ジャワ島におけるエレクトスの出現年代

 ジャワ島におけるホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現年代に関する研究(Matsu’ura et al., 2020)が公表されました。人類の初期の拡散に関する議論では、ホモ・エレクトスのユーラシア東部における最初の出現年代が重要となります。1990年代半ば以降、アジア東部では最古の人類の年代が180万~170万年前頃までさかのぼる、との見解が受け入れられていくようになりましたが(関連記事)、これはじゅうらいの年代観を50万年ほどさかのぼらせることになります。そのため、エレクトスはアフリカで185万年前頃に出現した後、急速にアジア東部まで拡散した、と考えられました。

 一方、エレクトスはアジア南東部へと150万年以上前に拡散し(関連記事)、アジア北東部へと130万年前頃以後に拡散した、との見解も提示されています。これら150万年以上前のアジア南東部におけるエレクトスの存在を主張する見解は、ジャワ島のサンギラン(Sangiran)遺跡の人類遺骸の年代測定結果に基づいていますが、150万年以上前という年代の見直しを指摘する見解も提示されています(関連記事)。本論文は、サンギラン遺跡における最初の人類の年代を再検証しました。

 サンギラン遺跡では合計100個以上の人類遺骸が見つかっています。しかし、その年代については議論が続いています。サンギラン遺跡では、バパン(Bapang)層とその下のより古いサンギラン層で人類遺骸が発見されています。バパン層の2m上の軽石普通角閃石(pumice hornblende)の年代は、アルゴン-アルゴン法で151万±8万年前となることから、サンギラン地域では150万年以上前から人類が存在していた、と考えられていました(関連記事)。しかし、別の研究では、バパン層の最下部の軽石と凝灰岩の年代はアルゴン-アルゴン法で90万~80万年前頃と推定されており、年代は確定していません。

 本論文は、以前の研究でアルゴン-アルゴン法により151万±8万年前という年代測定結果が得られた層を含むバパン層最下部、および人類遺骸下限年代となる可能性のある、サンギラン層の凝灰岩8層のジルコンを、フィッショントラック法とウラン-鉛年代測定法で改めて検証しました。その結果、バパン層最下部は971000±9000年前、という結果が得られました。一方、サンギラン層の凝灰岩8層の上限年代は155万年前と推定されました。

 サンギラン遺跡で比較的新しい人類遺骸はバパン層で発見されており、その下限年代は79万年前頃と推定されます。サンギラン遺跡で比較的古い人類遺骸はサンギラン層で発見されており、動物相の年代から127万年前頃と推定されています。本論文は、155万年前頃というサンギラン層の凝灰岩8層の上限年代と合わせて、サンギラン遺跡における最初の人類の出現は127万年前頃もしくは145万年前頃以降、と推定しています。

 サンギラン遺跡の人類は、形態学的にバパン層とサンギラン層の2集団に区分されています。より古いサンギラン層の個体群はひじょうに多様で、アフリカの170万~140万年前頃のエレクトスもしくはエルガスター(Homo ergaster)と類似した比較的祖先的な特徴を示します。より新しいバパン層の個体群は比較的派生的で、アジア東部の中期更新世のエレクトスに匹敵する、より大きな神経頭蓋と縮小した歯顎を有しています。

 更新世において、前期から中期の移行期となる120万~70万年前頃に気候が大きく変化し、生物相と環境に大きな影響を与えた、と明らかになっています。そのため本論文は、サンギラン遺跡におけるエレクトスの変化が、この自然環境の変化に関連している可能性を指摘しています。また本論文は、この変化が同じエレクトス集団内で起きた可能性もあるものの、移住の影響が大きかったかもしれない、と推測しています。アフリカから東進してきたか、アジア東部から南下してきた可能性が想定されます。

 本論文は、ジャワ島におけるサンギラン遺跡以外の最初期の人類遺骸とされている、東部のプルニン(Perning)遺跡のモジョケルト(Mojokerto)が、フィッショントラック法により149万年前頃以降とされ、サンギラン遺跡のエレクトスの最古の年代が上述のように127万年前頃もしくは145万年前頃以降であることから、ジャワ島への人類の拡散は現在の推定より新しく150万年前頃以降だろう、との見解を提示しています。これは、最近20年の主流的見解よりも20万年は繰り下がります。ジャワ島の古いエレクトスの比較的祖先的な形態については、祖先的特徴の保持か、ジャワ島のエレクトス系統において独立して派生した特徴だろう、と本論文は推測します。なお、ジャワ島の末期エレクトスの年代に関しても議論が続いていましたが、最近の研究では117000~108000年前頃と推定されています(関連記事)。


参考文献:
Matsu’ura S. et al.(2020): Age control of the first appearance datum for Javanese Homo erectus in the Sangiran area. Science, 367, 6474, 210–214.
https://doi.org/10.1126/science.aau8556

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