水中生活に適応していたスピノサウルス

 巨大獣脚類恐竜であるスピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)の水中適応に関する研究(Ibrahim et al., 2020)が報道されました。過去数十年にわたる非鳥類型恐竜の徹底的な研究で、恐竜は陸上環境に限られていた、と強く示唆されてきました。竜脚類やハドロサウルス類などの一部の恐竜が水中環境に生息していたことを唱えたかつての説は、数十年前に棄却されています。最近、白亜紀の独特な大型獣脚類であるスピノサウルス類の少なくとも一部は半水生だったと主張されましたが、この説には解剖学的・生体力学的・化石生成論的な根拠から異論が唱えられ、議論が続いています。

 本論文は、アフリカ本土では最も完全な白亜紀の獣脚類の骨格となる、モロッコ南東部で発見された9700万年前頃の化石を分析し、スピノサウルスにおける水中での推進構造を示す、明白な証拠を提示しています。スピノサウルスは、極端に長い神経棘および細長い血道弓からなる予想外で独特な形状の尾を有し、この尾は、広範な水平方向の偏位を可能にする大型で柔軟な鰭様器官を形成していた、と明らかになりました。本論文は、水平方向に反復運動するロボット装置を用いて、さまざまな形状の尾の物理モデルで波動の力を測定することで、水中ではスピノサウルスの尾の形状が陸生恐竜の尾の形状よりも大きくて効率の良い推進力を生み出すこと、さらにこうした高い能力は、現生の水生脊椎動物が鉛直方向に広がった尾を用いて前方への推進力を生み出す遊泳能力により近いことを示しています。

 これらの結果は、スピノサウルスに関してこれまで報告されている、水中の生活様式や魚食性への一連の適応と一致します。発達の程度は低いものの、水中生活への適応はスピノサウルス科クレード(単系統群)の他の種にも認められており、このクレードはほぼ全球的に分布し5000万年に及ぶ層序範囲で発見されていることから、恐竜の水中環境への進出は大規模なものであった、と示されました。本論文は、スピノサウルスが現代のワニ類と同じような方法で水中を移動し、獲物を探していたかもしれない、と指摘しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:スピノサウルスは泳ぎが上手だった

 スピノサウルスという恐竜の分類群は、他の非鳥類型恐竜とは異なり、水中での生活に十分適していたとする考えを示したNizar Ibrahimたちの論文が、Nature に掲載される。この学説は、保存状態の良好なスピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)の尾部化石の分析に基づいている。

 スピノサウルスは、かつて繁栄した大型の捕食性恐竜の分類群で、5000万年にわたる化石記録が存在する。このIbrahimたちの論文には、モロッコ南東部にある9500万年前のケムケム地層で発見された亜成体のスピノサウルスのほぼ完全な尾部が記述されている。スピノサウルスに関しては、これまで不完全な化石だけが解明の手掛かりだった。また、これまで発見された唯一の関連化石標本は、第二次世界大戦中に破壊されてしまった。これに対して、Ibrahimたちが分析した化石は、アフリカ大陸でこれまで発見された中で最も完全な白亜紀の獣脚類の骨格化石である。

 この化石からは、スピノサウルスが一連の非常に長い神経棘によって形成された独特な形状の柔軟な尾を持っていたことが明らかになった。そして、モデル研究によって、この水かきのような尾が、柔軟性を備え、左右に動いて推力を生み出せることや、スピノサウルスが現代のクロコダイルと同じような方法で水中を移動していたことが示唆された。スピノサウルスが水中で生活していたという考えは決して新しいものではなく、スピノサウルスは、水中を歩き回り、海岸近くで魚を捕まえていたことが、以前の研究によって示唆されている。しかし、特殊化した尾が生み出す推力による移動を示す新しい証拠が明らかになったことで、スピノサウルスが水中で獲物を探していたことが暗示された。


古生物学:獣脚類恐竜における尾推進型の水中ロコモーション

Cover Story:よくできた尾:化石から明らかになったスピノサウルスの遊泳と水中での捕食

 表紙は、巨大獣脚類スピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)の想像図である。他の非鳥類型恐竜と同様に、スピノサウルス類も主に陸生であると考えられることが多く、その一部は半水生である可能性が示唆されているが、この考えは論争の的になっている。今回N Ibrahimたちは、水中での推進に適していると思われる特異な形状の尾を有するスピノサウルスの化石を提示している。この化石は、モロッコ南東部の9700万年前のケムケム地層で発見されたもので、これまでにアフリカ本土で発見されたものの中で最も完全な白亜紀の獣脚類の骨格である。その柔軟な尾には、極めて長い神経棘があり、広範な左右運動が可能であったと思われる。著者たちによるモデル研究は、この尾がかなりの推進力を生み出したことを示唆しており、スピノサウルスが現代のワニ類と同じような方法で水中を移動していた可能性を示している。



参考文献:
Ibrahim N. et al.(2020): Tail-propelled aquatic locomotion in a theropod dinosaur. Nature, 581, 7806, 67–70.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2190-3

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