アフリカ南部における中期石器時代の根茎の調理
アフリカ南部における中期石器時代の根茎の調理に関する研究(Wadley et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。植物は遺跡では残りにくいため、先史時代に関しては植物採集よりも狩猟の方が注目を集めています。しかし、過去の研究から、植物食が狩猟採集民において重要な食資源となり得たことは間違いありません。植物でも、根茎や球根などの地下植物はヒトにとって重要な炭水化物源となり、調理すると消化性が向上し、毒性が減少します。火を使用する前の地下植物の残骸はまだ確認されていません。イスラエル北部のフラ(Hula)湖畔にある、下部旧石器時代のアシューリアン(Acheulian)遺跡として有名なジスルバノトヤコブ(Gesher Benot Ya‘aqov)では、78万年前頃の根茎が発見されています(関連記事)。その他にもアフリカ南部の遺跡では地下植物が発見されています。
本論文は、南アフリカ共和国のボーダー洞窟(Border Cave)の中期石器時代層における根茎の調理の痕跡について報告しています。この根茎は、5BS層と4WA層で発見されました。年代は、少なくとも17万年前までさかのぼります。根茎を洞窟まで運べるのはヒトだけだと考えられます。これらの根茎は炭化しており、調理が示唆されます。ボーダー洞窟の中期石器時代前期の年代は、歯のエナメル質の電子スピン共鳴法によると、5BS層は177000年前頃に始まり、その直下の4WA層は150000年前頃に始まり、99000年前頃までには終わっていた、と推定されました。
本論文は、ボーダー洞窟の根茎をその形態から全てヒポキシス属に分類し、その中の1種(Hypoxis angustifolia Lam)である可能性が高い、と推測しています。ヒポキシス属の根茎は栄養価が高く、必須ビタミンとミネラルも含まれます。また、ヒポキシス属の根茎は生でも食べられますが、調理すると柔らかくなり、さらに食べやすくなります。ヒポキシス属はボーダー洞窟周辺も含めてさまざまな土地で繁茂し、サハラ砂漠以南のアフリカやインド洋の複数の島にも分布しています。
ヒポキシス属の根茎は、デンプン質の栄養価が高い食料となり、広範囲に分布することから、遊動的な初期のヒトにとって信頼できる主食源になった可能性があります。30万年前頃のアフリカ東部のヒト集団は、すでに数十km以上の広い活動範囲を有していた、と推測されています(関連記事)。ヒポキシス属根茎のようなデンプン質の栄養価の高い植物は、すでに火を制御できるようになっていたであろう中期石器時代の遊動的なヒト集団にとって重要な食資源になり、その遊動性を可能にした一因になった、と考えられます。
参考文献:
Wadley L. et al.(2020): Cooked starchy rhizomes in Africa 170 thousand years ago. Science, 367, 6473, 87–91.
https://doi.org/10.1126/science.aaz5926
本論文は、南アフリカ共和国のボーダー洞窟(Border Cave)の中期石器時代層における根茎の調理の痕跡について報告しています。この根茎は、5BS層と4WA層で発見されました。年代は、少なくとも17万年前までさかのぼります。根茎を洞窟まで運べるのはヒトだけだと考えられます。これらの根茎は炭化しており、調理が示唆されます。ボーダー洞窟の中期石器時代前期の年代は、歯のエナメル質の電子スピン共鳴法によると、5BS層は177000年前頃に始まり、その直下の4WA層は150000年前頃に始まり、99000年前頃までには終わっていた、と推定されました。
本論文は、ボーダー洞窟の根茎をその形態から全てヒポキシス属に分類し、その中の1種(Hypoxis angustifolia Lam)である可能性が高い、と推測しています。ヒポキシス属の根茎は栄養価が高く、必須ビタミンとミネラルも含まれます。また、ヒポキシス属の根茎は生でも食べられますが、調理すると柔らかくなり、さらに食べやすくなります。ヒポキシス属はボーダー洞窟周辺も含めてさまざまな土地で繁茂し、サハラ砂漠以南のアフリカやインド洋の複数の島にも分布しています。
ヒポキシス属の根茎は、デンプン質の栄養価が高い食料となり、広範囲に分布することから、遊動的な初期のヒトにとって信頼できる主食源になった可能性があります。30万年前頃のアフリカ東部のヒト集団は、すでに数十km以上の広い活動範囲を有していた、と推測されています(関連記事)。ヒポキシス属根茎のようなデンプン質の栄養価の高い植物は、すでに火を制御できるようになっていたであろう中期石器時代の遊動的なヒト集団にとって重要な食資源になり、その遊動性を可能にした一因になった、と考えられます。
参考文献:
Wadley L. et al.(2020): Cooked starchy rhizomes in Africa 170 thousand years ago. Science, 367, 6473, 87–91.
https://doi.org/10.1126/science.aaz5926
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