ホモ・ナレディの子供の遺骸
ホモ・ナレディ(Homo naledi)の子供の遺骸に関する研究(Bolter et al., 2020)が報道されました。人類進化における成熟過程と生活史戦略に関する知識は、人類化石記録において未成体遺骸がひじょうに稀で、残っていたとしても部分的あるため、妨げられています。現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)を除くと、未成体の部分的な人類骨格は、アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)とアウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba)とホモ・エレクトス(Homo erectus)の3種でしか報告されていませんでした。人類の発達過程の進化史のより詳しい理解には、新たな未成体化石が必要です。
2015年に公表された、南アフリカ共和国のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)で発見されたホモ・ナレディ(Homo naledi)化石には、未成体遺骸も含まれています。ライジングスター洞窟においては、ディナレディ空洞(Dinaledi Chamber)で新生児から高齢個体まで少なくとも15個体分の化石が発見されており、レセディ空洞(Lesedi Chamber)では成体と未成体を含む少なくとも3個体分の化石が確認されています(関連記事)。ナレディの年代は、中期更新世後期となる335000~226000年前頃と推定されています。本論文は、2013~2014年のディナレディ空洞における発掘で発見された未成体遺骸について報告しています。この未成体遺骸は少なくとも9個体分となります。このうち、学童期(juvenile)となる未成体の1個体(DH7)には、歯が一部残る下顎骨・上腕骨・手の指骨・脛骨・腓骨・距骨・舟状骨などが残っています。
DH7の骨格成熟は、近縁種である198万年前頃のアウストラロピテクス・セディバの部分的骨格(MH1)と、160万年前頃となるホモ・エレクトス(Homo erectus)の部分的な骨格(KNM-WT 15000)と類似しています。MH1は9~11歳、KNM-WT 15000は8.3~8.8歳と推定されています。ともに非ヒト類人猿に近い成熟速度で現代人よりも速く、ホモ・ナレディも同様とも考えられます。しかし、ナレディの形態的特徴は複雑です。歯に関しては、ナレディの歯の萌出パターンは現生人類と類似しており、小臼歯は第二大臼歯が充分に放出するまでに充分に放出します。しかし、ナレディの歯根形成パターンは、非ヒト類人猿の方に似ています。また、ナレディの歯のエナメル質沈着パターンは、現生人類も含めて他の人類とは異なります。ナレディの脳サイズと身体サイズも、既知の人類の組み合わせに当てはまらないので、その成熟パターンの解釈はさらに複雑となります。祖先的特徴と派生的特徴の混在するナレディは、個々の身体部位で成長速度が異なっていたかもしれない、というわけです。ナレディの推定脳容量は480~610ccで、アウストラロピテクス・セディバとホモ・エレクトスの中間です。ナレディの推定身長は成体では143.5cmで、セディバと類似しています。セディバとエレクトスとナレディが類似した発達パターンを共有しているのならば、DH7の推定年齢は8~11歳です。
しかし、人類進化系統樹におけるナレディの位置づけに関しては議論があります。ナレディは早期ネアンデルタール人および早期現生人類とともに、中期更新世後期に存在した人類系統で、頭蓋データの比較から、ナレディとネアンデルタール人と現生人類の共通祖先系統がホモ・エレクトス系統と分岐した後に、ナレディの系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先系統が分岐した、との見解も提示されています(関連記事)。この見解が妥当だとすると、ナレディの成長パターンは現生人類やネアンデルタール人に近かったかもしれず、DH7の推定年齢は11~15歳となります。あるいは、ナレディの成長パターンはセディバやエレクトスとネアンデルタール人や現生人類の中間だったかもしれません。ナレディの成長パターンの分析は、現生人類の成長パターンの進化の理解にも貢献できるでしょうから、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Bolter DR, Elliott MC, Hawks J, Berger LR (2020) Immature remains and the first partial skeleton of a juvenile Homo naledi, a late Middle Pleistocene hominin from South Africa. PLoS ONE 15(4): e0230440.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0230440
2015年に公表された、南アフリカ共和国のライジングスター洞窟(Rising Star Cave)で発見されたホモ・ナレディ(Homo naledi)化石には、未成体遺骸も含まれています。ライジングスター洞窟においては、ディナレディ空洞(Dinaledi Chamber)で新生児から高齢個体まで少なくとも15個体分の化石が発見されており、レセディ空洞(Lesedi Chamber)では成体と未成体を含む少なくとも3個体分の化石が確認されています(関連記事)。ナレディの年代は、中期更新世後期となる335000~226000年前頃と推定されています。本論文は、2013~2014年のディナレディ空洞における発掘で発見された未成体遺骸について報告しています。この未成体遺骸は少なくとも9個体分となります。このうち、学童期(juvenile)となる未成体の1個体(DH7)には、歯が一部残る下顎骨・上腕骨・手の指骨・脛骨・腓骨・距骨・舟状骨などが残っています。
DH7の骨格成熟は、近縁種である198万年前頃のアウストラロピテクス・セディバの部分的骨格(MH1)と、160万年前頃となるホモ・エレクトス(Homo erectus)の部分的な骨格(KNM-WT 15000)と類似しています。MH1は9~11歳、KNM-WT 15000は8.3~8.8歳と推定されています。ともに非ヒト類人猿に近い成熟速度で現代人よりも速く、ホモ・ナレディも同様とも考えられます。しかし、ナレディの形態的特徴は複雑です。歯に関しては、ナレディの歯の萌出パターンは現生人類と類似しており、小臼歯は第二大臼歯が充分に放出するまでに充分に放出します。しかし、ナレディの歯根形成パターンは、非ヒト類人猿の方に似ています。また、ナレディの歯のエナメル質沈着パターンは、現生人類も含めて他の人類とは異なります。ナレディの脳サイズと身体サイズも、既知の人類の組み合わせに当てはまらないので、その成熟パターンの解釈はさらに複雑となります。祖先的特徴と派生的特徴の混在するナレディは、個々の身体部位で成長速度が異なっていたかもしれない、というわけです。ナレディの推定脳容量は480~610ccで、アウストラロピテクス・セディバとホモ・エレクトスの中間です。ナレディの推定身長は成体では143.5cmで、セディバと類似しています。セディバとエレクトスとナレディが類似した発達パターンを共有しているのならば、DH7の推定年齢は8~11歳です。
しかし、人類進化系統樹におけるナレディの位置づけに関しては議論があります。ナレディは早期ネアンデルタール人および早期現生人類とともに、中期更新世後期に存在した人類系統で、頭蓋データの比較から、ナレディとネアンデルタール人と現生人類の共通祖先系統がホモ・エレクトス系統と分岐した後に、ナレディの系統とネアンデルタール人および現生人類の共通祖先系統が分岐した、との見解も提示されています(関連記事)。この見解が妥当だとすると、ナレディの成長パターンは現生人類やネアンデルタール人に近かったかもしれず、DH7の推定年齢は11~15歳となります。あるいは、ナレディの成長パターンはセディバやエレクトスとネアンデルタール人や現生人類の中間だったかもしれません。ナレディの成長パターンの分析は、現生人類の成長パターンの進化の理解にも貢献できるでしょうから、今後の研究の進展が期待されます。
参考文献:
Bolter DR, Elliott MC, Hawks J, Berger LR (2020) Immature remains and the first partial skeleton of a juvenile Homo naledi, a late Middle Pleistocene hominin from South Africa. PLoS ONE 15(4): e0230440.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0230440
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