過去5万年間の鳥の渡り

 過去5万年間の鳥の渡りに関する研究(Somveille et al., 2020)が公表されました。多くの鳥類種は、気候の季節変動に応答して渡りをします。渡り行動は柔軟に変化し、たとえば、現在進行中の気候変動に対処するために渡りの経路を変えてしまった鳥類種もいます。これに対して、氷期は季節性がそれほどはっきりしないため、鳥類の渡りの重要性が現代と比べてはるかに低かった、と主張する仮説が提起されていました。

 この研究は、鳥類の渡りが過去5万年間続いていた可能性の高いことを明らかにしました。この研究で用いられたのは、エネルギー効率(資源の利用可能性と移動のエネルギーコストとの関係)に基づいて全世界の鳥類の季節的地理分布をシミュレートするモデルで、その妥当性の検証が、海洋鳥類以外の現生鳥類のほぼ全て9783種の既知の分布を用いて行なわれました。そのうえで、このモデルを過去の気候の再構築に適用してシミュレーションを行なったところ、2万年前頃になる最終氷期最盛期と現在の間氷期の間に大きな気候変化があったにも関わらず、全世界で鳥類の渡りが重要な役割を果たし続けた、と明らかになりました。

 一方、アメリカ大陸では最終氷期最盛期に渡りを行なった鳥類種の数は現在よりも少なかった、と明らかになっており、地域差もありました。しかし、世界全体では、鳥の渡りは最終氷期においても現在と同じくらい重要だった可能性がひじょうに高く、じゅうらいの見解よりも古くから起こっていた、とこの研究は指摘します。このシミュレーションは、鳥類の渡りが今後の気候変動にどのように応答するのかを予測するさいに一つの基準になる、と結論づけられています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


生態学:過去5万年間の鳥の渡りを再現するためのモデルを作成する

 過去5万年に及ぶ世界の鳥類の渡りパターンを再現する全球モデルが作成され、世界中の鳥の渡りは、最終氷期においても今と同じくらい重要だった可能性が非常に高いことが分かった。この新知見は、鳥の渡りが、これまで考えられていたよりも古くから起こっていたことを示唆している。この研究について報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。

 多くの鳥類種は、気候の季節変動に応答して渡りをする。渡り行動は、柔軟に変化し、例えば、現在進行中の気候変動に対処するために渡りの経路を変えてしまった鳥類種もいる。これに対して、氷期は、季節性がそれほどはっきりしないため、鳥類の渡りの重要性が現代と比べてはるかに低かったとする学説が提起されていた。

 今回、Marius Somveilleたちの研究チームは、鳥類の渡りが過去5万年間続いていた可能性の高いことを明らかにした。今回の研究で用いられたのは、エネルギー効率(資源の利用可能性と移動のエネルギーコストとの関係)に基づいて全世界の鳥類の季節的地理分布をシミュレートするモデルで、その妥当性の検証が、海洋鳥類以外の現生鳥類のほぼ全て(9783種)の既知の分布を用いて行われた。そのうえで、このモデルを過去の気候の再構築に適用してシミュレーションを行ったところ、最終氷期最盛期(約2万年前)と現在の間氷期の間に大きな気候変化があったにもかかわらず、全世界で鳥類の渡りが重要な役割を果たし続けたことが明らかになった。一方、注目すべき地域差も判明しており、例えば、北米・中南米では、最終氷期最盛期に渡りを行った鳥類種の数が、現在よりも少なかった。

 今回のシミュレーションは、鳥類の渡りが今後の気候変動にどのように応答するのかを予測する際に1つの基準となる、とSomveilleたちは結論付けている。



参考文献:
Somveille M. et al.(2020): Simulation-based reconstruction of global bird migration over the past 50,000 years. Nature Communications, 11, 801.
https://doi.org/10.1038/s41467-020-14589-2

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