現生哺乳類と異なる聴覚器官を持つ初期哺乳類
現生哺乳類と異なる聴覚器官を持つ初期哺乳類に関する研究(Wang et al., 2019)が公表されました。発生生物学および古生物学の双方から蓄積されたデータからは、哺乳類では、顎の歯骨後方の骨の、頭蓋の耳小骨への変化が、少なくとも3回独立に起きた、と示唆されています。また、保存状態の良好な化石からは、哺乳類中耳の進化における移行段階がいくつも明らかになっています。しかし、哺乳型類の異なる複数のクレード(単系統群)で、これらの歯骨後方の骨がなぜ、どのように歯骨から完全に分離したのかなど、中耳の進化に関してはまだ疑問が残されています。
この研究は、中華人民共和国遼寧省の九仏堂層で発見された多丘歯目哺乳類(齧歯類様哺乳類の分類群)エオバータル科の新種(Jeholbaatar kielanae)の化石について報告しています。多丘歯類は、おそらくこれまでで最も繁栄した哺乳類の一群であったと考えられています。この新種化石は約1億2000万年前のもので、この哺乳類動物の体重は約50グラムと推定されています。左中耳骨の保存状態が良好だったため、以前に報告された白亜紀の多丘歯目哺乳類よりも独自の構造が明らかになり、その構成要素もより完全な形を保持しています。この標本からは、顎の上角骨が独立した骨要素から中耳の槌骨の一部へと変化し、耳小柱状の鐙骨と平たい砧骨の間に限定的な接触が存在した、と示されました。
この研究は、哺乳型類において、こうした槌骨–砧骨間の関節の接続様式には2つの骨が隣り合う配置と互いにかみ合う配置の2通りがあり、それは歯骨–鱗状骨関節の進化的分岐を反映している、との見解を提示しています。系統発生学的解析から、この標本のような異獣類における最終哺乳類中耳の獲得は、単孔類や真獣類での哺乳類中耳の獲得とは独立したものであった、と明らかになりました。この新種化石により得られた証拠は、多丘歯目哺乳類の中耳の発達が、摂食に必要な条件によって誘発されたことを示唆しています。この研究は、下頬部の形状から判断して、この新種多丘歯目哺乳類が雑食性で、蠕虫・節足動物・植物を餌として、咀嚼時の顎の動きが特徴的だった、という見解を提示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【古生物学】現生哺乳類と異なる聴覚器官を持つ初期哺乳類の新種
中国で発見された白亜紀の齧歯類様哺乳類の新種が、その近縁種と異なる耳を持っていたことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、この哺乳類動物の聴覚器官の進化が、摂食のための特殊化によって推進された可能性を示唆している。
哺乳類の耳の進化、つまり、顎の構成要素が徐々に頭蓋骨内に移動して、中耳の耳小骨になった過程が、少なくとも3回独立に起こったことが、化石証拠から示唆されている。しかし、この過程が異なる哺乳類群でどのように起こったのか、そしてなぜ起こったのかは解明されていない。
今回、Yuanqing Wangたちは、中国遼寧省の九仏堂層で発見された多丘歯目哺乳類(齧歯類様哺乳類の分類群)の新種Jeholbaatar kielanaeの化石について記述している。Wangたちは、この化石が約1億2000万年前のものであり、この哺乳類動物の体重を約50グラムと推定している。左中耳骨の保存状態が良好だったため、以前に報告された白亜紀の多丘歯目哺乳類よりも独自の構造が明らかになり、その構成要素もより完全な形を保持している。Jeholbaatar kielanaeの化石によって得られた証拠は、多丘歯目哺乳類の中耳の発達が、摂食に必要な条件によって誘発されたことを示唆している。Wangたちは、下頬部の形状から判断して、Jeholbaatar kielanaeが雑食性で、蠕虫、節足動物、植物を餌として、咀嚼時の顎の動きが特徴的だったという見解を示している。
進化学:白亜紀の化石から明らかになった哺乳類中耳の新たな進化パターン
進化学:中耳進化の異なる道筋
多丘歯類は、おそらくこれまでで最も繁栄した哺乳類の一群であったと考えられる。中生代の前半に進化を遂げた多丘歯類は白亜紀末の大量絶滅を乗り越え、始新世まで生き延びた。その名称が示すように特徴的な歯を有していた多丘歯類は、多くの点で齧歯類の先駆けとも言える存在だった。今回Y Wangたちが新たに発見したJeholbaatar kielanaeは、現在の中国で約1億2000万年前に生息していた多丘歯類であり、その標本には多くの構造、中でも中耳が極めて詳細に保存されている。哺乳類の進化は、祖先的爬虫類の下顎から多くの骨要素が頭蓋へとゆっくり移動して中耳の小骨を形成したことを特徴とする。これまで、この進化は独立して複数回起こったと考えられてきたが、それはJ. kielanaeにも当てはまるようである。著者たちは、哺乳類進化における顎の歯骨後方の骨の耳小骨への変化は、多丘歯類などの哺乳類系統において咀嚼機構が複雑さを増していったことと関係している可能性があると示唆している。
参考文献:
Wang H, Meng J, and Wang Y.(2019): Cretaceous fossil reveals a new pattern in mammalian middle ear evolution. Nature, 576, 7785, 102–105.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1792-0
この研究は、中華人民共和国遼寧省の九仏堂層で発見された多丘歯目哺乳類(齧歯類様哺乳類の分類群)エオバータル科の新種(Jeholbaatar kielanae)の化石について報告しています。多丘歯類は、おそらくこれまでで最も繁栄した哺乳類の一群であったと考えられています。この新種化石は約1億2000万年前のもので、この哺乳類動物の体重は約50グラムと推定されています。左中耳骨の保存状態が良好だったため、以前に報告された白亜紀の多丘歯目哺乳類よりも独自の構造が明らかになり、その構成要素もより完全な形を保持しています。この標本からは、顎の上角骨が独立した骨要素から中耳の槌骨の一部へと変化し、耳小柱状の鐙骨と平たい砧骨の間に限定的な接触が存在した、と示されました。
この研究は、哺乳型類において、こうした槌骨–砧骨間の関節の接続様式には2つの骨が隣り合う配置と互いにかみ合う配置の2通りがあり、それは歯骨–鱗状骨関節の進化的分岐を反映している、との見解を提示しています。系統発生学的解析から、この標本のような異獣類における最終哺乳類中耳の獲得は、単孔類や真獣類での哺乳類中耳の獲得とは独立したものであった、と明らかになりました。この新種化石により得られた証拠は、多丘歯目哺乳類の中耳の発達が、摂食に必要な条件によって誘発されたことを示唆しています。この研究は、下頬部の形状から判断して、この新種多丘歯目哺乳類が雑食性で、蠕虫・節足動物・植物を餌として、咀嚼時の顎の動きが特徴的だった、という見解を提示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【古生物学】現生哺乳類と異なる聴覚器官を持つ初期哺乳類の新種
中国で発見された白亜紀の齧歯類様哺乳類の新種が、その近縁種と異なる耳を持っていたことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、この哺乳類動物の聴覚器官の進化が、摂食のための特殊化によって推進された可能性を示唆している。
哺乳類の耳の進化、つまり、顎の構成要素が徐々に頭蓋骨内に移動して、中耳の耳小骨になった過程が、少なくとも3回独立に起こったことが、化石証拠から示唆されている。しかし、この過程が異なる哺乳類群でどのように起こったのか、そしてなぜ起こったのかは解明されていない。
今回、Yuanqing Wangたちは、中国遼寧省の九仏堂層で発見された多丘歯目哺乳類(齧歯類様哺乳類の分類群)の新種Jeholbaatar kielanaeの化石について記述している。Wangたちは、この化石が約1億2000万年前のものであり、この哺乳類動物の体重を約50グラムと推定している。左中耳骨の保存状態が良好だったため、以前に報告された白亜紀の多丘歯目哺乳類よりも独自の構造が明らかになり、その構成要素もより完全な形を保持している。Jeholbaatar kielanaeの化石によって得られた証拠は、多丘歯目哺乳類の中耳の発達が、摂食に必要な条件によって誘発されたことを示唆している。Wangたちは、下頬部の形状から判断して、Jeholbaatar kielanaeが雑食性で、蠕虫、節足動物、植物を餌として、咀嚼時の顎の動きが特徴的だったという見解を示している。
進化学:白亜紀の化石から明らかになった哺乳類中耳の新たな進化パターン
進化学:中耳進化の異なる道筋
多丘歯類は、おそらくこれまでで最も繁栄した哺乳類の一群であったと考えられる。中生代の前半に進化を遂げた多丘歯類は白亜紀末の大量絶滅を乗り越え、始新世まで生き延びた。その名称が示すように特徴的な歯を有していた多丘歯類は、多くの点で齧歯類の先駆けとも言える存在だった。今回Y Wangたちが新たに発見したJeholbaatar kielanaeは、現在の中国で約1億2000万年前に生息していた多丘歯類であり、その標本には多くの構造、中でも中耳が極めて詳細に保存されている。哺乳類の進化は、祖先的爬虫類の下顎から多くの骨要素が頭蓋へとゆっくり移動して中耳の小骨を形成したことを特徴とする。これまで、この進化は独立して複数回起こったと考えられてきたが、それはJ. kielanaeにも当てはまるようである。著者たちは、哺乳類進化における顎の歯骨後方の骨の耳小骨への変化は、多丘歯類などの哺乳類系統において咀嚼機構が複雑さを増していったことと関係している可能性があると示唆している。
参考文献:
Wang H, Meng J, and Wang Y.(2019): Cretaceous fossil reveals a new pattern in mammalian middle ear evolution. Nature, 576, 7785, 102–105.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1792-0
この記事へのコメント