全現生種は同じ時間を進化してきた
最近、皇位男系継承の根拠としてY染色体を提示する竹内久美子氏の見解を取り上げましたが(関連記事)、その補足です。その記事で、「未開社会」も「文明社会」と同じ時間を過ごしてきたのであり、過去の社会構造を維持しているとは限らない、という視点を忘れるべきではない、と述べました。これは、生物種の進化についても同様だと思います。人間が最も進化しているとか、人間こそ進化の頂点に立っているとかいった観念が、現代人の思考を制約しているところは多分にあるのではないか、と私は考えています。
しかし、全現生種は同じ時間を進化してきたわけで、特定の種、たとえばヒトが最も進化している、とは安易に言えません。もちろん、進化学の専門家はさすがにこのような過ちを犯さないでしょうが、急激な進化を遂げた人類と、人類に近縁の霊長類をはじめとして進化の止まった他の生物という対比を強調する生理学の研究者もいるくらいですから(関連記事)、一般層がいても不思議ではないでしょう。もちろん、共通する特定の表現型、たとえば脳容量などで異なる種同士を比較し、より進化した(派生的である)とか、より祖先的(俗語を用いると原始的)であるとか評価することは可能です。脳容量に関していえば、ヒトは最近縁の現生系統であるチンパンジー属やゴリラ属よりもずっと派生的と言えるでしょう。
ただ、A種とB種を比較して、ある表現型でA種よりもB種の方が派生的であるから、他の表現型でも同様とは限りません。たとえば、チンパンジー(Pan troglodytes)の手はヒトよりも派生的である可能性が指摘されています(関連記事)。つまり、ヒトの方が祖先的というわけです。また現時点では、常習的な二足歩行に関しても、単純にヒトがチンパンジー属やゴリラ属よりも派生的とは断定できないと思います。常習的な二足歩行は、人類を定義する最も重要な特徴と言えるでしょう。脳容量の増大も人類進化において重要な特徴とされていますが、それはホモ属の出現以降で、初期人類の脳容量はチンパンジー属とさほど変わりません。それだけに、人類の常習的な二足歩行は派生的で、最近縁の現生系統であるチンパンジー属やゴリラ属の移動様式は祖先的と考えたくなります。
これには合理的な理由もあります。アフリカの大型類人猿(ヒト科)系統では、まずゴリラ属系統が人類およびチンパンジー属の共通祖先系統と、その後で人類系統とチンパンジー属系統が分岐し、チンパンジー属とゴリラ属の移動様式はともにナックル歩行(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)なので、人類はナックル歩行から常習的な二足歩行へと進化した、と考えるのが節約的だからです。そうすると、移動様式に関して、ヒトの方が派生的で、チンパンジー属とゴリラ属の方が祖先的となります。
しかし、初期人類(候補の化石群)にはナックル歩行の痕跡が見当たらないことから、このような移動様式に関する通説には疑問も呈されつつありました。つまり、アフリカの大型類人猿系統の最終共通祖先の段階ではナックル歩行は出現しておらず、チンパンジー属とゴリラ属のナックル歩行は収斂進化ではないか、というわけです。これに関して昨年、チンパンジーとゴリラの大腿骨の発生パターンは著しく異なっており、全体的に類似したように見える両系統の骨格形態は収斂進化だろう、との見解が提示されており(関連記事)、チンパンジー属とゴリラ属のナックル歩行は収斂進化である可能性が高い、と言えるようになったと思います。
では、アフリカの大型類人猿系統の最終共通祖先の段階ではどのような移動様式だったのかというと、ヨーロッパの中期中新世類人猿化石に関する研究では、前肢(前腕)で枝にぶら下がった一方で、後肢(脚)は真っすぐに保たれていることから、二足歩行に用いられていた可能性がある、と指摘されています。もしそうならば、移動様式に関して、人類系統がチンパンジー属とゴリラ属よりも派生的であるとは、一概には言えないでしょう。
ヒトが最も進化している、とは安易に言えない具体的事例として、繁殖行動も当てはまるのではないか、と私は以前から考えています。ヒトと最近縁の現生系統であるチンパンジー属では、発情徴候が明確であることから、人類系統とチンパンジー属系統の最終共通祖先も同様で、人類系統の進化では発情徴候が隠蔽されるようになってきた、との認識は根強いように思います。しかし、現代人も含めて現生類人猿(ヒト上科)系統では、排卵の隠蔽というか発情徴候が明確ではないことが一般的で、むしろこの点では、現生類人猿系統においてチンパンジー属が例外的です(関連記事)。つまり、類人猿系統においてチンパンジー属系統のみが特異的に発情徴候を明確化するような進化を経てきただろう、というわけです。この点では、チンパンジー属系統の方が人類系統よりも進化している(派生的である)可能性が高いと思います。私も含めて人間はどうしても自己中心的な認識を有する傾向にあると言えるでしょうが、進化に関しては、突き放して考えることが重要になると思います。
しかし、全現生種は同じ時間を進化してきたわけで、特定の種、たとえばヒトが最も進化している、とは安易に言えません。もちろん、進化学の専門家はさすがにこのような過ちを犯さないでしょうが、急激な進化を遂げた人類と、人類に近縁の霊長類をはじめとして進化の止まった他の生物という対比を強調する生理学の研究者もいるくらいですから(関連記事)、一般層がいても不思議ではないでしょう。もちろん、共通する特定の表現型、たとえば脳容量などで異なる種同士を比較し、より進化した(派生的である)とか、より祖先的(俗語を用いると原始的)であるとか評価することは可能です。脳容量に関していえば、ヒトは最近縁の現生系統であるチンパンジー属やゴリラ属よりもずっと派生的と言えるでしょう。
ただ、A種とB種を比較して、ある表現型でA種よりもB種の方が派生的であるから、他の表現型でも同様とは限りません。たとえば、チンパンジー(Pan troglodytes)の手はヒトよりも派生的である可能性が指摘されています(関連記事)。つまり、ヒトの方が祖先的というわけです。また現時点では、常習的な二足歩行に関しても、単純にヒトがチンパンジー属やゴリラ属よりも派生的とは断定できないと思います。常習的な二足歩行は、人類を定義する最も重要な特徴と言えるでしょう。脳容量の増大も人類進化において重要な特徴とされていますが、それはホモ属の出現以降で、初期人類の脳容量はチンパンジー属とさほど変わりません。それだけに、人類の常習的な二足歩行は派生的で、最近縁の現生系統であるチンパンジー属やゴリラ属の移動様式は祖先的と考えたくなります。
これには合理的な理由もあります。アフリカの大型類人猿(ヒト科)系統では、まずゴリラ属系統が人類およびチンパンジー属の共通祖先系統と、その後で人類系統とチンパンジー属系統が分岐し、チンパンジー属とゴリラ属の移動様式はともにナックル歩行(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)なので、人類はナックル歩行から常習的な二足歩行へと進化した、と考えるのが節約的だからです。そうすると、移動様式に関して、ヒトの方が派生的で、チンパンジー属とゴリラ属の方が祖先的となります。
しかし、初期人類(候補の化石群)にはナックル歩行の痕跡が見当たらないことから、このような移動様式に関する通説には疑問も呈されつつありました。つまり、アフリカの大型類人猿系統の最終共通祖先の段階ではナックル歩行は出現しておらず、チンパンジー属とゴリラ属のナックル歩行は収斂進化ではないか、というわけです。これに関して昨年、チンパンジーとゴリラの大腿骨の発生パターンは著しく異なっており、全体的に類似したように見える両系統の骨格形態は収斂進化だろう、との見解が提示されており(関連記事)、チンパンジー属とゴリラ属のナックル歩行は収斂進化である可能性が高い、と言えるようになったと思います。
では、アフリカの大型類人猿系統の最終共通祖先の段階ではどのような移動様式だったのかというと、ヨーロッパの中期中新世類人猿化石に関する研究では、前肢(前腕)で枝にぶら下がった一方で、後肢(脚)は真っすぐに保たれていることから、二足歩行に用いられていた可能性がある、と指摘されています。もしそうならば、移動様式に関して、人類系統がチンパンジー属とゴリラ属よりも派生的であるとは、一概には言えないでしょう。
ヒトが最も進化している、とは安易に言えない具体的事例として、繁殖行動も当てはまるのではないか、と私は以前から考えています。ヒトと最近縁の現生系統であるチンパンジー属では、発情徴候が明確であることから、人類系統とチンパンジー属系統の最終共通祖先も同様で、人類系統の進化では発情徴候が隠蔽されるようになってきた、との認識は根強いように思います。しかし、現代人も含めて現生類人猿(ヒト上科)系統では、排卵の隠蔽というか発情徴候が明確ではないことが一般的で、むしろこの点では、現生類人猿系統においてチンパンジー属が例外的です(関連記事)。つまり、類人猿系統においてチンパンジー属系統のみが特異的に発情徴候を明確化するような進化を経てきただろう、というわけです。この点では、チンパンジー属系統の方が人類系統よりも進化している(派生的である)可能性が高いと思います。私も含めて人間はどうしても自己中心的な認識を有する傾向にあると言えるでしょうが、進化に関しては、突き放して考えることが重要になると思います。
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