福留真紀『将軍と側近 室鳩巣の手紙を読む』

 新潮新書の一冊として、新潮社から2014年12月に刊行されました。本書は、室鳩巣の視線を通して、江戸時代中期、6代将軍家宣~8代将軍吉宗の時代までの幕府政治史を検証しています。本書は、将軍個人に仕え、将軍の交代とともに失脚することもある側近と、幕府官僚として将軍が交代しても政権中枢にい続ける老中とを対比させ、この期間の幕府政治史を描いていきます。おもに用いられている史料は、室鳩巣が門人の青地兼山(斉賢)・麗澤(礼幹)兄弟に宛てた手紙を主とする書簡集「兼山秘策」です。

 本書を読んで改めて、将軍側近が政治的には将軍個人に依存し、その威勢が将軍の威光に左右されていたことがよく分かります。間部詮房は家宣とその次代の家継の側近だったものの、老中からの扱いは家継の代になって悪化していき、その影響力は後退していきます。政治運営の面でも主導権を発揮して求心力が強かった家宣の側近だったからこそ、間部詮房は老中に重んじられたのであり、権威のみで政治運営の面でとても主導権を発揮できない幼少将軍の家継の側近となると、いかに家継の信頼が篤かったとはいえ、間部詮房の実質的な政治権力は弱体化せざるを得なかった、というわけです。

 本書は、室鳩巣の視線からの幕府政治の内幕・人間模様・主要人物の個性を活き活きと描き出しているように思います。ただ、人物評価というか価値判断において、倫理的側面が重視されすぎているようにも感じました。もっとも、政治において人々の感情が果たす役割は大きいでしょうから、感情に訴える倫理的側面を重視するのは当然と言えるかもしれません。吉宗の評価がたいへん高いことは気になりましたが、この点に関して私は不勉強なので、一般向け書籍を読み直すなどして、少しずつ調べ直していこう、と考えています。

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