森恒二『創世のタイガ』第6巻(講談社)

 本書は2019年11月に刊行されました。第6巻は、タイガたちがマンモス狩りに出かけて苦戦している場面から始まります。苦戦するタイガたちに、アラタがリクの作った槍を届け、タイガは崖からマンモスに飛び掛かり、残りの男たちがマンモスの腹を槍で突き、何とかマンモス1頭を仕留め、タイガは戦士としての名声をますます高めます。マンモスを倒した後の宴では蜂蜜酒も出されます。宴の後、タイガはウルフとともに見回り中にハイエナに襲われていた仔マンモスを思わず助けてしまいます。それを見つけたティアリは激怒しますが、人懐っこい仔マンモスをすぐに気に入り、世話をします。仔マンモスを集落に連れて行けば殺されてしまうので、タイガはじょじょにアフリカと名づけた仔マンモスを人離れさせます。

 狩猟に行ってネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)との遭遇機会が増える中、リクは鉄鉱石を見つけて製鉄に取りかかります。そうした未来を先取りする行動にリクは苛立ちます。歴史を変えてしまうと、未来に影響が出てしまい、元の世界に帰れなくなるのではないか、とレンは恐れていました。そんなレンに、洞窟を調べて回ったが何の手がかりもなかったので、自分たちはもう元の世界には帰れない、何らかの目的のために自分たちは連れてこられたのだ、とタイガは諭します。旧石器時代に馴染めないレンですが、それはタイガに恋心を抱くユカも同様でした。

 タイガたちが言い争っていたところへ、集落で一番の快足のカシンが慌てた様子で現れ、これまで見たことがないほど多数のネアンデルタール人が西の森に集結している、とタイガたちに告げます。ネアンデルタール人が自分たちを襲い、集落を焼き、女子供を攫おうとしている、と考えた現生人類(Homo sapiens)集落の男性たちは、先制攻撃を仕掛けて殲滅しよう、と訴えます。ナクムも含めて集落の男性たちは、「現代人」ではタイガとアラタ、女性ではティアリを連れて、ネアンデルタール人を襲撃します。ところが、タイガやナクムやカシンたち現生人類の一団を発見したネアンデルタール人は逃げ出し、反撃しようとしません。あまりにもネアンデルタール人が少なく、逃げるだけなのを不審に思ったタイガたちは自分たちの集落に戻ります。その頃、木を伐りに行ったリクレンとチヒロのいない集落はネアンデルタール人に襲撃されていました。ネアンデルタール人たちが西の森に集結したのは陽動作戦だったわけです。集落は焼かれ、老人は殺され、若い女性たちはリカコとユカも含めてネアンデルタール人に連れ去られます。それをリクから知らされたタイガが激昂するところで第6巻は終了です。


 第6巻も、旧石器時代に適応していくタイガ・リク・アラタと、適応できず疎外感や無力感に苛まれるレンとユカという対比が描かれ、ここは普遍的な物語になっており、本作の魅力の一つだと思います。ネアンデルタール人との戦いは本格化し、ついに現生人類の集落が焼かれ、若い女性たちが連行されてしまいました。旧石器時代の戦いの主要な目的の一つは女性の獲得だった、という学説が採用されているのでしょうか。すでに作中ではネアンデルタール人と現生人類との交雑も言及されているので、タイガたちが若い女性たちの解放に成功した時にはすでに、ネアンデルタール人男性との間の子供を妊娠している女性もおり、その子供をどう扱うのか、ということを巡って現生人類の間で議論になるのかもしれません。そうだとすると、ここも普遍的な物語として描かれそうです。なお、タイガは仔マンモスをアフリカと名づけたさい、いずれこの大地はそう呼ばれると考えていますが、第1巻で、アラタは現在いる場所をアフリカ北部から中東と推測しています。ネアンデルタール人が存在することからも、現在の舞台は中東と考えるのが妥当だと思いますが、この点でも謎解きが進むことを期待しています。


 第1巻~第5巻までの記事は以下の通りです。

第1巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201708article_27.html

第2巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201801article_28.html

第3巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201806article_42.html

第4巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201810article_57.html

第5巻
https://sicambre.seesaa.net/article/201905article_44.html

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