前頭皮質ニューロンの意思決定要因

 前頭皮質ニューロンの意思決定要因に関する研究(Hirokawa et al., 2019)が公表されました。多くの皮質領域で、個々のニューロンは、当該領域の機能に対応した環境または自身の体の、特定の識別可能な特徴を符号化している、と知られています。しかし、認知機能に関わる前頭皮質では、神経応答は不可解な複雑さを呈し、知覚や運動やその他の課題関連変数を、一見無秩序に混合しているかのように見えます。この複雑さから、前頭皮質の個々のニューロンの神経表現は無規則に混合しており、神経集団のレベルでしか理解できない、と示唆されています。

 しかし、この研究は、ラットの眼窩前頭皮質(OFC)の神経活動が高度に構造化されている、と示します。つまり、単一ニューロンの活動は、選択行動を説明する計算論モデル中の個々の変数に相関して変動している、というわけです。この研究は、さまざまな行動が可能な中での神経応答の特徴を解析するため、知覚と価値関連意思決定とを結びつけた行動課題を行なうよう、ラットを訓練しました。無前提でモデルに依存しないクラスター解析では、OFCニューロンは複数の異なるグループに分けられ、それぞれが課題変数空間内での特定の応答プロファイルを備えていました。この範疇分けされた応答プロファイルに、選択行動の単純なモデルを当てはめると、それぞれのプロファイルは、特定の意思決定要因(たとえば、決定の確信度や価値など)と定量的に対応している、と明らかになりました。

 さらに、神経結合で定義された細胞タイプ、線条体に投射するOFCニューロンが、選択的で時間的に持続した単一の意思決定要因(統合価値)を符号化していることも明らかになりました。したがって、前頭皮質のニューロンも、他領域のニューロンと同じく、当該領域の機能に対応した特徴について、疎で過完備な神経表現を生成しており、その情報を、行動を支える下流領域に選択的に送っている、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経科学:前頭皮質ニューロンの各タイプは単一の意思決定要因を範疇分けして符号化している

神経科学:前頭皮質の暗号

 前頭皮質では、個々のニューロンは、知覚信号から記憶信号、運動信号、報酬信号まで複雑に配列した情報を運んでいるとされてきた。しかし、各ニューロン集団にどのように情報が割り振られているかは分かっていなかった。今回A Kepecsたちは、ニューロンが範疇分けされた複数の応答タイプに分類できることを示している。応答タイプは、例えば報酬の大きさ、意思決定の確信度、価値といった特定の意思決定要因に対応しており、各要因はそれぞれ別の投射ニューロン集団に符号化されているらしい。彼らは、前頭皮質ニューロンも、知覚ニューロンと同じように、環境内の重要な要因について、疎で過完備な表現を生成すると考えている。



参考文献:
Hirokawa J. et al.(2019): Frontal cortex neuron types categorically encode single decision variables. Nature, 576, 7787, 446–451.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1816-9

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