大型陸ガメの記憶力

 大型陸ガメの記憶力に関する研究(Gutnick et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。大型陸ガメはこれまで、動作は遅く知能は劣っている、と考えられてきました。これは、ヒトが大型陸ガメを簡単に捕獲できるからでもあります。しかし、そうした認識と矛盾するような記録も残されています。たとえば、ガラパゴス島のゾウガメは、遠く離れた場所を移動し、その道中に飲食して睡眠をとり、泥浴しますが、こうした遠距離での行為には優れた記憶力が欠かせません。また、カメを船の一ヶ所に留まらせるよう訓練できた、という話もあります。

 この研究は、ウィーン動物園とチューリッヒ動物園のアルダブラゾウカメとガラパゴスガメを訓練し、難易度を上げながら三つの課題を与えました。訓練では、条件付け訓練の一種であるポジティブ強化トレーニングが用いられ、カメが正しい行動をした時に、好物のニンジンや赤カブやタンポポなどの報酬が与えられました。カメに対する一つ目の課題として、棒の先にある色のついた球を噛むように訓練しました。カメがその課題を習得した後、二つ目の課題として約1~2m離れたところに置かれた色のついた球に向かって進み、それを噛むように訓練しました。三つ目の課題では、それぞれのカメに異なる色を割り当て、与えられた2つの標的から正しい色のボールを選ぶように訓練しました。

 3ヶ月後、訓練したカメを再びテストしてみたところ、最初の2つの課題をすぐにクリアしました。三つ目の課題では、正しい色を思い出すことはできませんでしたが、6匹のうち5匹のカメが最初の訓練の時よりも早くどの色のボールを噛むべきかを再学習できたことから、カメに若干の記憶が残っている、と明らかになりました。また、9年前に訓練を受けたウィーン動物園の3匹のアルダブラゾウガメを再調査したところ、3匹のすべてのカメが最初の2つの課題をクリアしました。これはカメがその長寿に見合う、優れた長期記憶能力を保有している、と示します。

 また、カメは優れた長期記憶能力を有しているだけではなく、集団で訓練されたカメは個別に訓練されたカメよりも学習速度が向上することも明らかになりました。ゾウガメは特に社会性の強い動物としては知られていませんが、集団にいることで習速度の向上が存在することは間違いない、というわけです。この研究は、野生においても大型陸ガメが他のカメを観察することにより、餌場や飲み場などの重要な情報を得ているのではないか、と推測しています。集団で学習することに明らかな利点がない唯一の課題は、三番目の課題でした。この研究は、それぞれのカメに独自の色を割り当てたため、カメは互いに観察してどの球を噛むかについての有用な情報を得ることができませんでした。この研究は、爬虫類の認知能力に関して未知の領域が多いことを示した、と言えるでしょう。

 先月(2020年2月)末に、世界規模で猛威を振るう新型コロナウイルスとはまったく無関係に突如として理不尽な事態で多忙になってしまい、今月後半には本も論文もまともに読めないくらいひじょうに多忙な状況に陥ってしまいました。そのため、論文を当ブログで簡単に取り上げるくらいしかできず、Twitterで疑問を抱いた呟きを見かけても、とても突っ込む気力はありませんでした。昨日(2020年3月30日)になってやっと山場を越えたので(まだ以前よりも忙しい状況は続きますが、来月第二週以降は2月までと同じくらいになりそうです)、今後は以前のように本や論文を読んでいくつもりです。


参考文献:
Gutnick T, Weissenbacher A, and Kuba MJ.(2020): The underestimated giants: operant conditioning, visual discrimination and long-term memory in giant tortoises. Animal Cognition, 23, 1, 159–167.
https://doi.org/10.1007/s10071-019-01326-6

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