チンパンジーとボノボの分岐

 チンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(Pan paniscus)の分岐について、2020年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Zihlman et al., 2020)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P 319)。チンパンジー属のチンパンジーとボノボは、250万~80万年前頃に分岐した、と推定されています(関連記事)。両種の分岐に関しては、チンパンジーが母集団となってボノボが派生した、との見解が広く支持されています。これは、おもに社会性・道具使用・狩猟といった行動的証拠に基づいており、ボノボの解剖学的証拠は無視される傾向にあった、と本報告は指摘します。

 本報告は、チンパンジー属の成体18頭の解剖体骨と、20頭のボノボおよび2亜種25頭のチンパンジーの骨格データに由来する、骨格および軟組織両方の証拠に基づき、チンパンジーとボノボの分岐を検証しています。一部の頭蓋顔面および歯の特徴は、チンパンジーとボノボを統計的に区別しますが、体重および頭蓋容量では区別されませんでした。チンパンジー属の体組成(骨・筋肉・皮膚など)は、雌もしくは雄の間での種内変異をほとんど示しません。年齢と体重の一致したボノボとチンパンジーの雌の比較は、いくつかの統計的に有意な程度が体幹と四肢の比率における違いを反映している、と示します。同種の雄と比較した比較した雌は、ボノボでは骨格の程度で統計的な違いを示さないのに対して、チンパンジーの雄は雌から離れます。

 これら解剖学的比較の結果はチンパンジーの雄を外れ値として示し、ボノボではなくチンパンジーが分岐した種である、という仮説を支持します。これらの比較をゴリラとアウストラロピテクス属に拡張することで、分岐したチンパンジーの解剖学と行動に関する進化史と潜在的選択圧がより明確に見えてくる、と本報告は指摘します。チンパンジー属の化石はほとんど発見されていないので、チンパンジーとボノボの分岐に関する問題の解明には、現時点では現生種の形態とゲノムの比較が有効となりそうです。


参考文献:
Zihlman A.(2020): Pan paniscus or Pan troglodytes? The case for a divergent Pan troglodytes. The 89th Annual Meeting of the AAPA.

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