後期更新世のアフリカ東部の人類の足跡

 後期更新世のアフリカ東部の人類の足跡に関する研究(Hatala et al., 2020)が公表されました。足跡は、当時の人類の身長や移動様式や社会構造を解明するうえで重要な手がかりとなります。本論文は、タンザニア北部のナトロン(Natron)湖のすぐ南に位置するエンガレセロ(Engare Sero)で発見された後期更新世の人類の足跡を報告しています。エンガレセロの足跡の年代は、アルゴン-アルゴン法年代測定により19100±3100~5760±30年前と推定されています(関連記事)。エンガレセロの人類の足跡の数は、少なくとも408個です。年代と形態から、これらの足跡を残したのは現生人類(Homo sapiens)と考えられています。

 足跡のサイズと間隔と向きから、17種類の足跡の軌跡に関しては、南西方向に同じ歩行速度で一緒に移動した人類の一群のものと推測されています。この一群は、14人の成人女性と2人の成人男性と1人の若年男性により構成されていた可能性が高く、女性たちが一緒に採餌しており、男性たちは、そこにやって来たか、女性たちの同伴者たった、と推測されています。こうした行動は、現代のアフリカの狩猟採集民に見られます。これらの知見は、性別に基づく分業を示唆しています。北東に向かう6種類の足跡の軌跡に関してはついて、移動速度のばらつきが大きいと推定されており、1集団にまとまって移動したのではなく、個人それぞれ異なる速度で走ったり、歩いたりして移動した、と推測されています。

 エンガレセロの現生人類の足跡は、70万年前頃となるエチオピアのホモ属の足跡(関連記事)や、8万年前頃となるフランスのネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の足跡(関連記事)と比較すると、子供が存在しないという点で異なります。また、エチオピアで発見された150万年前頃となる広義のホモ・エレクトス(Homo erectus)の足跡からは、採餌活動に50%以上の男性が参加していたと推定されていますが(関連記事)、エンガレセロの事例は成人女性に偏っており、エレクトスから現生人類への進化の過程で、性別分業が発展した可能性を示唆します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


考古学:古代人が分業していたことを示唆する足跡化石

 これまでにアフリカで収集されたヒトの化石記録の中で最大の足跡化石のコレクションについて記述した論文が、今週、Scientific Reports? に掲載される。この化石コレクションは、更新世後期(12万6000年~1万1700年前)のヒトの生活についての理解をさらに深めるもので、古代のヒト社会で分業が行われていたことを示唆している。

 今回、Kevin Hatalaたちの研究チームは、タンザニアのエンガレ・セロで、近隣のマサイ族コミュニティーの成員が発見していた遺跡からヒトの足跡化石408点を発掘し、それらの年代を1万9100年~5760年前と決定した。Hatalaたちは、足跡化石のサイズと間隔と向きから、17種類の足跡の軌跡が、南西方向に同じ歩行速度で一緒に移動したヒトの一群のものだと考えている。この一群は、14人の成人女性、2人の成人男性、1人の若年男性によって構成されていた可能性が高いとされる。Hatalaたちは、これらの女性たちが一緒に採餌しており、男性たちは、そこにやって来たか、女性たちの同伴者であったと推測している。こうした行動は、現代の狩猟採集民(アチエイ族やハツァ族)に見られる。今回の研究で得られた知見は、古代の人間社会において性別に基づく分業があったことを示すと考えられる。

 またHatalaたちは、北東に向かう6種類の足跡の軌跡について、移動速度のばらつきが大きいと推定しており、1つのグループにまとまって移動したのではなく、一人一人がそれぞれ異なる速度で走ったり、歩いたりして移動したのではないかと考えている。

 以上の新知見は、後期更新世に東アフリカで生活していた現生人類の移動と集団行動の一面を垣間見せてくれている。



参考文献:
Hatala KG. et al.(2020): Snapshots of human anatomy, locomotion, and behavior from Late Pleistocene footprints at Engare Sero, Tanzania. Scientific Reports, 10, 7740.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-64095-0

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