一部の現代人で確認されたデニソワ人由来のミトコンドリアDNA
一部の現代人で種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)のミトコンドリアDNA(mtDNA)が確認された、と報告した研究(Bücking et al., 2019)が公表されました。核DNA中のミトコンドリアDNA配列(NUMT)の存在は、さまざまな真核生物で報告されています。ヒト参照ゲノムでは、合計755個のNUMTが確認されています。また、世界中の地域集団でさまざまなNUMTが特定されており、今後その数は増加する、と予測されています。NUMTのサイズはさまざまで、合計するとmtDNAのほぼ全体が含まれますが、その特定領域が優先的に挿入される証拠はありません。一般的にNUMTは核DNA内では非コード配列で、長い期間にわたる欠失や複製や変異などにより変わっていきます。最近の挿入では、mtDNAよりも核DNAの方が変異率は低いため、挿入時の配列が保存される傾向にあります。こうしたNUMT配列の頻度や存在もしくは不在パターンは、集団の遺伝的関係の研究に用いられています。NUMTは、現生種と絶滅種の交雑事象の検出にも用いられてきました。
そこで本論文は、現生人類との交雑が確認されているネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)およびデニソワ人由来のNUMTが現代人の核DNAに存在するのか、検証しました。ネアンデルタール人とデニソワ人の核DNAの一部は、出アフリカ系現代人において低い割合ながら確認されています。ネアンデルタール人由来のDNA領域の割合は、出アフリカ系現代人のゲノムでは約2%と推定されており、各地域集団間で大きな違いはありませんが、デニソワ人に関しては地域集団間で大きな差があり、ユーラシア西部集団のゲノムではほとんど検出されず、ユーラシア東部およびアメリカ大陸先住民集団ではわずかに、オセアニア集団では4~6%程度確認されており、こうした古代型ホモ属と現生人類との交雑は複数回起きたのではないか、と推測されています(関連記事)。
このように、ネアンデルタール人やデニソワ人のような古代型ホモ属から現生人類への核DNAの遺伝子移入は広く検出されていますが、現代人では古代型ホモ属に由来するミトコンドリアは確認されていません。ただ、現代人の核DNAにおける古代型ホモ属のNUMTはまだ体系的に調査されていません。現代人の核DNAに古代型ホモ属由来のNUMTが存在するとしたら、古代型ホモ属において起き、その後に古代型ホモ属の核DNAとともに現生人類に遺伝子移入されたか、古代型ホモ属のミトコンドリアが交雑により現生人類に継承され、その後に現生人類系統でNUMTが新たに発生した、という2通りが想定されます。後者では、古代型ホモ属女性と現生人類男性との交雑が起きたことを示します。この2通りの経路は、古代型ホモ属由来のNUMTの周囲のゲノム領域の調査で区別できます。前者の場合、その周辺領域も古代型ホモ属由来のDNAで構成される、と予想されます。後者の場合、NUMTが交雑により遺伝子移入された古代型ホモ属由来の領域に挿入されるのでなければ、周辺領域は現生人類のDNAで構成される、と予想されます。
本論文は、古代型ホモ属由来のNUMTを検出するため、ネアンデルタール人とデニソワ人両方からの遺伝子移入が確認されているインドネシアとオセアニアの221人のゲノムを解析しました。その結果、5ヶ所の古代型ホモ属由来の候補となりそうなNUMTが検出されました。そのうちNUMT 1_5966は58塩基対で、ネアンデルタール人およびデニソワ人のmtDNAと共通しますが、ほとんどの現代人では1塩基対異なっており、古代型ホモ属との分岐前か、現生人類系統が各地域集団に分岐する前に挿入された可能性を本論文は提示しています。NUMT 2_3389は246塩基対で、全ての現代人および後期ネアンデルタール人と単系統群を形成してデニソワ人とは異なっており、これはmtDNAの系統樹と同様で、現代人の変異内から完全に外れているわけではありません。本論文は、これが現生人類の出アフリカ前に挿入された、と推定しています。
NUMT hs37d5_2745は446塩基対で、現代人の変異内に収まりますが、デニソワ人および早期ネアンデルタール人系統(関連記事)と単系統群を形成し、ネアンデルタール人とは異なっています。これはmtDNAの系統樹と異なり、デニソワ人からのNUMTである可能性も考えられますが、本論文は、収斂進化の可能性もあるとして、古代型ホモ属由来であると判断するのは避けています。NUMT 4_1787はデニソワ人のmtDNAと同一で、オーストロネシア語のインドネシア西部集団の5人で検出されました。しかし、43塩基対しかなく、他の現代人とは1ヶ所のみで異なるので、本論文はデニソワ人のmtDNA由来と断定していません。
NUMT 3_1384は251塩基対で、インドネシア東部およびニューギニアの15人で検出されました。これは現代人およびネアンデルタール人の変異内に収まらず、デニソワ人および早期ネアンデルタール人と単系統群を形成します。本論文は、これがデニソワ人由来のmtDNAである可能性を指摘します。上述のように、NUMT 3_1384がどのような経路で一部の現代人のゲノムに伝わったのか、その隣接領域が分析されました。すると、デニソワ人と一部現代人とで共有されているアレル(対立遺伝子)が特定されました。これは、デニソワ人においてNUMTが起き、現生人類の一部集団のゲノムに交雑により伝えられた可能性が高い、と示唆します。
本論文は、ヒト参照ゲノムにないさまざまなNUMTを発見しており、今後解析対象を拡大すれば、この数は増加していくと予測されます。一部の集団にのみ固有のNUMTは、現生人類の出アフリカの頃かその後の挿入の可能性が高いと考えられるなど、NUMTは人類の進化と拡散を考察する手がかりとなるので、今後範囲を拡大しての研究の進展が大いに期待されます。また、これらの結果は、ヒト核ゲノムへのmtDNAの挿入が最近でも継続している証拠となります。人類の進化は今でも続いていること(関連記事)をNUMTも示している、と言えるでしょう。
参考文献:
Bücking G. et al.(2019): Archaic mitochondrial DNA inserts in modern day nuclear genomes. BMC Genomics, 20, 1017.
https://doi.org/10.1186/s12864-019-6392-8
そこで本論文は、現生人類との交雑が確認されているネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)およびデニソワ人由来のNUMTが現代人の核DNAに存在するのか、検証しました。ネアンデルタール人とデニソワ人の核DNAの一部は、出アフリカ系現代人において低い割合ながら確認されています。ネアンデルタール人由来のDNA領域の割合は、出アフリカ系現代人のゲノムでは約2%と推定されており、各地域集団間で大きな違いはありませんが、デニソワ人に関しては地域集団間で大きな差があり、ユーラシア西部集団のゲノムではほとんど検出されず、ユーラシア東部およびアメリカ大陸先住民集団ではわずかに、オセアニア集団では4~6%程度確認されており、こうした古代型ホモ属と現生人類との交雑は複数回起きたのではないか、と推測されています(関連記事)。
このように、ネアンデルタール人やデニソワ人のような古代型ホモ属から現生人類への核DNAの遺伝子移入は広く検出されていますが、現代人では古代型ホモ属に由来するミトコンドリアは確認されていません。ただ、現代人の核DNAにおける古代型ホモ属のNUMTはまだ体系的に調査されていません。現代人の核DNAに古代型ホモ属由来のNUMTが存在するとしたら、古代型ホモ属において起き、その後に古代型ホモ属の核DNAとともに現生人類に遺伝子移入されたか、古代型ホモ属のミトコンドリアが交雑により現生人類に継承され、その後に現生人類系統でNUMTが新たに発生した、という2通りが想定されます。後者では、古代型ホモ属女性と現生人類男性との交雑が起きたことを示します。この2通りの経路は、古代型ホモ属由来のNUMTの周囲のゲノム領域の調査で区別できます。前者の場合、その周辺領域も古代型ホモ属由来のDNAで構成される、と予想されます。後者の場合、NUMTが交雑により遺伝子移入された古代型ホモ属由来の領域に挿入されるのでなければ、周辺領域は現生人類のDNAで構成される、と予想されます。
本論文は、古代型ホモ属由来のNUMTを検出するため、ネアンデルタール人とデニソワ人両方からの遺伝子移入が確認されているインドネシアとオセアニアの221人のゲノムを解析しました。その結果、5ヶ所の古代型ホモ属由来の候補となりそうなNUMTが検出されました。そのうちNUMT 1_5966は58塩基対で、ネアンデルタール人およびデニソワ人のmtDNAと共通しますが、ほとんどの現代人では1塩基対異なっており、古代型ホモ属との分岐前か、現生人類系統が各地域集団に分岐する前に挿入された可能性を本論文は提示しています。NUMT 2_3389は246塩基対で、全ての現代人および後期ネアンデルタール人と単系統群を形成してデニソワ人とは異なっており、これはmtDNAの系統樹と同様で、現代人の変異内から完全に外れているわけではありません。本論文は、これが現生人類の出アフリカ前に挿入された、と推定しています。
NUMT hs37d5_2745は446塩基対で、現代人の変異内に収まりますが、デニソワ人および早期ネアンデルタール人系統(関連記事)と単系統群を形成し、ネアンデルタール人とは異なっています。これはmtDNAの系統樹と異なり、デニソワ人からのNUMTである可能性も考えられますが、本論文は、収斂進化の可能性もあるとして、古代型ホモ属由来であると判断するのは避けています。NUMT 4_1787はデニソワ人のmtDNAと同一で、オーストロネシア語のインドネシア西部集団の5人で検出されました。しかし、43塩基対しかなく、他の現代人とは1ヶ所のみで異なるので、本論文はデニソワ人のmtDNA由来と断定していません。
NUMT 3_1384は251塩基対で、インドネシア東部およびニューギニアの15人で検出されました。これは現代人およびネアンデルタール人の変異内に収まらず、デニソワ人および早期ネアンデルタール人と単系統群を形成します。本論文は、これがデニソワ人由来のmtDNAである可能性を指摘します。上述のように、NUMT 3_1384がどのような経路で一部の現代人のゲノムに伝わったのか、その隣接領域が分析されました。すると、デニソワ人と一部現代人とで共有されているアレル(対立遺伝子)が特定されました。これは、デニソワ人においてNUMTが起き、現生人類の一部集団のゲノムに交雑により伝えられた可能性が高い、と示唆します。
本論文は、ヒト参照ゲノムにないさまざまなNUMTを発見しており、今後解析対象を拡大すれば、この数は増加していくと予測されます。一部の集団にのみ固有のNUMTは、現生人類の出アフリカの頃かその後の挿入の可能性が高いと考えられるなど、NUMTは人類の進化と拡散を考察する手がかりとなるので、今後範囲を拡大しての研究の進展が大いに期待されます。また、これらの結果は、ヒト核ゲノムへのmtDNAの挿入が最近でも継続している証拠となります。人類の進化は今でも続いていること(関連記事)をNUMTも示している、と言えるでしょう。
参考文献:
Bücking G. et al.(2019): Archaic mitochondrial DNA inserts in modern day nuclear genomes. BMC Genomics, 20, 1017.
https://doi.org/10.1186/s12864-019-6392-8
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