鳥類の嘴の進化

 鳥類の嘴の進化に関する研究(Friedman et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。オオハシからハチドリまで、鳥類がさまざまな形状や大きさの嘴を有しているのは、鳥の進化を示しています。嘴は鳥にとって、餌を食べたり、体温を調節したり、囀ることを可能にしていますが、鳥が生存するために必要なこうした機能は、嘴の長さやサイズの決定に関連しています。しかし、従来のほとんどの進化研究は、嘴が複雑なものであるにも関わらず、複合的機能が嘴の形にどのように影響するかよりも、体温調節のような単一の機能の部分にもっぱら焦点を当ててきました。

 本論文は、行動観察・形態学的測定・数学的分析により、嘴の形状は多くの機能との妥協の副産物である、と明らかにしました。つまり、嘴は進化で起きている微細な変化について貴重な洞察を提供してくれる、というわけです。さらに本論文は、嘴の形態が鳥の鳴き声に影響を与え、結果として交尾やコミュニケーションに影響を与えることも明らかにしています。本論文は、鳥類がどのように都市化の進行と気候変動に対応し、現在進行中で進化しているか、という問題の手がかりも提供します。

 生物学には、動物は暑い地域では四肢が長く、寒い地域では四肢が短い傾向にあるとする、アレンの法則と呼ばれる理論があります。また、大きな嘴を有する鳥は熱帯に、小さな嘴を有する鳥は寒冷地に生息する傾向があります。アレンの法則が妥当なのか確認するため、この研究は、オーストラリア産ミツスイの多様な種が耐えられる冬の平均最低気温と夏の平均最高気温を測定しました。ミツスイはオーストラリア全土で形態的にも地理的にも多様であり、数も多いことから、研究対象とされました。

 また、採餌行動との関連における嘴の進化も調べられました。これに関しては、オーストラリア全土に分布する74種のオーストラリア・ミツスイの採餌行動の1万回に及ぶ野外観察の研究結果が用いられました。この研究はまた、ロンドンの自然史博物館で525羽の鳥の標本の写真を撮影し、嘴の形態を詳細に分析するため、画像をデジタル化しました。この研究はさらに、何百もの鳥の鳴き声の周波数と速度を測定しました。本論文は、これらのデータを利用して、嘴の湾曲と深さなどのさまざまな機能に、食べた蜜や夏と冬の気温などをマッピングしました。分析が進むと、採餌生態は嘴の形が曲線か直線かということに大きな影響を与え、気候も嘴のサイズに大きな影響を与える、と明らかになりまし。嘴の形とサイズは、鳥のさえずり声にも影響します。大きな嘴はゆったりとした、より深い囀りにつながります。

 本論文は、嘴を介した囀り行動の三つ、つまり温度調節・アレンの法則・採餌行動を関連づけました。それにより、鳥の嘴が交尾やコミュニケーション行動にどのように影響するのか、さらに理解できるようになります。本論文の提示した結果は、未来にも重要な意味を持つ、と指摘されています。人類が環境に多大な影響を及ぼしている近年、動物が気候変動や都市化に呼応してどのように進化しているのか、研究を進めるのに役立つだろう、というわけです。すでに、騒音公害に反応して鳥の鳴き声が変化する、との観察結果が得られています。また、気候により嘴のサイズや体のサイズが変化するのも観察されてきました。鳥類は気候変動に反応し、今も着実に進化している、というわけです。


参考文献:
Friedman NR. et al.(2019): Evolution of a multifunctional trait: shared effects of foraging ecology and thermoregulation on beak morphology, with consequences for song evolution. Proceedings of the Royal Society B, 286, 1917, 20192474.
https://doi.org/10.1098/rspb.2019.2474

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