昆虫の食物摂取と発達成長を調節する腸の亜鉛センサー
昆虫の食物摂取と発達成長を調節する腸の亜鉛センサーに関する研究(Redhai et al., 2020)が公表されました。細胞や器官あるいは生物体全体で、恒常性を維持し(ホメオスタシス)、変動する環境に適応するには、栄養素の感知が重要です。多くの動物では、栄養センサーは消化器系の腸内分泌細胞内に見られますが、その姉妹細胞である腸管吸収上皮細胞の栄養感知についてはあまり知られていません。また、金属イオンのような微量栄養素は、成長と発達に重要な役割を有するとと知られていますが、金属がどのように感知されるのか、あまり解明されていません。
この研究は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の腸を調べました。消化管はエネルギー恒常性に関与している、と知られているからです。この研究は、100種以上の候補タンパク質の遺伝学的スクリーニングを行ない、とくに、栄養素の乏しい条件下で幼虫の発達を持続させる働きをする、腸細胞のイオンチャネル型受容体Hodorを特定しました。このタンパク質は、「“hold on, don't rush”(ちょっと待って、あわてないで)」の略語です。
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞とショウジョウバエでの実験から、HodorはpH感受性の亜鉛依存性塩素イオンチャネルであり、これまで知られていなかった亜鉛に対する食嗜好性に関わっている、と明らかになりました。Hodorは亜鉛を感知するタンパク質で、亜鉛を使って細胞内、細胞外に塩素を輸送し、栄養物の感知と増殖を調節する経路を促進します。キイロショウジョウバエの食餌に含まれる亜鉛の量を増やすと摂食量が増加しましたが、Hodorを遮断すると減少しました。この研究は、Hodorが動物を栄養豊富な食物源に誘導するさいに役立っている、と推測しています。亜鉛などの金属は、果物や他の食品に含まれる酵母によって産生されます。Hodorは食物摂取とインスリン/IGFシグナル伝達を促進することにより、腸細胞のサブセット(間質細胞)から全身の成長を制御します。Hodorは、腸管内腔の酸性度を維持して微生物の量を抑制しますが、その全身の成長への作用は、間質細胞内のTorシグナル伝達とリソソーム恒常性の調節に起因します。
Hodor類似遺伝子は昆虫特異的で、病原体媒介動物を制御するための標的になる可能性があります。じっさい、CRISPR–Cas9ゲノム編集により、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)のhodorの単一オルソログが、必須遺伝子である、と明らかになりました。Hodor遺伝子を欠失させることは、ガンビエハマダラカにとって致命的となります。昆虫に摂取させることで昆虫特異的なHodor機能のみに影響を及ぼす薬剤は、昆虫の制御に利用できる可能性があります。これらの知見により、エネルギー恒常性維持に対する金属(より一般的には微量栄養素)の有益な役割を考慮する必要が明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
生物学:昆虫の食物摂取を調節するHodor(栄養感知タンパク質)
キイロショウジョウバエの腸内で発見された昆虫特異的な栄養感知タンパク質Hodorが食物摂取の調節と発生成長制御に関与していることを報告する論文が、Natureに掲載される。Hodorの働きを阻害することは、病気を媒介する昆虫(蚊など)の個体数を制御する方法として利用できるかもしれない。
細胞や生物は、体内の安定性を維持すること(ホメオスタシス)と周囲の環境の変化への適応のために栄養素を感知する必要がある。金属イオンのような微量栄養素は、成長と発達に重要な役割を持つことが知られているが、金属がどのように感知されるかは、あまり解明されていない。今回、Irene Miguel-Aliagaたちの研究チームは、解明を進めるため、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の腸を調べた。消化管は、エネルギー恒常性に関与していることが知られているからだ。今回の研究では、栄養素の感知に関与すると考えられる100種以上の候補タンパク質の遺伝子スクリーニングが行われ、特に栄養素の乏しい条件下で幼虫の発生を調節していると考えられる1つの受容体が発見された。このタンパク質は、Hodor[“hold on, don't rush”(ちょっと待って、あわてないで)]の略語と名付けられ、その発現を阻害すると、発育遅延が生じた。
Hodorは亜鉛を感知するタンパク質で、亜鉛を使って細胞内、細胞外に塩素を輸送し、栄養物の感知と増殖を調節する経路を促進する。キイロショウジョウバエの食餌に含まれる亜鉛の量を増やすと摂食量が増加したが、Hodorを遮断すると減少した。Miguel-Aliagaたちは、この受容体が、動物を栄養豊富な食物源に誘導する際に役立っているという考えを示している。(亜鉛などの金属は、果物や他の食品に含まれる酵母によって産生される。)さらに、Miguel-Aliagaたちは、蚊のhodor遺伝子を欠失させることが蚊にとって致命的なことを実証し、体内に摂取可能な薬物を用いることで、こうした疾患媒介動物を標的に定めて、制御できるという考えを示している。
代謝:腸の亜鉛センサーが食物摂取と発達成長を調節する
代謝:塩素イオンチャネルHodorはショウジョウバエにおける亜鉛の感知、成長シグナル伝達、食欲に関わる腸の回路を駆動する
S Redhaiたちは今回、ショウジョウバエ(Drosophila)の腸細胞のサブセットが、亜鉛センサーである塩素イオンチャネルHodorを介して、食物摂取や発達成長を調節していることを報告している。Hodorの活性はリソソームのTor活性に影響を及ぼすことが分かり、これまで知られていなかった金属/微量栄養素によるTorシグナル伝達への入力が明らかになった。Hodorは昆虫特異的であり、ハマダラカ(Anopheles)におけるHodorの変異は致死的であることが分かった。昆虫に摂取させることで昆虫特異的なHodor機能のみに影響を及ぼす薬剤は、昆虫の制御に利用できる可能性がある。
参考文献:
Redhai S. et al.(2020): An intestinal zinc sensor regulates food intake and developmental growth. Nature, 580, 7802, 263–268.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2111-5
この研究は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の腸を調べました。消化管はエネルギー恒常性に関与している、と知られているからです。この研究は、100種以上の候補タンパク質の遺伝学的スクリーニングを行ない、とくに、栄養素の乏しい条件下で幼虫の発達を持続させる働きをする、腸細胞のイオンチャネル型受容体Hodorを特定しました。このタンパク質は、「“hold on, don't rush”(ちょっと待って、あわてないで)」の略語です。
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞とショウジョウバエでの実験から、HodorはpH感受性の亜鉛依存性塩素イオンチャネルであり、これまで知られていなかった亜鉛に対する食嗜好性に関わっている、と明らかになりました。Hodorは亜鉛を感知するタンパク質で、亜鉛を使って細胞内、細胞外に塩素を輸送し、栄養物の感知と増殖を調節する経路を促進します。キイロショウジョウバエの食餌に含まれる亜鉛の量を増やすと摂食量が増加しましたが、Hodorを遮断すると減少しました。この研究は、Hodorが動物を栄養豊富な食物源に誘導するさいに役立っている、と推測しています。亜鉛などの金属は、果物や他の食品に含まれる酵母によって産生されます。Hodorは食物摂取とインスリン/IGFシグナル伝達を促進することにより、腸細胞のサブセット(間質細胞)から全身の成長を制御します。Hodorは、腸管内腔の酸性度を維持して微生物の量を抑制しますが、その全身の成長への作用は、間質細胞内のTorシグナル伝達とリソソーム恒常性の調節に起因します。
Hodor類似遺伝子は昆虫特異的で、病原体媒介動物を制御するための標的になる可能性があります。じっさい、CRISPR–Cas9ゲノム編集により、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)のhodorの単一オルソログが、必須遺伝子である、と明らかになりました。Hodor遺伝子を欠失させることは、ガンビエハマダラカにとって致命的となります。昆虫に摂取させることで昆虫特異的なHodor機能のみに影響を及ぼす薬剤は、昆虫の制御に利用できる可能性があります。これらの知見により、エネルギー恒常性維持に対する金属(より一般的には微量栄養素)の有益な役割を考慮する必要が明らかになりました。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
生物学:昆虫の食物摂取を調節するHodor(栄養感知タンパク質)
キイロショウジョウバエの腸内で発見された昆虫特異的な栄養感知タンパク質Hodorが食物摂取の調節と発生成長制御に関与していることを報告する論文が、Natureに掲載される。Hodorの働きを阻害することは、病気を媒介する昆虫(蚊など)の個体数を制御する方法として利用できるかもしれない。
細胞や生物は、体内の安定性を維持すること(ホメオスタシス)と周囲の環境の変化への適応のために栄養素を感知する必要がある。金属イオンのような微量栄養素は、成長と発達に重要な役割を持つことが知られているが、金属がどのように感知されるかは、あまり解明されていない。今回、Irene Miguel-Aliagaたちの研究チームは、解明を進めるため、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の腸を調べた。消化管は、エネルギー恒常性に関与していることが知られているからだ。今回の研究では、栄養素の感知に関与すると考えられる100種以上の候補タンパク質の遺伝子スクリーニングが行われ、特に栄養素の乏しい条件下で幼虫の発生を調節していると考えられる1つの受容体が発見された。このタンパク質は、Hodor[“hold on, don't rush”(ちょっと待って、あわてないで)]の略語と名付けられ、その発現を阻害すると、発育遅延が生じた。
Hodorは亜鉛を感知するタンパク質で、亜鉛を使って細胞内、細胞外に塩素を輸送し、栄養物の感知と増殖を調節する経路を促進する。キイロショウジョウバエの食餌に含まれる亜鉛の量を増やすと摂食量が増加したが、Hodorを遮断すると減少した。Miguel-Aliagaたちは、この受容体が、動物を栄養豊富な食物源に誘導する際に役立っているという考えを示している。(亜鉛などの金属は、果物や他の食品に含まれる酵母によって産生される。)さらに、Miguel-Aliagaたちは、蚊のhodor遺伝子を欠失させることが蚊にとって致命的なことを実証し、体内に摂取可能な薬物を用いることで、こうした疾患媒介動物を標的に定めて、制御できるという考えを示している。
代謝:腸の亜鉛センサーが食物摂取と発達成長を調節する
代謝:塩素イオンチャネルHodorはショウジョウバエにおける亜鉛の感知、成長シグナル伝達、食欲に関わる腸の回路を駆動する
S Redhaiたちは今回、ショウジョウバエ(Drosophila)の腸細胞のサブセットが、亜鉛センサーである塩素イオンチャネルHodorを介して、食物摂取や発達成長を調節していることを報告している。Hodorの活性はリソソームのTor活性に影響を及ぼすことが分かり、これまで知られていなかった金属/微量栄養素によるTorシグナル伝達への入力が明らかになった。Hodorは昆虫特異的であり、ハマダラカ(Anopheles)におけるHodorの変異は致死的であることが分かった。昆虫に摂取させることで昆虫特異的なHodor機能のみに影響を及ぼす薬剤は、昆虫の制御に利用できる可能性がある。
参考文献:
Redhai S. et al.(2020): An intestinal zinc sensor regulates food intake and developmental growth. Nature, 580, 7802, 263–268.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2111-5
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