の研究では、アフリカ中央部ライオンが北方クレード(単系統群)に分類されると示唆されています。

 混合の検証では、アフリカ中央部ライオンがアフリカ東部および南部ライオンよりも有意に、アジアライオンとアレルを多く共有し、北方関連系統を23%程度有する、との仮説が支持されます。さらに、アフリカ西部ライオンはアフリカ北部ライオンよりもアフリカ南部系統とより多くのアレルを共有しており、そのゲノムの11.4%程度は南部関連系統に由来する、と推定されます。この集団間の遺伝子流動は、セネガルのライオン1個体により示され、かなりの「南方アレル」を有することから、近い世代での混合が推測されます。まとめると、アフリカ西部および中央部はライオン系統の「坩堝」で、南北両系統が7万年前頃に分岐した後、重複し、混合した地域だと考えられます。

 興味深いことに、アフリカ北部ライオンと比較して、アジアライオンと南方系統との間でアレルの共有が多い、と検出されました。これは、両者の現在の長大な地理的距離を考えると、驚くべきことです。しかし、サハラ砂漠以南のアフリカと近東の間の移住回廊は、過去、たとえば完新世初期のナイル川流域で開けていた可能性があります。この仮説では、アトラス山脈とサハラ砂漠に代表される地理的障壁により、アフリカ北部ライオンは南方系統との二次的接触から隔離された、と想定されます。アジアライオンと南方系統との間の遺伝子流動に関する非排他的な代替的仮説は、アフリカ北部ライオンと絶滅した「ゴースト(仮定的)」ライオン集団との間の混合を反映している、というものです。この仮説を包括的に検証するには、アフリカ北部ライオンのさらなる標本抽出が必要となります。以下、この混合を示した本論文の図3です。
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●ライオンの近親交配

 ライオンの遺伝的多様性の時空間的変化を調べるため、ホモ接合連続領域(ROH;両親からそれぞれ受け継いだと考えられる同じ対立遺伝子のそろった状態が連続するゲノム領域)が検証されました。シベリアのホラアナライオンの平均的な常染色体ヘテロ接合性は、現代ライオン内で観察された範囲内に収まり、ROHのゲノム配列の割合は本論文のデータセットでは最低でした。mtDNAに基づく以前の研究では、ホラアナライオンにおいて47000~18000年前頃に強い集団ボトルネックがあった、と推定されており、本論文で分析されたシベリアのホラアナライオン個体の年代が30870±240年前頃であることから、意外な結果です。しかし、本論文で分析されたシベリアのホラアナライオンは、強いボトルネックを経なかった集団に属しており、以前の研究ではホラアナライオンの多様性が過小評価されていたかもしれません。

 現代ライオンでは、南方系統の平均的な塩基対あたりの常染色体ヘテロ接合性は、セネガルの混合個体を除いて、北方系統よりも高い、と明らかになりました。同様に、北方集団は平均して、南方集団よりも長いROHを有していますが、飼育下のライオンは例外で、最近の近親交配の痕跡を示します。まとめると、これは北方系統の連続的なボトルネックの集団史と一致します。北方系統の祖先はサハラ砂漠以南のアフリカから拡散し、より孤立して小さな集団で存続した、と考えられます。

 これに加えて非排他的な要因として、北方系統のより小さな集団規模は、人為的圧力に起因している可能性もあります。それは、近親交配の水準と大規模な人類文化の範囲との間の相関の可能性があるからで、たとえばアジアのインダス文化やメソポタミア文化、アフリカ北部の古代エジプトやギリシアやローマです。さらに、マイクロサテライト(DNAの塩基配列中にある、数塩基の単位配列の繰り返しからなる反復配列)データからは、アフリカ南部のいくつかの国々におけるライオンの遺伝的多様性が、20世紀にかけて大きく減少し、ヨーロッパ勢力の植民地拡大と一致する、と示唆されます。本論文のゲノム規模データでも、南方系統における近親交配率の最近の増加が示唆されます。現在の野生4頭は、歴史時代の3頭と比較して、ホモ接合性のゲノムの割合が平均して49%増加しています。しかし、本論文で標本抽出された歴史時代の個体群は、現在の個体群の直接的祖先ではないかもしれず、また標本抽出された個体はあまりにも少ないので、標本数の増加が観察に影響を与える可能性も否定できません。

 以前の研究で予測されたように、ゲノム多様性の最も極端な減少は現在のインドライオンで見られ、アフリカ南部ライオンと比較してヘテロ接合性が16倍減少しました。対照的に、アフリカ北部ライオンは、絶滅前の100年間でも、現在のアフリカ南部ライオンに匹敵するヘテロ接合性を維持していたようです。インドライオンのゲノムの約90%がROHに収まります。さらに、インドライオン2頭は遺伝的にほぼ同一で、1万塩基対あたり3ヶ所未満しか異なりません。インドライオンのゲノム多様性は顕著に低く、農耕発展・銃器使用の増加などに起因する、18世紀以後の強い衰退の記録と一致します。

 これらの要因により、インドライオン集団はほぼ絶滅に陥り、20世紀初頭にはカーティヤーワール半島において20頭まで減少しました。興味深いことに、歴史時代のアジアライオンはヘテロ接合性が高く、ROHは現在のライオンより短い傾向があり、より古い集団ボトルネックが1000~1400年前頃との推定と一致します。本論文の標本群が、20世紀初頭までのアジアライオンにおける極端なボトルネックに先行する、との見解は魅力的です。しかし、博物館の標本に関して正確な地理情報はないので、アジアライオンの個体数減少の年代とは場所に関してより正確に解明するには、さらに標本抽出が必要です。

 類似した広範な近親交配の痕跡が、孤立した肉食動物集団で報告されてきました。近親交配は、ホモ接合性における強く有害な変異の増加を通じて、集団の生存可能性を損なう可能性があります。小さな集団規模と近親交配がインドライオンの有害な変異の蓄積につながったのか、検証したところ、インドライオンはホモ接合性において有害な変異を平均して12.7%多く有していると明らかになり、有害な変異が劣性(潜性)である場合、かなりの遺伝的負荷が示唆されます。これらの知見は、インドライオンにおける、精子の移動能力やテストステロン水準の低下および頭蓋欠損の報告と一致します。さらに、選択の有効性をより直接的に評価するため、ミスセンス(アミノ酸が変わるような変異)有害変異と同義変異との間のホモ接合性の比率が調べられました。強い浮動と弱い選択の下で有害なアレルが増加するかもしれないので、この比率は小集団で上昇する、と予測されています。じっさい、この比率はアフリカライオンよりもインドライオンの方でずっと高いと明らかになり、選択の緩和された有効性と一致します。


●保護への影響

 歴史的に、現代ライオンは最大11亜種が認識されてきました。2017年には、分子研究により、アジアとアフリカ西部および中央部の亜種(Panthera leo)とアフリカ東部および南部の亜種(Panthera leo melanochaita)の計2亜種に減りました。本論文では、アフリカ中央部ライオンがmtDNAに基づく系統樹ではユーラシアおよびアフリカ北部の現代ライオン(Panthera leo leo)とクラスタ化するものの、ゲノム規模分析ではアフリカ東部および南部系統(Panthera leo melanochaita)とのより高い類似性を示す、と明らかにされました。したがって、アフリカ中央部ライオンの分類学的位置は修正される必要がある、と示唆されます。

 しかし、本論文のゲノム規模データは、アフリカ中央部の野生ライオン1頭に基づいており、全ゲノムおよびマイクロサテライトデータを用いた最近の研究では、コンゴ民主共和国とカメルーンのアフリカ中央部ライオンはユーラシアおよびアフリカ北部の現代ライオン(Panthera leo leo)と優先的にクラスタ化します。さらに、アフリカ中央部と西部のライオンにおける遺伝子流動が過去には一般的だったかもしれません。両系統はおそらく長期にわたって同じ場所に生息しており、その遺伝的分岐は深くありません。どの場合でも、この問題の完全な解明には、アフリカ西部および中央部のライオンの標本抽出を増やす必要があります。

 本論文の結果は、現代では絶滅したケープライオンとバーバリーライオン集団への洞察を提供します。雄の大きく黒い鬣に基づいて、ケープライオンは南アフリカ共和国南部にのみ生息する特有の集団あるいは亜種とみなされました。しかし、mtDNAに基づく証拠では、ケープライオンは系統的に特有ではなかったかもしれない、と示唆されました。本論文のゲノム規模データはこの知見を支持し、ケープライオンをアフリカ南部ライオンで見られる遺伝的多様性内に位置づけます。

 さらに、絶滅したアフリカ北部のバーバリーライオンの復活は、アフリカ北部内外で保護主義者の注目を集めました。状況証拠は、アフリカ北部ライオンが飼育下で生き残った可能性を示唆しますが、モロッコ王立動物園の野生バーバリーライオンの最も可能性の高い子孫は、アフリカ中央部ライオンの母系子孫のようです。mtDNAに基づく研究は、アフリカ北部ライオンがその最も密接に関連した現生集団であるインドライオンを用いて復活できる、と主張します。しかし、本論文で示されたように、インドライオンとアフリカ北部ライオンがmtDNAでは密接に関連している一方で、ゲノム規模データは、アフリカ西部ライオンがアフリカ北部ライオンと最も密接に関連する系統である、と明らかにしました。したがって本論文では、アフリカ北部ライオン復活の機会においては、よりよい「ドナー」集団としてインドライオンよりもアフリカ西部ライオンの方を考慮すべきだ、と結論づけられます。

 本論文の結果は、現生野生ライオンの保護の観点で有益かもしれません。たとえばアフリカでは、将来の研究が本論文のデータに基づいて、多様性が経時的に集団においてどのように変化したのか、ゲノム侵食の定量化などを通じて調べられるかもしれません。さらに、インド亜大陸との関連では、インドにおいて現在、ライオンはグジャラート州のカーティヤーワール半島ギル森林周辺でのみ見られます。まず、以前の研究と一致して、本論文では、インドライオン集団はインド在来ではなく、インド外から導入された、という最近の主張を支持する証拠が見つかりませんでした。インドライオンは明確に、他の標本抽出集団と遺伝的に異なります。次に、インドライオン保護の取り組みは数世紀にわたる衰退後の集団規模の増加に寄与していますが、ゲノム多様性の顕著な欠如は、インドライオンが近交弱勢や遺伝的侵食や将来の病原体発生の影響をひじょうに受けやすい、と示唆します。本論文のデータが、インドライオンと他の北方現生クレードとの分岐を3万年前頃と推定していることを考えると、考慮すべき将来の活動は、近縁のライオンとの異型交配によりインドライオンの遺伝的多様性を高めることです。しかし、これに関しては、この戦略が政治的に困難で、アイル・ロイヤル国立公園のオオカミにおける遺伝的導入の効果に関する最近の観察に照らして、有益とは保証されていないため、そのような決定は軽く選択されるべきではありません。


 以上、本論文についてざっと見てきました。ライオンについては子供の頃からずっと、とくに思い入れがなかったこともあり、これまでほとんど調べてきませんでした。しかし、大型哺乳類、頂点捕食者、アフリカ起源、世界規模での拡大、深刻なボトルネック経験、複雑な交雑史などといった点で、ライオンは、ホモ属、とくに現生人類(Homo sapiens)との類似性が見られます(関連記事)。何とも単純ではありますが、本論文を読んでライオンへの親近感と関心が強くなったので、今後、ライオンに関する遺伝学的研究もできるだけ追いかけていくつもりです。


参考文献:
de Manuel M. et al.(2020): The evolutionary history of extinct and living lions. PNAS, 117, 20, 10927–10934.
https://doi.org/10.1073/pnas.1919423117

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