遺伝的には予測できない同性愛行動

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、同性愛行動に関するゲノム規模の研究(Ganna et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。この研究は、それまでに同性愛行動をとったことがあるのか、自己報告が得られた約50万人について遺伝的性質を調べました。この研究は、調査への回答を分析して、UK Biobankおよび23andMe, Inc.から得た約47万人のデータを対象にゲノム規模関連解析を実施しました。この研究は、遺伝子多様体において、ある人の性行動を有意に予測または同定するために利用できると考えられるパターンを見つけ出せませんでした。

 この研究は、多くの遺伝子座では個々が及ぼす効果は小さく、同性愛行動への傾向に関して個々人における差に相加的に関与しており、遺伝子に認められたパターンは、性格・行動・身体に関わる多くの形質と一致している、と指摘します。この研究において、同性愛行動と「有意に」関連していた遺伝子多様体はわずか5つのみで、さらに数千以上の多様体も関連するようでしたが、これらの多様体を全て合わせてもその効果はごく小さく、予測能があると言うには程遠い、と強調されています。

 また、これらの多様体の一部は、性ホルモンと嗅覚に関わる生物学的経路と関係しており、同性愛行動に影響を及ぼすメカニズムについて手がかりを与えている、と本論文は注意を喚起しています。この研究の知見は、同性愛行動の生物学的背景に関する洞察を提供していますが、短絡的な結論を控えることの重要性も示しています。その理由は、同性愛行動という行動表現型は複雑で、この遺伝学的洞察は予備的なものであり、遺伝学的研究の結果が社会的な目的で誤用されてきたという長い歴史のためでもある、と本論文は指摘します。


参考文献:
Ganna A. et al.(2019): Large-scale GWAS reveals insights into the genetic architecture of same-sex sexual behavior. Science, 365, 6456, eaat7693.
https://doi.org/10.1126/science.aat7693

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