ペルー人の低身長の遺伝的要因
ペルー人の低身長の遺伝的要因に関する研究(Asgari et al., 2020)が公表されました。ペルー人の平均身長は、世界平均と比較すると低い水準にあり、平均身長は男性が165.3cm、女性が152.9cmです。この研究は、ペルー人の身長に関連する遺伝的要因を解明するため、リマに居住する3134人の遺伝的データと身長のデータを入手し、ゲノム規模関連解析(GWAS)を行ないました。その結果、アメリカ大陸先住民を祖先に持つことが、民族的に多様なペルー人集団における低身長と関連づけられる、と示されるとともに、FBN1遺伝子の集団特異的なミスセンス(アミノ酸が変わるような変異)多様体(E1297G)が、低身長と有意に関連することも明らかにされています。
598人のペルー人からなる独立のコホートにおいて、この関連を確認したところ、マイナー対立遺伝子(アレル)頻度が4.7%であるこのミスセンス多様体(E1297G)の各コピーは、身長を2.2 cm低下させる、と明らかになりました(ホモ接合では4.4 cm低下することになります)。本論文はこれを、ありふれた身長関連多様体としては最も効果量が大きい、と評価しています。FBN1遺伝子は、細胞外マトリックス(細胞を支持してその増殖を制御する構造物)に関与するタンパク質であるフィブリリン1をコードしています。フィブリリン1はミクロフィブリルの主要な構造的要素です。
G1297がホモ接合である個人の皮膚では、E1297がホモ接合である個人の皮膚よりも、フィブリリン1が豊富なミクロフィブリルの充填度合いが低く、ミクロフィブリルの縁は不規則でした。さらに、非アフリカ系現代人集団ではE1297G座位が正の選択を受けており、E1297多様体には、ペルー人集団に特異的な正の選択を示すわずかな証拠が見られることも明らかになりました。ペルー国内3地域の出身者150人におけるE1297Gの頻度比較では、アンデス山脈やアマゾン川流域のペルー人集団よりも沿海部のペルー人集団の方が高く、これは、低身長がペルーの沿海環境に関連した要因への適応の結果である可能性を示唆しています。
現代ペルー人の形成過程は複雑だった、と考えられています。ペルーでは、まずアマゾン地域集団とアンデス地域集団および沿岸地域集団とが分岐し、その後でアンデス地域系統と沿岸地域系統とが分岐した、と推測されています(関連記事)。また、2000年前頃以後には地域的な遺伝的継続性が強く見られるようになった、と推測されています(関連記事)。このような人口構造を前提として、16世紀以降のヨーロッパ系(おもにスペイン系)集団の征服活動により、ヨーロッパ系とアメリカ大陸先住民系との混合が進み、現代ペルー人が形成されましたが、ヨーロッパ系の影響の比較的低い集団も存在し、そうした集団は孤立傾向にあったと示唆されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:ペルー人の身長が平均より低いことの遺伝的説明
ペルー人の身長が低いことに関連する遺伝的バリアントが見つかったことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。このバリアントを2コピー有するペルー人(ホモ接合者)は、身長が平均4.4センチメートル低かった。
ペルー人の身長は世界で最も低く、男性の平均身長は165.3センチメートル、女性は152.9センチメートルである。しかし、この現象の原因となる特有の遺伝子と過程は分かっていなかった。
今回、Soumya Raychaudhuriたちの研究チームは、ペルー人の身長に寄与すると考えられる遺伝的要因を突き止めるため、ペルーのリマに居住する3134人の遺伝的データと身長のデータを入手し、ゲノム規模関連解析(GWAS)を行った。その結果、FBN1遺伝子の変異が見つかった。FBN1遺伝子は、細胞外マトリックス(細胞を支持してその増殖を制御する構造物)に関与するタンパク質をコードしている。次に、Raychaudhuriたちは、598人のペルー人からなる独立のコホートにおいて、この関連を確認した。このバリアント(E1297G)は、対立遺伝子当たり身長を2.2センチメートル低くする効果が認められた。
そしてRaychaudhuriたちは、ペルー国内の3つの地域の出身者150人におけるE1297Gの頻度を比較した。出身地の内訳は、アマゾン地方が28人、沿岸部が46人、アンデス地方が76人だった。E1297Gの頻度が最も高かったのは沿岸部の集団であり、Raychaudhuriたちは、沿岸部の環境に関連した要因に対する順応の結果として低身長になった可能性があるという見解を示している。
参考文献:
Asgari S. et al.(2020): A positively selected FBN1 missense variant reduces height in Peruvian individuals. Nature, 582, 7811, 234–239.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2302-0
598人のペルー人からなる独立のコホートにおいて、この関連を確認したところ、マイナー対立遺伝子(アレル)頻度が4.7%であるこのミスセンス多様体(E1297G)の各コピーは、身長を2.2 cm低下させる、と明らかになりました(ホモ接合では4.4 cm低下することになります)。本論文はこれを、ありふれた身長関連多様体としては最も効果量が大きい、と評価しています。FBN1遺伝子は、細胞外マトリックス(細胞を支持してその増殖を制御する構造物)に関与するタンパク質であるフィブリリン1をコードしています。フィブリリン1はミクロフィブリルの主要な構造的要素です。
G1297がホモ接合である個人の皮膚では、E1297がホモ接合である個人の皮膚よりも、フィブリリン1が豊富なミクロフィブリルの充填度合いが低く、ミクロフィブリルの縁は不規則でした。さらに、非アフリカ系現代人集団ではE1297G座位が正の選択を受けており、E1297多様体には、ペルー人集団に特異的な正の選択を示すわずかな証拠が見られることも明らかになりました。ペルー国内3地域の出身者150人におけるE1297Gの頻度比較では、アンデス山脈やアマゾン川流域のペルー人集団よりも沿海部のペルー人集団の方が高く、これは、低身長がペルーの沿海環境に関連した要因への適応の結果である可能性を示唆しています。
現代ペルー人の形成過程は複雑だった、と考えられています。ペルーでは、まずアマゾン地域集団とアンデス地域集団および沿岸地域集団とが分岐し、その後でアンデス地域系統と沿岸地域系統とが分岐した、と推測されています(関連記事)。また、2000年前頃以後には地域的な遺伝的継続性が強く見られるようになった、と推測されています(関連記事)。このような人口構造を前提として、16世紀以降のヨーロッパ系(おもにスペイン系)集団の征服活動により、ヨーロッパ系とアメリカ大陸先住民系との混合が進み、現代ペルー人が形成されましたが、ヨーロッパ系の影響の比較的低い集団も存在し、そうした集団は孤立傾向にあったと示唆されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
遺伝学:ペルー人の身長が平均より低いことの遺伝的説明
ペルー人の身長が低いことに関連する遺伝的バリアントが見つかったことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。このバリアントを2コピー有するペルー人(ホモ接合者)は、身長が平均4.4センチメートル低かった。
ペルー人の身長は世界で最も低く、男性の平均身長は165.3センチメートル、女性は152.9センチメートルである。しかし、この現象の原因となる特有の遺伝子と過程は分かっていなかった。
今回、Soumya Raychaudhuriたちの研究チームは、ペルー人の身長に寄与すると考えられる遺伝的要因を突き止めるため、ペルーのリマに居住する3134人の遺伝的データと身長のデータを入手し、ゲノム規模関連解析(GWAS)を行った。その結果、FBN1遺伝子の変異が見つかった。FBN1遺伝子は、細胞外マトリックス(細胞を支持してその増殖を制御する構造物)に関与するタンパク質をコードしている。次に、Raychaudhuriたちは、598人のペルー人からなる独立のコホートにおいて、この関連を確認した。このバリアント(E1297G)は、対立遺伝子当たり身長を2.2センチメートル低くする効果が認められた。
そしてRaychaudhuriたちは、ペルー国内の3つの地域の出身者150人におけるE1297Gの頻度を比較した。出身地の内訳は、アマゾン地方が28人、沿岸部が46人、アンデス地方が76人だった。E1297Gの頻度が最も高かったのは沿岸部の集団であり、Raychaudhuriたちは、沿岸部の環境に関連した要因に対する順応の結果として低身長になった可能性があるという見解を示している。
参考文献:
Asgari S. et al.(2020): A positively selected FBN1 missense variant reduces height in Peruvian individuals. Nature, 582, 7811, 234–239.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2302-0
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