フローレス島の更新世鳥類化石の分析
インドネシア領フローレス島の更新世鳥類化石の分析に関する研究(Meijer et al., 2019)が公表されました。フローレス島中央部のソア盆地(約400㎢)では、100万~70万年前頃となる前期更新世後期~中期更新世早期の動物化石と石器が発見されており、その中にはワラセアで最古となるマタメンゲ(Mata Menge)遺跡の人類遺骸も含まれています(関連記事)。この人類遺骸は、フローレス島西部のリアンブア(Liang Bua)洞窟遺跡で発見された中期~後期更新世の人類であるホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)との形態的類似から、フロレシエンシスの祖先である可能性が指摘されています。
また、100万~70万年前頃のソア盆地の石器群と、5万年前頃が下限年代となるリアンブア洞窟の石器群との技術的類似性も注目されています。当時のマタメンゲ遺跡一帯は、サバンナのような熱帯草原地帯だった、と推測されています。フローレス島では、動物化石と石器は同じ層で発見されていますが、動物の処理に石器が使用されたのか、定かではありません。現時点では、マタメンゲ遺跡の動物化石の蓄積に人類が関与しているのか否か、定かではありません。
フローレス島などアジア南東部島嶼部(ISEA)は、19世紀末に発見されたホモ・エレクトス(Homo erectus)や、21世紀になって発見されたホモ・フロレシエンシスなど、人類進化史で注目される地域ですが、アフリカで進展しているような化石生成論的枠組みは現在欠けており、化石生成論的研究はひじょうに限られています。ISEAではウォレス線の東西で動物相が大きく異なり、ワラセア諸島では、典型的な肉食哺乳類や、ヤマアラシのような化石生成に寄与する動物が存在しなかったため、動物遺骸の蓄積はおもにフクロウと現生人類の活動に起因しています。しかし、非現生人類がどの程度動物遺骸の蓄積に関与したのかは、まだ不明です。
ISEAにおける、人類による動物遺骸への直接的関与については、ジャワ島で40万年以上前となる貝殻に刻まれた幾何学模様が確認されていますが(関連記事)、まだ明確な証拠はほとんど得られていません。そこで本論文は、マタメンゲ遺跡の前期~中期更新世の鳥類遺骸群表面の痕跡について、人為的なものなのか否か、マルチ集束共焦点顕微鏡分析により検証しました。ジルコン・フィッショントラック法により、脊椎動物化石と石器の発見されている下層の年代は88万±7万年前~80万±7万年前と推定されています。その上層では人類遺骸と石器が発見されており、70万年前頃と推定されています。
マタメンゲ遺跡では、21世紀の発掘で187点の鳥類化石が発見されており、そのうち8点は堆積物などにより有用な情報が得られませんでした。これら鳥類化石には、カモ科やスズメ目など少なくとも9分類が含まれます。このうち多く(66個)が人類遺骸の発見されている上層で回収されています。鳥類化石のうち141個(79%)には骨表面の縦方向のひび割れが、24個(13%)には剥離が見られます。これらの特徴は、鳥類化石群の蓄積中と蓄積後に形成されていった、と推測されています。
前期更新世末期~中期更新世早期のマタメンゲ遺跡では、鳥類化石と人類の痕跡との密接な関連が見られ、これはずっと後の中期~後期更新世のリアンブア洞窟でも同様です。鳥類の利用はかつて人類系統では現生人類(Homo sapiens)に固有と考えられていましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)も利用していた、と現在では考えられています(関連記事)。これは、フロレシエンシス系統と現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先系統の最終共通祖先の時点ですでに存在したか、各系統で独自に発達したのかもしれません。しかし、マタメンゲ遺跡では、人類が鳥類を食べたり装飾品に利用したりするといった明確な直接的証拠は見つからず、これはリアンブア洞窟遺跡でも同様です。本論文は、死肉漁りをしている鳥類の観察により、人類が食料を見つけていた可能性を指摘しています。
本論文は、前期更新世末期~中期更新世早期のマタメンゲ遺跡において、人類が鳥類を直接的に利用していた明確な証拠を検出しませんでした。しかし本論文は、この分析では直接的な比較データが不足しているので、あくまでも予備的なものにすぎない、と指摘します。その意味で、フローレス島の非現生人類ホモ属(フロレシエンシス系統)が鳥類を直接的に利用していた可能性もあると考えるべきでしょう。今後、さらなる研究により、フローレス島、さらにはISEAにおける、非現生人類ホモ属と鳥類との関係が明らかになっていくのではないか、と期待されます。
参考文献:
Meijer JM. et al.(2019): Characterization of bone surface modifications on an Early to Middle Pleistocene bird assemblage from Mata Menge (Flores, Indonesia) using multifocus and confocal microscopy. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 529, 1-11.
https://doi.org/10.1016/j.palaeo.2019.05.025
また、100万~70万年前頃のソア盆地の石器群と、5万年前頃が下限年代となるリアンブア洞窟の石器群との技術的類似性も注目されています。当時のマタメンゲ遺跡一帯は、サバンナのような熱帯草原地帯だった、と推測されています。フローレス島では、動物化石と石器は同じ層で発見されていますが、動物の処理に石器が使用されたのか、定かではありません。現時点では、マタメンゲ遺跡の動物化石の蓄積に人類が関与しているのか否か、定かではありません。
フローレス島などアジア南東部島嶼部(ISEA)は、19世紀末に発見されたホモ・エレクトス(Homo erectus)や、21世紀になって発見されたホモ・フロレシエンシスなど、人類進化史で注目される地域ですが、アフリカで進展しているような化石生成論的枠組みは現在欠けており、化石生成論的研究はひじょうに限られています。ISEAではウォレス線の東西で動物相が大きく異なり、ワラセア諸島では、典型的な肉食哺乳類や、ヤマアラシのような化石生成に寄与する動物が存在しなかったため、動物遺骸の蓄積はおもにフクロウと現生人類の活動に起因しています。しかし、非現生人類がどの程度動物遺骸の蓄積に関与したのかは、まだ不明です。
ISEAにおける、人類による動物遺骸への直接的関与については、ジャワ島で40万年以上前となる貝殻に刻まれた幾何学模様が確認されていますが(関連記事)、まだ明確な証拠はほとんど得られていません。そこで本論文は、マタメンゲ遺跡の前期~中期更新世の鳥類遺骸群表面の痕跡について、人為的なものなのか否か、マルチ集束共焦点顕微鏡分析により検証しました。ジルコン・フィッショントラック法により、脊椎動物化石と石器の発見されている下層の年代は88万±7万年前~80万±7万年前と推定されています。その上層では人類遺骸と石器が発見されており、70万年前頃と推定されています。
マタメンゲ遺跡では、21世紀の発掘で187点の鳥類化石が発見されており、そのうち8点は堆積物などにより有用な情報が得られませんでした。これら鳥類化石には、カモ科やスズメ目など少なくとも9分類が含まれます。このうち多く(66個)が人類遺骸の発見されている上層で回収されています。鳥類化石のうち141個(79%)には骨表面の縦方向のひび割れが、24個(13%)には剥離が見られます。これらの特徴は、鳥類化石群の蓄積中と蓄積後に形成されていった、と推測されています。
前期更新世末期~中期更新世早期のマタメンゲ遺跡では、鳥類化石と人類の痕跡との密接な関連が見られ、これはずっと後の中期~後期更新世のリアンブア洞窟でも同様です。鳥類の利用はかつて人類系統では現生人類(Homo sapiens)に固有と考えられていましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)も利用していた、と現在では考えられています(関連記事)。これは、フロレシエンシス系統と現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先系統の最終共通祖先の時点ですでに存在したか、各系統で独自に発達したのかもしれません。しかし、マタメンゲ遺跡では、人類が鳥類を食べたり装飾品に利用したりするといった明確な直接的証拠は見つからず、これはリアンブア洞窟遺跡でも同様です。本論文は、死肉漁りをしている鳥類の観察により、人類が食料を見つけていた可能性を指摘しています。
本論文は、前期更新世末期~中期更新世早期のマタメンゲ遺跡において、人類が鳥類を直接的に利用していた明確な証拠を検出しませんでした。しかし本論文は、この分析では直接的な比較データが不足しているので、あくまでも予備的なものにすぎない、と指摘します。その意味で、フローレス島の非現生人類ホモ属(フロレシエンシス系統)が鳥類を直接的に利用していた可能性もあると考えるべきでしょう。今後、さらなる研究により、フローレス島、さらにはISEAにおける、非現生人類ホモ属と鳥類との関係が明らかになっていくのではないか、と期待されます。
参考文献:
Meijer JM. et al.(2019): Characterization of bone surface modifications on an Early to Middle Pleistocene bird assemblage from Mata Menge (Flores, Indonesia) using multifocus and confocal microscopy. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 529, 1-11.
https://doi.org/10.1016/j.palaeo.2019.05.025
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