アファレンシスの脳の組織と成長期間
アウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)の脳の組織と成長期間に関する研究(Gunz et al., 2020)が報道されました。アフリカの非ヒト類人猿とは対照的に、ヒトの脳成長パターンは、高い成長率と長い持続期間により特徴づけられます。現代人は長期間保護者(多くの場合は親)に依存する比較的未熟な子供を産みます。これらの特徴により、現代人では認知発達期間が長くなり、高い認知能力に影響を与えている、と考えられます。
非ヒト類人猿とヒトとの脳における重要な違いとして、頭頂葉と後頭葉があり、月状溝の位置が異なります。すでにアウストラロピテクス属において、現代人のような月状溝の位置が見られた、との見解もあります。しかし、化石では月状溝の位置を示す痕跡が明確に検出できないため、この問題は解決していません。そのため、現代人のような脳の成長と組織化が、200万年前頃に始まるホモ属の脳容量の拡大で始まったのか、その100万年前のアウストラロピテクス属で始まったのか、議論が続いています。
本論文は、エチオピアのディキカ(Dikika)とハダール(Hadar)の乳児各1個体の頭蓋と、有名な「ルーシー(A.L. 288-1)」も含まれるアファレンシスの成体6個体の頭蓋に関して、じゅうらいの断層撮影法とシンクロトロン断層撮影法により分析結果を報告しています。これにより、新たにより正確な脳容量が推定され、脳回の痕跡に基づいて脳組織が以前よりも詳細に解明されるとともに、歯の成長線の分析からひじょうに正確な死亡年齢も推定され、脳の成長期間・成長率も推測されました。
アファレンシスの脳組織は全体として、非ヒト類人猿に類似しています。類人猿とヒトのおもな違いは、脳の頭頂葉と後頭葉の組織化です。推定脳容量は、乳児でも成体でも、アファレンシスはチンパンジーよりも大きく、ディキカの乳児は275 ml、ハダールの乳児は310~317 ml、成体は平均で445 mlです。死亡時の年齢は、ディキカの乳児が2.4歳(861日)で、ハダールの乳児もほぼ同じと推定されています。アファレンシスの歯の成長速度は他の化石人類や現代人よりも速く、チンパンジーの成長速度の下限範囲となります。これらの比較から、アファレンシスの脳成長期間はチンパンジーより長い、と明らかになりました。
脳の成長期間の長期化は、ホモ属における脳容量増大の結果と関連づけられてきました。しかし本論文は、アファレンシスの脳容量と成長速度の分析から、脳の成長期間の長期化が脳容量増加の単なる副産物ではないことを示しました。脳容量がさほど増加しておらず、組織も非ヒト類人猿と類似していた時点ですでに、人類の脳の成長パターンはチンパンジーよりも長期化していたわけです。この330万年前頃における、人類の脳の成長期間の長期化は、その後の人類進化を特徴づけたと考えられます。
しかし本論文は、脳の発達パターンが人類の各系統間で異なっていることから、現代人のパターンに向かって直線的に進化してこなかった可能性もある、と指摘します。一般的に霊長類では、成長率の違いが乳児の世話の戦略と関連しており、アファレンシスの脳成長の長期化は親への長い依存に関連している、と考えられます。あるいは、長い脳の成長は、食資源が豊富ではない環境における適応かもしれません。どちらでも、アファレンシスの長い脳成長期間は、人類史におけるその後の脳進化と社会的行動の基礎を提供し、子供期における長期となる学習の進化に重要と考えられます。
参考文献:
Gunz P. et al.(2020): Australopithecus afarensis endocasts suggest ape-like brain organization and prolonged brain growth. Science Advances, 6, 14, eaaz4729.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz4729
非ヒト類人猿とヒトとの脳における重要な違いとして、頭頂葉と後頭葉があり、月状溝の位置が異なります。すでにアウストラロピテクス属において、現代人のような月状溝の位置が見られた、との見解もあります。しかし、化石では月状溝の位置を示す痕跡が明確に検出できないため、この問題は解決していません。そのため、現代人のような脳の成長と組織化が、200万年前頃に始まるホモ属の脳容量の拡大で始まったのか、その100万年前のアウストラロピテクス属で始まったのか、議論が続いています。
本論文は、エチオピアのディキカ(Dikika)とハダール(Hadar)の乳児各1個体の頭蓋と、有名な「ルーシー(A.L. 288-1)」も含まれるアファレンシスの成体6個体の頭蓋に関して、じゅうらいの断層撮影法とシンクロトロン断層撮影法により分析結果を報告しています。これにより、新たにより正確な脳容量が推定され、脳回の痕跡に基づいて脳組織が以前よりも詳細に解明されるとともに、歯の成長線の分析からひじょうに正確な死亡年齢も推定され、脳の成長期間・成長率も推測されました。
アファレンシスの脳組織は全体として、非ヒト類人猿に類似しています。類人猿とヒトのおもな違いは、脳の頭頂葉と後頭葉の組織化です。推定脳容量は、乳児でも成体でも、アファレンシスはチンパンジーよりも大きく、ディキカの乳児は275 ml、ハダールの乳児は310~317 ml、成体は平均で445 mlです。死亡時の年齢は、ディキカの乳児が2.4歳(861日)で、ハダールの乳児もほぼ同じと推定されています。アファレンシスの歯の成長速度は他の化石人類や現代人よりも速く、チンパンジーの成長速度の下限範囲となります。これらの比較から、アファレンシスの脳成長期間はチンパンジーより長い、と明らかになりました。
脳の成長期間の長期化は、ホモ属における脳容量増大の結果と関連づけられてきました。しかし本論文は、アファレンシスの脳容量と成長速度の分析から、脳の成長期間の長期化が脳容量増加の単なる副産物ではないことを示しました。脳容量がさほど増加しておらず、組織も非ヒト類人猿と類似していた時点ですでに、人類の脳の成長パターンはチンパンジーよりも長期化していたわけです。この330万年前頃における、人類の脳の成長期間の長期化は、その後の人類進化を特徴づけたと考えられます。
しかし本論文は、脳の発達パターンが人類の各系統間で異なっていることから、現代人のパターンに向かって直線的に進化してこなかった可能性もある、と指摘します。一般的に霊長類では、成長率の違いが乳児の世話の戦略と関連しており、アファレンシスの脳成長の長期化は親への長い依存に関連している、と考えられます。あるいは、長い脳の成長は、食資源が豊富ではない環境における適応かもしれません。どちらでも、アファレンシスの長い脳成長期間は、人類史におけるその後の脳進化と社会的行動の基礎を提供し、子供期における長期となる学習の進化に重要と考えられます。
参考文献:
Gunz P. et al.(2020): Australopithecus afarensis endocasts suggest ape-like brain organization and prolonged brain growth. Science Advances, 6, 14, eaaz4729.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaz4729
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