ゴンドワナテリウム類の骨格化石
ゴンドワナテリウム類の初めての骨格化石に関する研究(Krause et al., 2020)が公表されました。南半球の超大陸ゴンドワナに由来する中生代(2億5200万~6500万年前頃)の哺乳型類(哺乳類およびその近縁種)の化石記録は、北半球の超大陸ローラシアと比較してはるかに少ない、と理解されています。中生代の哺乳型類のうち、ゴンドワナテリウム類は最も理解が進んでいないクレード(単系統群)の一つで、その標本はこれまで、1点の頭蓋と、個々の顎の骨や単離歯が見つかっているのみでした。そのため、ゴンドワナテリウム類の解剖学的構造・古生物学的特徴・系統発生学的な関係性はまだ明らかにされていません。
この研究は、マダガスカルで発見された、白亜紀最後期(7210万~6600万年前頃)の関節がつながった保存状態の極めて良好なゴンドワナテリウム類の一種の骨格を報告しています。この骨格は新属新種(Adalatherium hui)に分類されました。これは、「狂気」を意味するマダガスカル語と「獣」を意味するギリシア語の組み合わせです(以下、「狂獣」と省略)。この標本は、中生代のゴンドワナ大陸に生息した哺乳型類としてはこれまでに発見されたものの中で最も完全な骨格で、ゴンドワナテリウム類の既知で唯一の頭蓋後方要素と下顎の上行枝を含みます。
狂獣の骨格化石には、多数の体幹椎骨と幅広で短い尾が1つ含まれており、小さな骨や軟骨組織も保存されていました。この化石標本は、未成熟個体ではあるものの、推定体重が3.1kgで、これまでに知られている中生代のゴンドワナ大陸に生息していた哺乳類の中で最も大きな部類に入ります。哺乳類の場合、島嶼部で進化することの最も明白で定量化可能な影響は体サイズに関係しているため、孤立した環境で進化した生物種が巨大化することがある、という学説が提唱されています。狂獣の体重は、こうした巨大化を反映している可能性があります。
この新たな分類群を含めた系統発生学的解析からは、ゴンドワナテリウム類が多丘歯類(おもに北半球の大陸に生息することが知られる齧歯類様哺乳類で、始新世に絶滅しました)の姉妹群として位置づけられました。狂獣の骨格は、中生代のゴンドワナ大陸の哺乳型類のものとしては最大級で、多くの特異な特徴と、真獣類(真獣亜綱)の哺乳類のものに収斂的な特徴とを併せ持つため、とくに注目されます。この特異性は、狂獣がマダガスカルで2000万年以上にわたり孤立していた、とする系統史と整合的です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化:「狂獣」の発見によって充実したゴンドワナ大陸の化石記録
古代地球の南半球にあったゴンドワナ大陸に生息していたゴンドワナテリウム類哺乳動物の初めてのほぼ完全な骨格化石が、マダガスカルの白亜紀の地層から発見されたことを報告するDavid Krauseたちの論文が、今週、Nature に掲載される。この発見は、哺乳類の初期進化を解明する手掛かりとなる。
ゴンドワナ大陸における中生代(2億5200万~6500万年前)の哺乳類の化石記録は、北半球のローラシア大陸と比べて、規模がはるかに小さい。ゴンドワナ大陸にいたことが知られる哺乳類分類群の1つがゴンドワナテリウム類だが、その存在を示す証拠は、ばらばらに発見された顎と歯の化石と1個の頭蓋骨しかなかった。
今回のKrauseたちの論文には、中生代のゴンドワナ大陸に存在した哺乳類のこれまでで最も完全な骨格化石が記述されている。これは、新属新種の哺乳類とされ、Krauseたちは「狂気」を意味するマダガスカル語と「獣」を意味するギリシャ語からなるAdalatherium huiと命名した。この骨格化石には、多数の体幹椎骨と幅広で短い尾が1つ含まれており、小さな骨や軟骨組織も保存されていた。この化石標本は、未成熟個体だが、推定体重が3.1キログラムで、これまでに知られている中生代のゴンドワナ大陸に生息していた哺乳類の中で最も大きな部類に入る。哺乳類の場合、島嶼部で進化することの最も明白で定量化可能な影響は体サイズに関係しているため、孤立した環境で進化した生物種が巨大化することがあるという学説が提唱されている。A. huiの体重は、こうした巨大化を反映している可能性がある。
Krauseたちは、A. huiと他の生物種の進化的関係の分析を通じて、A. huiを多丘歯類(主に北半球の大陸に生息することが知られる齧歯類様哺乳類)の近縁種と位置付けた。A. huiについては、骨格化石がほぼ完全なこととマダガスカルの島国環境で生息していたことから、中生代の哺乳形類が孤立した環境でどのように進化したのかを研究する機会が得られた。
古生物学:マダガスカルで発見された白亜紀の哺乳類骨格が示す長期にわたる島嶼隔離
古生物学:ゴンドワナテリウム類の初めての骨格化石
ゴンドワナテリウム類は、主に顎や歯の断片的な化石からのみ知られる中生代哺乳類の一群で、南半球の大陸で発見されている。最も有名なものはVintanaで、マダガスカルで発見された白亜紀の頭蓋標本で知られる。今回、同じくマダガスカルで白亜紀の別の化石が、頭蓋のみではなく全身骨格として発見された。その頭蓋には丈夫で粉砕に適した歯列があり、全身の外観はアナグマに似ているがサイズはオポッサムほどだったと考えられる。系統発生学的解析からは、この極めて特異な生物が多丘歯類の近くに位置付けられた。多丘歯類は、その大半が北半球の大陸で見つかっている齧歯類様の哺乳類で、成功を収めたが始新世に絶滅している。
参考文献:
Krause DW. et al.(2020): Skeleton of a Cretaceous mammal from Madagascar reflects long-term insularity. Nature, 581, 7809, 421–427.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2234-8
この研究は、マダガスカルで発見された、白亜紀最後期(7210万~6600万年前頃)の関節がつながった保存状態の極めて良好なゴンドワナテリウム類の一種の骨格を報告しています。この骨格は新属新種(Adalatherium hui)に分類されました。これは、「狂気」を意味するマダガスカル語と「獣」を意味するギリシア語の組み合わせです(以下、「狂獣」と省略)。この標本は、中生代のゴンドワナ大陸に生息した哺乳型類としてはこれまでに発見されたものの中で最も完全な骨格で、ゴンドワナテリウム類の既知で唯一の頭蓋後方要素と下顎の上行枝を含みます。
狂獣の骨格化石には、多数の体幹椎骨と幅広で短い尾が1つ含まれており、小さな骨や軟骨組織も保存されていました。この化石標本は、未成熟個体ではあるものの、推定体重が3.1kgで、これまでに知られている中生代のゴンドワナ大陸に生息していた哺乳類の中で最も大きな部類に入ります。哺乳類の場合、島嶼部で進化することの最も明白で定量化可能な影響は体サイズに関係しているため、孤立した環境で進化した生物種が巨大化することがある、という学説が提唱されています。狂獣の体重は、こうした巨大化を反映している可能性があります。
この新たな分類群を含めた系統発生学的解析からは、ゴンドワナテリウム類が多丘歯類(おもに北半球の大陸に生息することが知られる齧歯類様哺乳類で、始新世に絶滅しました)の姉妹群として位置づけられました。狂獣の骨格は、中生代のゴンドワナ大陸の哺乳型類のものとしては最大級で、多くの特異な特徴と、真獣類(真獣亜綱)の哺乳類のものに収斂的な特徴とを併せ持つため、とくに注目されます。この特異性は、狂獣がマダガスカルで2000万年以上にわたり孤立していた、とする系統史と整合的です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化:「狂獣」の発見によって充実したゴンドワナ大陸の化石記録
古代地球の南半球にあったゴンドワナ大陸に生息していたゴンドワナテリウム類哺乳動物の初めてのほぼ完全な骨格化石が、マダガスカルの白亜紀の地層から発見されたことを報告するDavid Krauseたちの論文が、今週、Nature に掲載される。この発見は、哺乳類の初期進化を解明する手掛かりとなる。
ゴンドワナ大陸における中生代(2億5200万~6500万年前)の哺乳類の化石記録は、北半球のローラシア大陸と比べて、規模がはるかに小さい。ゴンドワナ大陸にいたことが知られる哺乳類分類群の1つがゴンドワナテリウム類だが、その存在を示す証拠は、ばらばらに発見された顎と歯の化石と1個の頭蓋骨しかなかった。
今回のKrauseたちの論文には、中生代のゴンドワナ大陸に存在した哺乳類のこれまでで最も完全な骨格化石が記述されている。これは、新属新種の哺乳類とされ、Krauseたちは「狂気」を意味するマダガスカル語と「獣」を意味するギリシャ語からなるAdalatherium huiと命名した。この骨格化石には、多数の体幹椎骨と幅広で短い尾が1つ含まれており、小さな骨や軟骨組織も保存されていた。この化石標本は、未成熟個体だが、推定体重が3.1キログラムで、これまでに知られている中生代のゴンドワナ大陸に生息していた哺乳類の中で最も大きな部類に入る。哺乳類の場合、島嶼部で進化することの最も明白で定量化可能な影響は体サイズに関係しているため、孤立した環境で進化した生物種が巨大化することがあるという学説が提唱されている。A. huiの体重は、こうした巨大化を反映している可能性がある。
Krauseたちは、A. huiと他の生物種の進化的関係の分析を通じて、A. huiを多丘歯類(主に北半球の大陸に生息することが知られる齧歯類様哺乳類)の近縁種と位置付けた。A. huiについては、骨格化石がほぼ完全なこととマダガスカルの島国環境で生息していたことから、中生代の哺乳形類が孤立した環境でどのように進化したのかを研究する機会が得られた。
古生物学:マダガスカルで発見された白亜紀の哺乳類骨格が示す長期にわたる島嶼隔離
古生物学:ゴンドワナテリウム類の初めての骨格化石
ゴンドワナテリウム類は、主に顎や歯の断片的な化石からのみ知られる中生代哺乳類の一群で、南半球の大陸で発見されている。最も有名なものはVintanaで、マダガスカルで発見された白亜紀の頭蓋標本で知られる。今回、同じくマダガスカルで白亜紀の別の化石が、頭蓋のみではなく全身骨格として発見された。その頭蓋には丈夫で粉砕に適した歯列があり、全身の外観はアナグマに似ているがサイズはオポッサムほどだったと考えられる。系統発生学的解析からは、この極めて特異な生物が多丘歯類の近くに位置付けられた。多丘歯類は、その大半が北半球の大陸で見つかっている齧歯類様の哺乳類で、成功を収めたが始新世に絶滅している。
参考文献:
Krause DW. et al.(2020): Skeleton of a Cretaceous mammal from Madagascar reflects long-term insularity. Nature, 581, 7809, 421–427.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2234-8
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