テストステロンの疾患リスクへの影響の性差

 テストステロンの疾患リスクへの影響の性差に関する研究(Ruth et al., 2020)が公表されました。テストステロンは女性も男性も作る天然ホルモンの一種で、テストステロンの補充療法は、骨の健康増進や性機能・体組成の改善に広く用いられています。しかし、テストステロンが病気の転帰に及ぼす影響については、ほとんど分かっていません。この研究は、イギリスバイオバンク登録者425097名から得られたテストステロン量のデータと遺伝的データを使って、テストステロンを調節している2571の遺伝的変数を調べ、それらと2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群といった代謝疾患やがんとの関連を調べました。

 その結果、テストステロン量が高くなりやすい遺伝的素因を持つ女性は、2型糖尿病リスクが37%、多嚢胞性卵巣症候群のリスクが約50%も高い、と明らかになりました。男性では、高テストステロンは一般に保護作用を示し、2型糖尿病のリスクは15%近くも下がりました。また高テストステロンは、女性では乳癌と子宮内膜癌、男性では前立腺癌のリスク上昇につながることも明らかになりました。これらの知見は、テストステロンが健康に及ぼす影響における性差による違いを示しており、今後の臨床研究では性別特異的な遺伝的解析が必要になった、と指摘されています。また、こうした性差には進化的要因がありそうですから、そうした観点でも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


【内分泌学】テストステロンの疾患リスクへの影響は女性と男性とで異なる

 テストステロン量が心血管代謝疾患やがんのリスクに影響を及ぼす可能性があるが、この影響は女性と男性で違いがあることを報告する論文が掲載される。

 テストステロンは、女性も男性も両方が作る天然ホルモンの一種で、テストステロンの補充療法は、骨の健康増進や性機能、体組成の改善に広く用いられている。しかし、テストステロンが病気の転帰に及ぼす影響については、ほとんど分かっていない。

 今回John Perry、Timothy Fraylingたちは、英国バイオバンク登録者42万5097名から得られたテストステロン量のデータと遺伝的データを使って、テストステロンを調節している2571の遺伝的変数を調べ、それらと2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群といった代謝疾患やがんとの関連を調べた。すると、テストステロン量が高くなりやすい遺伝的素因を持つ女性は、2型糖尿病リスクが37%、多嚢胞性卵巣症候群のリスクが約50%も高いことが分かった。男性では、高テストステロンは一般に保護作用を示し、2型糖尿病のリスクは15%近くも下がった。また高テストステロンは、女性では乳がんと子宮内膜がん、男性では前立腺がんのリスク上昇につながることも明らかになった。

 これらの知見は、テストステロンが健康に及ぼす影響が女性と男性では違いがあることを示しており、著者たちは、今後の臨床研究では性別特異的な遺伝的解析が必要なことが浮き彫りになったと結論付けている。




参考文献:
Ruth KS. et al.(2020): Using human genetics to understand the disease impacts of testosterone in men and women. Nature Medicine, 26, 2, 252–258.
https://doi.org/10.1038/s41591-020-0751-5

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