海底下の微生物が生き続ける仕組み

 海底下の微生物が生き続ける仕組みについての研究(Li et al., 2020)が公表されました。地球の上部地殻には微生物が存在すると知られていますが、岩石化した海洋下部地殻は調査が困難なため、地球上における生物学的な最後の辺境の一つとなっています。海底下の堆積物中あるいは火成岩質の基盤中に生息する微生物相にとって、増殖を支えるため、または資源枯渇時に基礎代謝に必要なエネルギーを確保するために充分な炭素資源やエネルギーを得ることは困難です。この研究は、地球の下部地殻が海底に露出しているインド洋アトランティス海台の、海底下10~750mに生息する低生物量の微生物群集の用いる生存戦略が、限定的で予測不能な炭素源およびエネルギー源によりどのように影響を受けるのか、調査しました。

 酵素活性・脂質バイオマーカー・マーカー遺伝子の解析と顕微鏡法により、細胞密度がきわめて低く(1㎤当たり細胞2000個未満)、分布の不均一な生存生物量が検出されました。予想外の従属栄養過程(有機物を食料源とするプロセス)に関与する遺伝子の発現には、多環芳香族炭化水素の分解、炭素貯蔵分子としてのポリヒドロキシアルカン酸の利用、酸化還元反応やエネルギー産生に関与し得る化合物を産生するためのアミノ酸の再利用において役割を担うものなどが含まれていました。この研究は、深成地殻中の微生物が、おそらくは海底下の流体または海水の循環によって届けられると考えられる有機炭素資源や無機炭素資源とエネルギー資源とを組み合わせることにより、割れ目や多孔質岩石の中でどのようにして生存できているのか、という問題についての手掛かりを提示します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


微生物学:微生物が海底下で生き続けるための仕組み

 海底下に生息する微生物群集に関する研究によって最大で海底下750メートルの群集が発見され、こうした極限環境で微生物が生き続けるためのメカニズムに関する手掛かりが得られた。この研究成果について報告する論文が、今週Nature に掲載される。

 地球の上部地殻には微生物が存在することが知られているが、海洋下部地殻に関する情報は少ない。海底下の岩石に生息する微生物相が生き続けることには困難が伴う。その環境で、成長やその他の過程に必要な炭素とエネルギーを十分に得ることが難しいからだ。

 今回、Virginia Edgcombたちの研究チームは、地球の下部地殻が露出しているインド洋のアトランティス海台の海底下から岩石試料を採取し、発掘された海洋下部地殻から活性の高い微生物群集を発見した。Edgcombたちは、こうした微生物の酵素活性測定値とmRNA回収量に基づいて、細胞活性レベルが非常に低いと判定し、予想外の従属栄養プロセス(有機物を食料源とするプロセス)を複数同定した。例えば、エネルギーの生産と貯蔵に使用できる化合物を生産するためのアミノ酸のリサイクルだ。こうした適応は、深海生物圏で散在する少量の資源をめぐる競争を反映したものだとEdgcombたちは考えている。

 Edgcombたちは、微生物相の多様性と活動がアトランティス海台下の微生物に類似しているかどうかを判定するには、海洋下部地殻のさらなる探査が必要だと指摘している。



参考文献:
Li J. et al.(2020): Recycling and metabolic flexibility dictate life in the lower oceanic crust. Nature, 579, 7798, 250–255.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2075-5

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