新たに確認された大西洋を渡ったアメリカ大陸の霊長類

 新たに確認された大西洋を渡ったアメリカ大陸の霊長類に関する研究(Seiffert et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。アメリカ大陸に生息していた霊長類として、これまでは広鼻小目(Platyrrhini)のみが知られていました。この研究は、ペルーのジュルア川(アマゾン川の支流)左岸沿いの距離100mにわたる堆積物で新たに発掘された4個の大臼歯化石の分析により、広鼻小目とは異なる霊長類が短期間南アメリカ大陸に存在していたことを示します。

 この大臼歯は、広鼻猿類の歯とは根本的に異なり、様々な特徴の中でもとくに凹凸が多く、より球状である、と明らかになりました。統計的確率分析の結果、これらの種をパラピテクス上科(Parapithecoidea)とパラピテクス科といったアフリカ霊長類に分類される新種(Ucayalipithecus perdita)とされました。この新種は、始新世(5600万~3390万年前頃)から漸新世(3390万~2300万年前頃)にアフリカ北部に生息し、現在では絶滅している霊長類パラピテクス科(Parapithecidae)のものと非常によく似ています。

 広鼻猿類霊長類の祖先とは別に、アフリカを起源とするこの新種は、3500万~3200万年前頃に、現在よりは海面が低下して狭いいものの荒れていた大西洋を、流木に乗って渡った、と推測されています。パラピテクス類も広鼻小目も、厳しい環境への適応能力がきわめて高かったので渡海しても生き延びられた、と推測されています。アメリカ大陸に到達したこれら霊長類は、迅速に慣れない土地に採食行動を適応させたり、食料と縄張りを得るために奮闘したりしなければならず、そうしながらどちらの霊長類も同じくらい、少なくとも1150万年間生き続けた、と考えられます。これらアメリカ大陸の初期霊長類はひじょうに回復力が強く、行動も幅広かった、と考えられます。この研究は、アメリカ大陸における哺乳類の起源について興味深い事例を新たに提示したとともに、地球で最も生物が多様な地域の1つを形成した過程の解明にも役立つと考えられます。


参考文献:
Seiffert ER. et al.(2020): A parapithecid stem anthropoid of African origin in the Paleogene of South America. Science, 368, 6487, 194–197.
https://doi.org/10.1126/science.aba1135

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