社会的行動を駆動する神経回路の生化学的影響

 社会的行動を駆動する神経回路の生化学的影響に関する研究(Demir et al., 2020)が公表されました。生物は、配偶相手と遭遇して相手を評価する可能性を高めるために、さまざまな行動戦略を進化させてきました。多くの種は、配偶者となり得る相手の位置や、性的・社会的状態についての情報を伝達するために、フェロモンを使っています。マウスでは、雄に存在する主要な尿タンパク質のダーシン(darcin)が、雌による接近を誘発し、学習を促すにおいマーカーの成分になっています。この研究は、ダーシンが誘引・超音波発声・尿マーキングを含む複雑かつ多様な行動レパートリーを誘発するとともに、学習パラダイムの強化因子としても働いていることを示しています。

 この研究は、ダーシンに対する全ての行動反応に必要な、副嗅球から発して扁桃体内側核後部に至る遺伝的に決定された回路を突き止めました。さらにこの研究が、扁桃体内側核のダーシン応答性ニューロンを光遺伝学的に活性化すると、ダーシンが誘発する生得的行動と条件付けされた行動の両方が誘発されました。これらのニューロンは、ニューロン性の一酸化窒素合成酵素を発現する地理的に分けられた細胞集団をなしています。この研究は、ダーシンで活性化するこの神経回路が、フェロモン情報を自己の内部状態と統合し、配偶相手との遭遇と配偶者選択を促す可能性のある、可変性の生得的行動と学習強化された行動の両者を誘発している、との見解を提示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:フェロモンであるダーシンは生得的行動と学習強化された行動の回路を駆動する

神経科学:神経回路の生化学的影響が社会的行動を駆動する

 ダーシン(darcin)は雄の齧歯類尿中の主要タンパク質で、おそらく配偶者選択に関わっている。今回R Axelたちは、副嗅球と扁桃体を含む神経回路を明らかにし、これがダーシンに応答してこのフェロモンに関連した全応答を駆動することを示している。



参考文献:
Demir E. et al.(2020): The pheromone darcin drives a circuit for innate and reinforced behaviours. Nature, 578, 7793, 137–141.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-1967-8

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック