フロレシエンシスの足
取り上げるのが遅れてしまいましたが、ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の足に関する研究(Flohr., 2018)が公表されました。インドネシア領フローレス島のリアンブア(Liang Bua)洞窟では、6万年前頃までの人類化石が約100個発見されており、これらは新たなホモ属種フロレシエンシスと分類されました。この人類化石のうち60個以上が部分的骨格であるLB1のものとされました。LB1はフロレシエンシスの正基準標本とされています。
LB1の足は大腿骨および脛骨と比較してひじょうに長く、これがフロレシエンシス特有の形態的特徴とされました。踵骨は見つからなかったので、「部分的な足の長さ」、つまり距骨から第二趾の先端までの長さを測定できました。踵骨も含むLB1の「最大の足の長さ」は、現代人の死体の研究に基づくと191mmと推定されています。これは現代人(Homo sapiens)の死体の足の研究に基づいており、生前には筋肉や皮膚などで平均2.73%長くなるので、LB1の生前の足は196mmと推定されます。LB1の大腿骨の最大長は280mmなので、生前のLB1の足の大腿骨に対する長さの割合は0.7となります。これは、平均0.542(0.493~0.589)という現代人の割合をはるかに超えているため、フロレシエンシス固有の特徴と考えられました。これは、「不均衡に長い」LB1の中足骨と指骨に起因する、と考えられています。本論文は、この推定が妥当なのか、刊行されているデータから検証しています。
本論文は、LB1に分類された人骨群が本当にすべてLB1のものなのか、再検証し、LB1の足の長さは175mm(生前は180mm)と推定します。これは、大腿骨との長さの比率では0.64とまだ現代人の範囲を超えていますが、以前の推定値をずっと下回っています。また本論文は、推定されたLB1の足の骨のいくつかは現代人の手の骨とひじょうによく似ている、と指摘します。さらに本論文は、リアンブア洞窟で発見された人骨群の各個体への分類と復元の見直しと、LB1を病変の現生人類(Homo sapiens)とする見解も考慮して、リアンブア洞窟の人骨群を再検証するよう、提案しています。
LB1を含めてフローレス島の6万年前頃までの人類化石群を病変の現生人類と考えることは無理がある、と思います(関連記事)。しかし、個々の人骨の各個体への分類や、その結果としてのLB1の復元が妥当だったのか、という検証は必要になってくるかもしれません。このように相互に検証を積み重ねていくことで、より妥当な見解が導かれるわけですから、本論文の意義は小さくないと思います。LB1の復元の見直しは、フロレシエンシスの系統的位置づけにも大きく関わってくるでしょうから、その意味でも注目されます。フロレシエンシスに関しては、2016年に大きく研究が進展し(関連記事)、その後も重要と思われる関連研究が公表されているので、そのうちまとめるつもりです。
参考文献:
Flohr S.(2018): Conclusions: implications of the Liang Bua excavations for hominin evolution and biogeography. Anthropologischer Anzeiger, 75, 2, 169-174.
https://doi.org/10.1127/anthranz/2018/0770
LB1の足は大腿骨および脛骨と比較してひじょうに長く、これがフロレシエンシス特有の形態的特徴とされました。踵骨は見つからなかったので、「部分的な足の長さ」、つまり距骨から第二趾の先端までの長さを測定できました。踵骨も含むLB1の「最大の足の長さ」は、現代人の死体の研究に基づくと191mmと推定されています。これは現代人(Homo sapiens)の死体の足の研究に基づいており、生前には筋肉や皮膚などで平均2.73%長くなるので、LB1の生前の足は196mmと推定されます。LB1の大腿骨の最大長は280mmなので、生前のLB1の足の大腿骨に対する長さの割合は0.7となります。これは、平均0.542(0.493~0.589)という現代人の割合をはるかに超えているため、フロレシエンシス固有の特徴と考えられました。これは、「不均衡に長い」LB1の中足骨と指骨に起因する、と考えられています。本論文は、この推定が妥当なのか、刊行されているデータから検証しています。
本論文は、LB1に分類された人骨群が本当にすべてLB1のものなのか、再検証し、LB1の足の長さは175mm(生前は180mm)と推定します。これは、大腿骨との長さの比率では0.64とまだ現代人の範囲を超えていますが、以前の推定値をずっと下回っています。また本論文は、推定されたLB1の足の骨のいくつかは現代人の手の骨とひじょうによく似ている、と指摘します。さらに本論文は、リアンブア洞窟で発見された人骨群の各個体への分類と復元の見直しと、LB1を病変の現生人類(Homo sapiens)とする見解も考慮して、リアンブア洞窟の人骨群を再検証するよう、提案しています。
LB1を含めてフローレス島の6万年前頃までの人類化石群を病変の現生人類と考えることは無理がある、と思います(関連記事)。しかし、個々の人骨の各個体への分類や、その結果としてのLB1の復元が妥当だったのか、という検証は必要になってくるかもしれません。このように相互に検証を積み重ねていくことで、より妥当な見解が導かれるわけですから、本論文の意義は小さくないと思います。LB1の復元の見直しは、フロレシエンシスの系統的位置づけにも大きく関わってくるでしょうから、その意味でも注目されます。フロレシエンシスに関しては、2016年に大きく研究が進展し(関連記事)、その後も重要と思われる関連研究が公表されているので、そのうちまとめるつもりです。
参考文献:
Flohr S.(2018): Conclusions: implications of the Liang Bua excavations for hominin evolution and biogeography. Anthropologischer Anzeiger, 75, 2, 169-174.
https://doi.org/10.1127/anthranz/2018/0770
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