『卑弥呼』第41話「答え」
『ビッグコミックオリジナル』2020年7月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが義母からの忠告を回想する場面で終了しました。今回は、未明の山社(ヤマト)でミマアキとクラトが語り合う場面から始まります。ミマアキは夜通し、山社が名実ともに倭の宗主国になるための最良最短の道について考えていました。仮に山社が那(ナ)や伊都(イト)や末盧(マツロ)と和議を結び、この三国が日見子(ヒミコ)たるヤノハを擁立しても、山社は所詮、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の大国にすぎない、と説明するミマアキに、それで充分ではないか、とクラトは言います。しかし、日見子(ヤノハ)の望みは倭国泰平なので、倭全体の宗主国にならなければ目的は達せられない、とミマアキは説明します。まず筑紫島を統一し、次に大倭豊秋津島(オオヤマトトヨアキツシマ)伊予之二名島(イヨノフタナノシマ)まで侵攻しない限りそれは無理だ、とクラトは言います。するとミマアキは、漢に使者を送る、という良策を思いついた、と言います。漢の帝から金印をいただき、「倭国王」の称号を授かれば、戦わずしていかなる国も従わざるを得ないだろう、というわけです。するとクラトは、日見子様にはそこまでの大志はない、と言います。クラトは明朝、ヌカデの警固で、暈(クマ)の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)に向かい、山社の祈祷女(イノリメ)長であるイスズに、ヤノハの言伝を届けることになっていました。ヤノハは、和議を申し出てきた暈の大夫である鞠智彦(ククチヒコ)と面会するつもりです。つまり、ヤノハは那や伊都ではなく、暈を選んだ、とクラトは解釈していました。するとミマアキは、日見子様は一筋縄ではいかず、思いもよらぬ回答を鞠智彦に突きつけるかもしれない、と言います。山社の独立により、種智院までの道中には山賊がはびこって危険であるため、ミマアキはヤノハに直談判してクラトを外すよう頼んでみる、と提案します。するとクラトは、種智院の南にある実家に寄って両親に会う暇を日見子様からいただいたので、それには及ばない、と返答します。ヤノハに謁見したミマアキは、漢に遣いを送り、山社が倭の宗主国であると天下に喧伝するよう、進言します。ミマアキの姉のイクメも以前に、同様のことをヤノハに言っていましたが、ミマアキほど自信のある様子ではありませんでした。しかし、漢への道は遠く、容易な旅ではありません。それを叶えてくれるのは誰か、とヤノハに問われたミマアキは、那のトメ将軍しかいない、と即答します。
葦北(アシキタ)では、鞠智彦に配下のウガヤが、日見子(ヤノハ)からの返事を待たずに出立する理由を尋ねていました。日見子は奸智に長けた女子なので、鞠智彦と会い、暈との和議を受け入れる以外に生きる道がないことをよく承知しているはず、と鞠智彦は答えます。するとウガヤは、ならば山社よりの色よい返事を待ち、ゆっくり旅支度を整え、日見子をじらしてやればよかった、と言います。鞠智彦は、それでは日見子に思案する隙を与えてしまう、と答えます。日見子の言伝は明日の昼には種智院のイスズに届けられ、イスズの書状が鞠智の里に着くのがその4日後なので、日見子は9日か10日後に自分と会うつもりのはずだが、それよりも3日早く自分が現れたら、いかに肝の座った女でも泡を食うだろう、というわけです。鞠智彦の思考に感心するウガヤですが、10人兵士を同行させるだけでは手薄すぎる、と懸念します。すると鞠智彦は、とっておきの隠し玉があるだろう、と笑います。つまり、狼を率いるナツハのことですが、ウガヤは醜怪な子供であるナツハの技量に懐疑的です。ナツハは鞠智彦たちを樹上で見守っていましたが、そこへ手裏剣を投げつけられます。ヤノハは直ちに狼たちを操り、攻撃者の男を突き止めてその喉元に刀を突きつけます。その男は、暈の志能備(シノビ)で、棟梁の命でナツハの技量を確かめたのでした。ナツハの技量を認めた男は、棟梁に報告するためにその場を去ります。
翌日、種智院では、ヌカデがイスズと面会し、鞠智彦との面会にいつでも応じる、とのヤノハの意思を伝えました。イスズはこれに不満ですが、日見子(ヤノハ)の命に従うのみ、と言います。イスズは、鞠智彦と面会しては暈の軍門に下るだけで、先代の日見彦(ヒミヒコ)、つまり暈のタケル王と同じく、日見子は鞠智彦の操り人形になるつもりなのか、と疑問を抱いていました。つまり、再び那と戦になるのではないか、というわけです。クラトは種智院の近くらしき川で魚を獲っていた父親と再会します。クラトは父に、古の支族、おそらくは穂波(ホミ)のトモより、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の聖地である日向(ヒムカ)を侵した日見子を殺せ、という指顧があった、と打ち明けます。クラトはヤノハを本物の日見子と考えており、その現人神を自分が殺さねばならないのか、と躊躇っていました。するとクラトの父親は、自分たち一族はサヌ王の子孫の命にさえ従えばよい、と息子を諭します。トモ・イム・ヒカネ・アズミ・ワニという古の五支族はサヌ王の側近にすぎず、自分たちは国之闇戸神(クニノクラトノカミ)の末裔で、天忍日命(アメノオシヒノミコト)を奉じるトモ家よりも古い家柄なので、五支族には数えられずとも、トモ家の臣下ではないので、日見子を殺さずともよい、というわけです。クラトの一族が服従すべきは五支族ではなく、日下(ヒノモト)にいるサヌ王の子孫のみだ、と父は息子に説明します。サヌ王の子孫の望みを息子から尋ねられた父は、遠方にいるので今のサヌ王一族の考えは分からないものの、サヌ王の望みは倭国統一で、サヌ王は日見子と日見彦ではなく、政治の才能のある側近の存在を恐れていた、と答えます。その側近とは、どうやれば倭国の宗主になれるのか、その答えに気づく者で、その答えとは、どの国よりも古く大陸に遣いを送ることです。もしその方法に気づく者が日見子の近くにいれば、迷うことなく殺せ、と父に命じられたクラトが、それが恋仲のミマアキであることに気づき、愕然とするところで今回は終了です。
今回は、クラトと鞠智彦の思惑が描かれました。クラトはヤノハを本物の日見子と考えており、そのため本心では殺したくなかったようです。しかし、一族の使命では恋仲のミマアキを殺さねばならないと気づき、衝撃を受けていました。クラトが一族の使命と恋仲のミマアキとの間でどのような決断を選択するのか、今後の見どころになりそうです。ミマアキは漢への使者としてトメ将軍を推薦しましたが、トメ将軍は『三国志』に見える倭国から魏に派遣された大夫の難升米でしょうから、現在が紀元後207年頃だとすると、30年以上経って実現するのでしょう(後漢はすでに滅亡していますが)。ただ本作では、その前に山社と後漢、あるいは遼東の公孫氏政権との交渉にトメ将軍が関わってくるのかもしれません。鞠智彦とヤノハとの対面も大いに注目されますが、ヤノハの弟のチカラオと思われるナツハがヤノハと再会するのか、再会した時に姉弟はどのような反応を見せるのかも注目されます。日下の国(後の令制の大和でしょうか)にいると思われるサヌ王の子孫だけではなく、日本列島を超えて大陸情勢も絡んできそうで、たいへん壮大な話が予想されるので、今後もたいへん楽しみです。
葦北(アシキタ)では、鞠智彦に配下のウガヤが、日見子(ヤノハ)からの返事を待たずに出立する理由を尋ねていました。日見子は奸智に長けた女子なので、鞠智彦と会い、暈との和議を受け入れる以外に生きる道がないことをよく承知しているはず、と鞠智彦は答えます。するとウガヤは、ならば山社よりの色よい返事を待ち、ゆっくり旅支度を整え、日見子をじらしてやればよかった、と言います。鞠智彦は、それでは日見子に思案する隙を与えてしまう、と答えます。日見子の言伝は明日の昼には種智院のイスズに届けられ、イスズの書状が鞠智の里に着くのがその4日後なので、日見子は9日か10日後に自分と会うつもりのはずだが、それよりも3日早く自分が現れたら、いかに肝の座った女でも泡を食うだろう、というわけです。鞠智彦の思考に感心するウガヤですが、10人兵士を同行させるだけでは手薄すぎる、と懸念します。すると鞠智彦は、とっておきの隠し玉があるだろう、と笑います。つまり、狼を率いるナツハのことですが、ウガヤは醜怪な子供であるナツハの技量に懐疑的です。ナツハは鞠智彦たちを樹上で見守っていましたが、そこへ手裏剣を投げつけられます。ヤノハは直ちに狼たちを操り、攻撃者の男を突き止めてその喉元に刀を突きつけます。その男は、暈の志能備(シノビ)で、棟梁の命でナツハの技量を確かめたのでした。ナツハの技量を認めた男は、棟梁に報告するためにその場を去ります。
翌日、種智院では、ヌカデがイスズと面会し、鞠智彦との面会にいつでも応じる、とのヤノハの意思を伝えました。イスズはこれに不満ですが、日見子(ヤノハ)の命に従うのみ、と言います。イスズは、鞠智彦と面会しては暈の軍門に下るだけで、先代の日見彦(ヒミヒコ)、つまり暈のタケル王と同じく、日見子は鞠智彦の操り人形になるつもりなのか、と疑問を抱いていました。つまり、再び那と戦になるのではないか、というわけです。クラトは種智院の近くらしき川で魚を獲っていた父親と再会します。クラトは父に、古の支族、おそらくは穂波(ホミ)のトモより、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の聖地である日向(ヒムカ)を侵した日見子を殺せ、という指顧があった、と打ち明けます。クラトはヤノハを本物の日見子と考えており、その現人神を自分が殺さねばならないのか、と躊躇っていました。するとクラトの父親は、自分たち一族はサヌ王の子孫の命にさえ従えばよい、と息子を諭します。トモ・イム・ヒカネ・アズミ・ワニという古の五支族はサヌ王の側近にすぎず、自分たちは国之闇戸神(クニノクラトノカミ)の末裔で、天忍日命(アメノオシヒノミコト)を奉じるトモ家よりも古い家柄なので、五支族には数えられずとも、トモ家の臣下ではないので、日見子を殺さずともよい、というわけです。クラトの一族が服従すべきは五支族ではなく、日下(ヒノモト)にいるサヌ王の子孫のみだ、と父は息子に説明します。サヌ王の子孫の望みを息子から尋ねられた父は、遠方にいるので今のサヌ王一族の考えは分からないものの、サヌ王の望みは倭国統一で、サヌ王は日見子と日見彦ではなく、政治の才能のある側近の存在を恐れていた、と答えます。その側近とは、どうやれば倭国の宗主になれるのか、その答えに気づく者で、その答えとは、どの国よりも古く大陸に遣いを送ることです。もしその方法に気づく者が日見子の近くにいれば、迷うことなく殺せ、と父に命じられたクラトが、それが恋仲のミマアキであることに気づき、愕然とするところで今回は終了です。
今回は、クラトと鞠智彦の思惑が描かれました。クラトはヤノハを本物の日見子と考えており、そのため本心では殺したくなかったようです。しかし、一族の使命では恋仲のミマアキを殺さねばならないと気づき、衝撃を受けていました。クラトが一族の使命と恋仲のミマアキとの間でどのような決断を選択するのか、今後の見どころになりそうです。ミマアキは漢への使者としてトメ将軍を推薦しましたが、トメ将軍は『三国志』に見える倭国から魏に派遣された大夫の難升米でしょうから、現在が紀元後207年頃だとすると、30年以上経って実現するのでしょう(後漢はすでに滅亡していますが)。ただ本作では、その前に山社と後漢、あるいは遼東の公孫氏政権との交渉にトメ将軍が関わってくるのかもしれません。鞠智彦とヤノハとの対面も大いに注目されますが、ヤノハの弟のチカラオと思われるナツハがヤノハと再会するのか、再会した時に姉弟はどのような反応を見せるのかも注目されます。日下の国(後の令制の大和でしょうか)にいると思われるサヌ王の子孫だけではなく、日本列島を超えて大陸情勢も絡んできそうで、たいへん壮大な話が予想されるので、今後もたいへん楽しみです。
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