アイスランド人のゲノムに基づくネアンデルタール人からの遺伝子移入の性質(追記有)

 アイスランド人のゲノムに基づいて、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)からの遺伝子移入の性質を検証した研究(Skov et al., 2020)が報道されました。日本語の報道もあります。『サイエンス』のサイトには解説記事が掲載されています。この研究はオンライン版での先行公開となります。非アフリカ系現代人集団のゲノムには、クロアチアのヴィンディヤ洞窟(Vindija Cave)遺跡で発見された5万年前頃のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と関連する非現生人類(Homo sapiens)ホモ属(古代型ホモ属)に由来する領域が2%ほどある、と推定されています(関連記事)。ヨーロッパ現代人では、1回もしくは複数回のネアンデルタール人の単一集団との交雑により、古代型系統がもたらされた、と推測されています。多くの古代型ゲノムの断片は現代人集団では分離しているので、古代型ゲノムはヨーロッパ人の全ゲノム配列データから部分的に見つけることが可能です。古代型断片が識別されれば、その多様体が現代人の表現型の多様性に与える効果も特定できます。

 現代人における古代型断片識別の以前の試みは一般的に、既存の古代型ゲノムに依存しており、それは古代型集団のハプロタイプ多様性を部分的に表します。さらに、非アフリカ系現代人の共通祖先集団へとゲノムの一部領域をもたらしたネアンデルタール人はおそらく、南シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)およびネアンデルタール人と、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人です(本論文ではまとめてDAVと省略されています)という、高網羅率のゲノム配列の得られている3人の古代型ホモ属個体から時空間的に分離した集団です。現代人のゲノムの古代型断片の中には、DAVゲノムに依存する手法では見落とされるものがあると推測されます。もし、現生人類にゲノムの一部領域をもたらしたネアンデルタール人の遺伝的情報が、たとえば古代型集団間の交雑のため、DAVゲノムの1つによく表されないとしたら、さらに多くの古代型断片が見落とされるでしょう。本論文は、現代ヨーロッパ人における古代型の多様性と、そのDAVゲノムとの関係を調査しました。

 本論文は、DAVゲノムで条件づけされていない状態の隠れマルコフモデルを使用して、27556人のアイルランド人の網羅率30倍のゲノムから、55132の一倍体ゲノムで独立して古代型断片を調べます。このモデルは、サハラ砂漠以南のアフリカ人292人を外群とした場合に発見されなかった派生的アレル(対立遺伝子)の、高密度を伴う断片を検出します。その後の分析で、古代型であると90%以上の確率で推定される14422595ヶ所の断片が得られました。

 古代型断片では、サハラ砂漠以南のアフリカ人には存在しない395304ヶ所の一塩基多型においてアレルが確認されます。これらの多様体のうち、147925ヶ所がDAVゲノムで見つかりました(以下、DAV多様体)。これらの多様体とその断片は、古代型起源である可能性がひじょうに高そうです。残りの247379ヶ所の一塩基多型では、DAVゲノムで観察されなかった派生的アレルが見られます。そのうちいくつかは、現生人類に遺伝子移入をもたらしたネアンデルタール人に存在したかもしれませんが、3個体分となるDAVゲノムでは見つかりませんでした。他のアレルは、遺伝子移入後に現生人類の古代型断片で生じたかもしれません。残りは、アフリカ人参照配列では観察されなかった非古代型多様体です。

 DAVゲノムで観察されなかった古代型多様体は、同じ古代型断片からのDAV多様体と強い連鎖不平衡にある、と予想されます。247379の推定される古代型多様体のうち、47193は少なくとも1つの近隣DAV多様体(DAV関連多様体)と関連していますが、一方で145153の古代型多様体は、DAV多様体を伴う断片で見つかったものの、それらとは関連していませんでした。後者のDAV非関連多様体は、DAVおよびDAV関連多様体よりも低頻度の傾向があり、その変異の多くはネアンデルタール人からの遺伝子移入の後に古代型断片で起きた、と示唆されます。残りの55033の多様体は、DAV多様体を伴わないと推定される古代型断片ゲノムで見つかり、以下これを非DAV多様体と呼びます。

 現生人類へと遺伝子移入された古代型多様体は、少なくとも5万年前頃には存在したに違いないので、同じ頻度の非古代型多様体よりも複数集団で見つかる可能性が高くなります。アレル頻度の制御後、ヨーロッパ人集団では、DAV非関連および非DAV多様体はそれぞれ55%と64%、DAVおよびDAV関連多様体はそれぞれ84%と77%見つかります。これは、わずかなDAV非関連および非DAV多様体が古代型起源であることと一致します。DAV非関連多様体はDAV多様体よりも推定される古代型断片の末端に近く(前者は12300塩基、後者は26800塩基)、断片末端での偽陽性のわずかな増加を示唆します。

 112709の特有の断片に対応する14422595の古代型断片候補は、読み取り可能な24億4500万塩基対ゲノムのうち11億7900万塩基対(48.2%)をカバーし、以前の研究を超えます。DAV関連およびDAV多様体を開始および終了する断片を切り取った後、古代型網羅率は9億6200万塩基対(読み取り可能なゲノムのうち39.3%で、59124の特有の断片にまたがります)と推定されます。古代型網羅率の最も保守的な推定値は、DAV多様体にのみ定義された末端に基づいて、9億2900万塩基対(読み取り可能なゲノムのうち38%で、56388の特有の断片にまたがります)と推定されます。55132の一倍体ゲノムの分析後でさえ、全ての古代型断片がアイスランド人で検出されるわけではない、と推測され、他の集団ではさらに多く発見されます。

 平均261.6の古代型断片は約3300万塩基対と対応し、一倍体ゲノムごとに識別されます。ゲノムの読み取り可能な位置は、平均して743の古代型断片にカバーされており、分析された55132の一倍体ゲノムにおいて1.34%の平均頻度に対応します。これらはおそらく過小評価されています。なぜならば、本論文の手法は、短いか、もしくは非古代型断片からじゅうぶんに分岐していない古代型断片を見落とすからです。シミュレーションは偽陽性率28.5%を示唆し、古代型断片の頻度が1.9%に近いかもしれない、と示唆します。

 DAVおよびDAV関連多様体を考慮すると、重複する古代型断片間の平均ヌクレオチド多様性は、ネアンデルタール人とデニソワ人のヘテロ接合性と類似しています。いくつかのゲノム領域は複数の遺伝子移入ハプロタイプを示唆するひじょうに多様な古代型断片を含んでいました。現代人に寄与した古代型個体群の数に焦点を当てるため、重複断片をクラスター化し、1万塩基対ごとに1多様体の平均対距離を超えない亜集団に分割しました。各亜集団は遺伝子移入する古代型ハプロタイプと近似している、と仮定されます。DAVおよびDAV関連多様体のみが亜集団の定義に用いられると、1亜集団だけに割り当てられた断片の割合は88.1%で、それはDAV多様体のみを用いると93.2%に増加します。しかし、そのような厳しい基準でさえ、最大6の異なる古代型ハプロタイプを有するゲノム領域が見つかり、複数の古代型個体群が遺伝子移入に関わっていた、と示唆されます。

 最多の多様体を共有する古代型断片とDAVゲノムの分布では、ヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人(VN)は50.8%、アルタイ地域のネアンデルタール人(AN)は13.1%、デニソワ人(DV)は3.3%です。高品質なゲノム配列の得られている古代型ホモ属3個体のうち2個体もしくはそれ以上は20.4%、DAVゲノムと共有されていない未知のものは12.2%です。未知の起源の断片はシミュレーションの偽陽性古代型断片よりも長くなっています(それぞれ、77900塩基対と40700塩基対)。しかし、未知の断片の偽陽性率がより高いことは、DAV多様体を含む古代型断片よりも、サハラ砂漠以南のアフリカ人へのより短い平均合着時間によって示唆されます。本論文の検出手法は既存の古代型ゲノムに依存していないので、長さに沿って異なるDAVゲノムのモザイク状断片を検出できます。モザイク状断片の例では、最初の25万塩基対において複数のDV特有の派生的アレルを伴い、それにAN特有の多様体が続きます。断片の18.9%はモザイク状です。

 以前から推定されていたように(関連記事)、現生人類への遺伝子移入をもたらしたネアンデルタール人は、ANよりもVNに近い、と本論文でも改めて確認されました。しかし、本論文の手法では、ANとDVのゲノムと最も密接に関連する多くの長い断片も見つかり、以前の研究でもヨーロッパ人においてそのような断片が報告されてきました。考えられる理由の一つは、ANとDVに関連するゲノムを有する複数集団から、現生人類への遺伝子移入をもたらしたネアンデルタール人への遺伝子移入が、現生人類とネアンデルタール人の交雑の前に起きた、ということです。あるいは、現生人類への遺伝子移入をもたらしたネアンデルタール人は、偶然にもVNのゲノムよりもANとDVのゲノムに類似しているように見える不完全な系統分類のため、古代に分岐したハプロタイプを有していたVNのような集団だったかもしれません。これらの古代型断片の起源を解決するため、異なる人口統計学的および交雑モデル下で広範なシミュレーションが行なわれました。その結果、アイスランド人のゲノムにおいて観察されたDV様断片の特徴は、DV様集団との以前の交雑を有する集団を想定しなければ、VN様集団からの単純な遺伝子移入と一致しない、と示唆されます。除外できない同様に興味深いシナリオは、現生人類とネアンデルタール人との主要な交雑事象前の、DV様集団から非アフリカ系現代人の共通祖先への直接的交雑です。本論文は、アイスランド人で特定された古代型断片と、高網羅率のDAVゲノムの間の対での相違を用いての、異なる古代型集団の有効人口規模と、以前の研究で推定された分岐年代を推定しました。ネアンデルタール人は比較的小さい有効人口規模(2000~3000個体)を有し、以前の分析と一致します。

 本論文で用いたアイスランド人の標本規模は27556人と大きいので、古代型遺伝子移入がほとんど若しくは全くないゲノム領域のより詳細な識別が可能となりました。この領域は「古代型砂漠」と呼ばれています。DAV多様体を含まない断片を有する100万ヶ所の検索では、5億7千万塩基対(読み取り可能なゲノムの23.3%)を覆う282ヶ所の異なる古代型砂漠が見つかりました。以前の研究で指摘されていたように(関連記事)、X染色体はとくに、古代型遺伝子移入が欠けています。古代型砂漠では、非古代型砂漠よりもわずかに遺伝子密度が高いこと(100万塩基対あたり、前者は7.52±0.372個、後者は6.87±0.179個)も明らかになりました。また、遺伝子密度を調整した後でも、古代型砂漠では非古代型砂漠よりも組み換え率が低い、と明らかになりました。さらに、DAV関連およびDAV多様体にまたがる古代型断片の割合は、組み換え率がより高い領域でさらに高く、古代型断片のヌクレオチド多様性もこれらの領域でより高い、と明らかになりました。まとめると、これらの観察結果が示唆するのは、有害ではない古代型多様体はおそらく、組み換えにより有害な古代型断片から切り離されると、現生人類の遺伝子プールで保持される可能性が高かった、ということです。

 変異の率とタイプは、現生人類集団間と大型類人猿種間で異なるかもしれない、いくつかの要因に影響を受けます。アイスランド人のゲノムにより、異なる系統の染色体間で同じ順番の遺伝子とその領域に関して、古代型と非古代型の断片の比較が可能となり、分岐してから古代型遺伝子移入が起きるまでの約50万年間に、変異過程の違いが現生人類とネアンデルタール人の間で存在したのか、決定できるようになりました。古代型と非古代型の断片の間の、アフリカ人とも共有されるものも含めての派生的アレルの数における平均的違いが計算されました。最適なシナリオは、古代型断片における2%高い一塩基多型密度と対応しますが、同じシナリオの合着シミュレーションと分散で用いられたパラメータと関連する不確実性を考慮すると、ネアンデルタール人から現生人類への主要な遺伝子移入事象(6万~5万年前頃)前に、ネアンデルタール人系統においてより高い変異率は見られませんでした。

 次に、古代型と非古代型の断片の間の変異範囲が比較されました。古代型と非古代型の塩基置換の比率から、ネアンデルタール人は現生人類と比較して、母親の出産年齢が高く、父親が子供をもつ年齢が低い、と推測されますが、他の要因も除外できません。ネアンデルタール人は有効人口規模が小さく選択が効率的ではないため、現生人類よりも有害な変異を蓄積していた、と示唆されています(関連記事)。機能的影響の4区分(最低・低・中・高)で比較すると、アイスランド人の古代型断片では有害な多様体が過剰には見つかりませんでした。したがって、現生人類との交雑時に遺伝子移入されたネアンデルタール人断片がより多くの有害な多様体を有していたならば、これらは浄化選択によりすでに除去されたでしょう。

 現代人の表現型多様性への古代型多様体の影響を調べるため、214192人のアイスランド人の約3200万の多様体に基づく271の形質との関連が検証されました。395304の古代型派生的アレルと、271の表現型との関連が評価され、連鎖不平衡を考慮した後、651の独立した関連標識に対応する、4361の表現型関連多様体が得られました。次に、その近隣の相関する非古代型多様体が、古代型多様体候補よりも強い関連性を有するのか、検証されました。その結果、101の古代型多様体候補が残りました。さらに、ゲノム規模での古代型多様体の有意性を検証した後、64の古代型多様体候補が残りました。最後に、他の古代型多様体と高い連鎖不平衡ではない多様体を除外し、表現型と関連した5つの古代型多様体が残りました。このうち一つは、ANとVNにも見られる派生的アレル(rs17632542)で、前立腺特異抗原水準の低下と強い関連があり、前立腺癌のリスクをやや低下させます。次は、ヘモグロビンの濃度を低下させ、同じ領域の他の強いシグナルに対応する非古代型多様体の調整に耐えるアレル(rs28387074)です。残りの三つは、身長をわずかに減少させるアレル(rs3118914)と、平均赤血球ヘモグロビン量を減少させるアレル(rs72728264)と、血漿プロトロンビン時間を増加させる(血液を凝固させやすくさせる)アレル(rs6013)です。rs3118914とrs72728264はDAV非関連多様体で、これは他のDAV非関連多様体と強い連鎖不平衡にあります。一方、以前の研究とは対照的に、シミ・髪や目の色・クローン病や狼瘡のような自己免疫疾患と古代型多様体との間に、統計的に有意な相関は見られませんでした。また、以前に指摘されていた免疫機能や頭蓋形態(関連記事)に関して、ネアンデルタール人の影響の強い証拠はありませんでした。

 以前に報告された古代型多様体と関連する30の表現型も評価されました。そのうち4表現型では、検証するのにじゅうぶん類似した表現型がありませんでした。残りの26表現型のうち、10個は全ゲノム規模関連で有意ではなく、13個は真の関連性がありそうな近隣の非古代型多様体を条件づけると、有意性を失いました。これらの非古代型多様体はアフリカ人集団にも存在し、報告されていた13の古代型多様体よりも表現型により大きな影響を与えます。したがって、古代型多様体とされて関連知見で以前に報告された26個のうち3個のみが、古代型起源と結論づけられます。これは、表現型関連に古代型起源を推測するさいに、非古代型多様体の検討の重要性を強調します。表現型多様性への古代型遺伝子移入のゲノム規模の効果を評価するため、各アイルランド人の有する古代型派生アレルも数えられ、271の各表現型との関連で古代型系統の多遺伝子性スコアも検証されました。たとえば身長の場合、古代型遺伝子移入から続いている断片が、現代アイスランド人を高くするのか低くするのか、検証されました。検証数の調整後、多遺伝子性スコアと271の検証されたあらゆる表現型との間の関連の証拠は見つからず、古代型系統は、現代人の表現型多様性に、最大でも穏やかな方向性の影響しか与えていない、と示唆されます。

 古代型ゲノムの大部分は、6万~5万年前頃に遺伝子移入を受けた現生人類集団の現代の子孫から得られる、と示されます。回収された古代型断片は、VNと類似した古代型集団に属する、複数の古代型個体群からのものと一致します。しかし、DVゲノムにより近い古代型断片のかなりの割合は、不完全な系統分類では説明できません。むしろ、DVの遺伝子移入が必要となります。それは上述のように、直接的に現生人類へともたらされたか、後に現生人類と交雑したネアンデルタール人にもたらされたもので、現生人類の出アフリカ後すぐに起きたに違いありません。なぜならば、その兆候は全ての非アフリカ系現代人集団に見られるからです。これは、アルタイ山脈の西方にDV様集団が存在し、そこで遺伝子流動が起きた、と考えられます。これは、ヨーロッパ(関連記事)とアルタイ山脈(関連記事)のネアンデルタール人の広範な集団移動に関する蓄積されつつある証拠と一致します。人類集団間の交雑の複雑な歴史のより詳細な解明には、追加の古代型ゲノムが必要となります。

 以上、本論文の内容について、不正確な理解ながらざっと見てきました。現代人の表現型へのネアンデルタール人の遺伝的影響は、以前に推測されていたよりもずっと低そうだ、と本論文は示します。ただ、対象はアイルランド人なので、今後広範な地域集団に対象を拡大して研究が進められることを期待しています。また、本論文ではおそらく時間的に間に合わなかったため言及されていませんが、最近、サハラ砂漠以南の現代アフリカ人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の割合は、非アフリカ系現代人の約1/3とはいえ、以前の推定よりもはるかに高かった、との見解も提示されています(関連記事)。この点も踏まえて、今後の研究は進展していくのでしょう。

 本論文で注目されるのは、アイスランド人のゲノムのうち古代型由来と思われる領域に、無視できない割合で、デニソワ人由来と、DAVゲノムと共有されない領域があることです。本論文が指摘するように、ユーラシアにおけるネアンデルタール人の広範な移動と、ネアンデルタール人とデニソワ人との交雑が明らかになっているので、デニソワ人と交雑してそのゲノムの一部を継承したネアンデルタール人集団が、非アフリカ系現代人の共通祖先集団と交雑した、と想定できます。ただ、まだ査読前ですが、最近公表された研究では、ユーラシア西部のネアンデルタール人のゲノムにはデニソワ人由来の領域がほとんど或いは全く検出されない、と報告されています(関連記事)。しかし、本論文が指摘するように、アフリカ系現代人の共通祖先集団と交雑したネアンデルタール人は、高品質なゲノム配列が得られている個体の中ではVNと遺伝的に最も近いものの、時空間的には別集団で、複数存在した可能性も考えられます。おそらくそのネアンデルタール人集団はアジア南西部、もっと限定するとレヴァントに存在した可能性が高そうで、デニソワ人と交雑したネアンデルタール人集団の子孫だったのかもしれません。また、DAVゲノムと共有されない領域についても、アジア南西部や南部の遺伝学的に未知の人類集団との交雑の影響が想定されます。後期ホモ属の交雑・進化史はたいへん複雑になってきましたが、少しずつ地道に追いかけていきたいものです。


参考文献:
Skov L. et al.(2020): The nature of Neanderthal introgression revealed by 27,566 Icelandic genomes. Nature, 582, 7810, 78–83.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2225-9


追記(2020年6月4日)
 本論文が『ネイチャー』本誌に掲載されたので、以下に『ネイチャー』の日本語サイトから引用します。



進化学:アイスランド人2万7566人のゲノムから明らかになったネアンデルタール人からの遺伝子移入の本質

進化学:アイスランドに残された旧人類の痕跡

 非アフリカ人では、ゲノムの約2%をネアンデルタール人からの遺伝子移入にたどることができる。そのため、ネアンデルタール人が現生人類に及ぼした影響には大きな関心が集まっている。今回L Skovたちは、アイスランド人2万7566人のゲノムに旧人類由来と推定される染色体断片1440万個を見いだし、現生人類ゲノムに残された旧人類の痕跡を詳細に調べている。これらの断片の約84.5%はアルタイ山脈またはヴィンディヤ洞窟のネアンデルタール人起源、3.3%はデニソワ人起源に割り当てられたが、約8分の1に相当する12.2%については起源が不明であった。

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