『卑弥呼』第29話「軍界線」
『ビッグコミックオリジナル』2019年12月5日号掲載分の感想です。前回は、トメ将軍が、渡河して自分たちを謀反人扱いした那国と戦う、と決断したところで終了しました。巻頭カラーとなる今回は、トメ将軍とその配下の500人の兵士たちが、暈(クマ)と那の国境となる大河(筑後川と思われます)を暈側より渡る場面から始まります。那側の岸に那軍はおらず、トメ将軍は上陸を命じます。トメ将軍は前進して一気に那の「首都」である那城に向かうつもりでした。ホスセリ校尉の率いる、元々はトメ将軍の配下だった9000人の兵士がどこにいるのか、副官らしき男性に問われたトメ将軍は、軍界線だろう、と答えます。そこから先は兵士が入ることは禁じられています。突破できるのか不安げな副官に対して、自分たちの道を進むのみだ、とトメ将軍は力強く答えます。
ヤノハは新生山社(ヤマト)国の兵士たちと共に千穂を目指しており、その手前の五瀬という邑に寄ろうとしていました。ミマト将軍・テヅチ将軍・イクメ・ミマアキも同行しています。千穂の手前の集落で兵士たちを休ませたいところだが、五瀬の邑が武装集団の我々を受け入れてくれるだろうか、とミマト将軍は半信半疑ですが、ヤノハは邑との交渉を命じます。ミマト将軍とその息子であるミマアキが交渉に向かうと、邑長らしき男性が現れ、余所者は入れない、と答えます。ミマト将軍は、新たな日見子(ヒミコ)様(ヤノハ)に従って来た我々の入場を拒むのか、と入場を認めるよう迫ります。その日見子様がなぜ辺境のここに来たのか、と邑長に問われたミマト将軍は、千穂に向かっている、誰かが鬼を倒さねばならない、と答えます。その返答を聞いた邑長はヤノハたちを集落内に招き入れます。邑長は老翁(ヲジ)を連れてきます。ヤノハは自分に平伏する邑長と老翁に、自分はたまたま神の声を聞けるだけで、年長者に頭を下げられるような殿上人ではない、と声をかけます。しかし、ヤノハの顔を見た邑長と老翁は慌てて平伏します。
何百年もの間、誰も立ち入れないという千穂に向かおうとしているヤノハは、鬼八(キハチ)と呼ばれる怪物に五瀬邑から毎年8人の処女を差し出しているのは本当なのか、と邑長に尋ねます。本当だと答えた邑長は、明日また新たな人柱を出さねばならない、と言います。生贄に出された娘はどうなるのか、とヤノハに問われた邑長は、毎年鬼に食べられ、千穂の入口に捨てられている、と答えます。なんと酷い、と言うヤノハに対して、あれは化け物だ、と邑長は強く訴えます。天照大御神の聖地である千穂になぜ鬼が棲んでいるのか、とヤノハに問われた老翁は、この一帯の歴史を語ります。この一帯は天照大御神の子孫であるサヌ王(記紀の神武と思われます)とその兄たちが治めた地域でした。サヌ王は四男で、長男はイツセといい、五瀬邑に館がありました。次男はイナイ、三男はミケイリです。サヌ王は日見彦(ヒミヒコ)で、現世の王はイツセでした。サヌ王は兄3人とともに東征に赴いたものの、鬼八荒神(キハチコウジン)の侵略に気づき、兄のミケイリ王を遠征先から派遣しました。ミケイリ王と鬼八の間で壮絶な戦いが繰り広げられましたが、その結果については、ミケイリ王が敗れたという伝説と、ミケイリ王が勝って鬼八を家来にした、という言い伝えがあり、その後何があったのかは不明で、誰も千穂に入れなくなりました。このように老翁は説明し、邑長は、日見子様の降臨でようやく倭国が平和になるかもしれないのに、鬼八の成敗など考えないでほしい、とヤノハに懇願します。するとヤノハは、五瀬邑も倭の平和のうちであり、鬼ごときを退治できなくて自分に日見子を名乗る資格はない、と答えます。
那の軍界線では、ホスセリ校尉の率いる9000人の軍勢と、トメ将軍の率いる500人の軍勢が対峙しています。ホスセリ校尉はトメ将軍に、ここから先は兵を連れていけない、と伝えます。ホスセリ校尉は、トメ将軍を那の都に連れてくるよう、指示を受けていました。自分は潔白で一点の曇りもない、と堂々と言うトメ将軍に対して、それは廷尉(現代の検察官、律令国家の検非違使)が決めることなので、裁きの場で潔白を申すよう、ホスセリ校尉は言います。自分一人で都へ向かうことは断る、行くなら500人の兵士全員と共にだ、と言うトメ将軍に対して、怖気づいているのか、とホスセリ校尉は問いかけます。するとトメ将軍は、嫌疑が自分だけではなく兵士全員にかかっているのではないか、と反問します。そこでホスセリ校尉は、全員武器を置いて投降してもらいたい、とトメ将軍に求めます。しかしトメ将軍は、それは道理ではあるものの、受け入れられない、と答えます。そもそも武器を捨てて無事に都までたどり着けるとは思えないし、島子(シマコ)のウラの手勢は虎視眈々と自分を狙っている、というわけです。
わずか500人の兵士で9000人の兵士を突破するつもりなのか、と驚くホスセリ校尉に対して、我々は激戦の勇士なので、9000人の兵士ごときは容易に蹴散らす、とトメ将軍は言い放ちます。トメ将軍の率いる500の兵士たちの士気は高そうですが、ホスセリ校尉の率いる9000人の兵士たちは戦いたくなさそうです。トメ将軍が兵士たちに慕われていることを示した描写なのでしょう。するとホスセリ校尉は、トメ将軍以外は武器を捨てなくとも構わない、都までの道中は9000の兵士たちが護衛する、と言います。軍界線の先にはホスセリ校尉の率いる兵士たちも進めない決まりだ、と訝るトメ将軍に対してホスセリ校尉は、自分が受けた命は、謀反の嫌疑がかけられたトメ将軍を護送せよというもので、何人でその任に当たるかは指示されていないので、9000の兵士たちがトメ将軍を護送しても咎めを受けないはず、と説明します。ホスセリ校尉が、自分はトメ将軍の補佐で、9000の兵士たちも本来はトメ将軍の手勢であり、心は同じだ、と力強く言い、トメ将軍が笑みを浮かべるところで、今回は終了です。
複数の勢力・人物の動向が描かれている本作ですが、しばらくは、那国の内紛と千穂の謎で話が進みそうです。那国の内紛は、トメ将軍がウツヒオ王を初めとして那国首脳部に、ヤノハを日見子と認めさせることで終息するのではないか、と予想しています。その結果、以前よりトメ将軍を嫌っており、また警戒もしていたウラは失脚するかもしれません。ウラは、トメ将軍に島子の地位を奪われるのではないか、と警戒しているのでしょうし、庶民出身のトメ将軍を軽蔑もしているのでしょう。おそらくトメ将軍は、倭国から魏に派遣された大夫の難升米でしょうから、今後も那国の王位を奪うことはない、と予想しています。トメ将軍をホスセリ校尉と兵士たちが支持したのは、これまでの描写から納得のいく展開でした。人物造形も魅力の本作ですが、トメ将軍と鞠智彦(ククチヒコ)はとくに成功しているように思います。
千穂の話は、ヤマタノオロチ伝説と神武東征説話が組み合わされた面白いものになりそうで、謎解きの観点からも注目しています。鬼八荒神は鬼道に通じているとされ、『三国志』によると卑弥呼(日見子)は鬼道により人々を掌握した、とありますから、千穂の謎解きは本作でもかなり重要になってくるように思います。邑長の話によると、生贄とされた五瀬邑の娘たちは、毎年バラバラにされて千穂の入口に捨てられているとのことですから、差し出された娘たちに子供を産ませている、という私の予想は外れたかもしれません。もっとも、娘たちを生贄に差し出してからバラバラにされて千穂の入口に捨てられるまでの期間は明示されていないので、鬼八荒神は娘たちに子供を産ませた後に殺害しているのかもしれません。今のところはヤノハの思惑通りに事態が進んでいるように見えますが、暈の大夫である鞠智彦と最強の権力者であるイサオ王は一筋縄ではいかないでしょうし、暈は『三国志』の狗奴国でしょうから今後もヤノハとの対立が続いていくと思われ、話がさらに膨らんでいき面白くなるのではないか、と期待しています。
ヤノハは新生山社(ヤマト)国の兵士たちと共に千穂を目指しており、その手前の五瀬という邑に寄ろうとしていました。ミマト将軍・テヅチ将軍・イクメ・ミマアキも同行しています。千穂の手前の集落で兵士たちを休ませたいところだが、五瀬の邑が武装集団の我々を受け入れてくれるだろうか、とミマト将軍は半信半疑ですが、ヤノハは邑との交渉を命じます。ミマト将軍とその息子であるミマアキが交渉に向かうと、邑長らしき男性が現れ、余所者は入れない、と答えます。ミマト将軍は、新たな日見子(ヒミコ)様(ヤノハ)に従って来た我々の入場を拒むのか、と入場を認めるよう迫ります。その日見子様がなぜ辺境のここに来たのか、と邑長に問われたミマト将軍は、千穂に向かっている、誰かが鬼を倒さねばならない、と答えます。その返答を聞いた邑長はヤノハたちを集落内に招き入れます。邑長は老翁(ヲジ)を連れてきます。ヤノハは自分に平伏する邑長と老翁に、自分はたまたま神の声を聞けるだけで、年長者に頭を下げられるような殿上人ではない、と声をかけます。しかし、ヤノハの顔を見た邑長と老翁は慌てて平伏します。
何百年もの間、誰も立ち入れないという千穂に向かおうとしているヤノハは、鬼八(キハチ)と呼ばれる怪物に五瀬邑から毎年8人の処女を差し出しているのは本当なのか、と邑長に尋ねます。本当だと答えた邑長は、明日また新たな人柱を出さねばならない、と言います。生贄に出された娘はどうなるのか、とヤノハに問われた邑長は、毎年鬼に食べられ、千穂の入口に捨てられている、と答えます。なんと酷い、と言うヤノハに対して、あれは化け物だ、と邑長は強く訴えます。天照大御神の聖地である千穂になぜ鬼が棲んでいるのか、とヤノハに問われた老翁は、この一帯の歴史を語ります。この一帯は天照大御神の子孫であるサヌ王(記紀の神武と思われます)とその兄たちが治めた地域でした。サヌ王は四男で、長男はイツセといい、五瀬邑に館がありました。次男はイナイ、三男はミケイリです。サヌ王は日見彦(ヒミヒコ)で、現世の王はイツセでした。サヌ王は兄3人とともに東征に赴いたものの、鬼八荒神(キハチコウジン)の侵略に気づき、兄のミケイリ王を遠征先から派遣しました。ミケイリ王と鬼八の間で壮絶な戦いが繰り広げられましたが、その結果については、ミケイリ王が敗れたという伝説と、ミケイリ王が勝って鬼八を家来にした、という言い伝えがあり、その後何があったのかは不明で、誰も千穂に入れなくなりました。このように老翁は説明し、邑長は、日見子様の降臨でようやく倭国が平和になるかもしれないのに、鬼八の成敗など考えないでほしい、とヤノハに懇願します。するとヤノハは、五瀬邑も倭の平和のうちであり、鬼ごときを退治できなくて自分に日見子を名乗る資格はない、と答えます。
那の軍界線では、ホスセリ校尉の率いる9000人の軍勢と、トメ将軍の率いる500人の軍勢が対峙しています。ホスセリ校尉はトメ将軍に、ここから先は兵を連れていけない、と伝えます。ホスセリ校尉は、トメ将軍を那の都に連れてくるよう、指示を受けていました。自分は潔白で一点の曇りもない、と堂々と言うトメ将軍に対して、それは廷尉(現代の検察官、律令国家の検非違使)が決めることなので、裁きの場で潔白を申すよう、ホスセリ校尉は言います。自分一人で都へ向かうことは断る、行くなら500人の兵士全員と共にだ、と言うトメ将軍に対して、怖気づいているのか、とホスセリ校尉は問いかけます。するとトメ将軍は、嫌疑が自分だけではなく兵士全員にかかっているのではないか、と反問します。そこでホスセリ校尉は、全員武器を置いて投降してもらいたい、とトメ将軍に求めます。しかしトメ将軍は、それは道理ではあるものの、受け入れられない、と答えます。そもそも武器を捨てて無事に都までたどり着けるとは思えないし、島子(シマコ)のウラの手勢は虎視眈々と自分を狙っている、というわけです。
わずか500人の兵士で9000人の兵士を突破するつもりなのか、と驚くホスセリ校尉に対して、我々は激戦の勇士なので、9000人の兵士ごときは容易に蹴散らす、とトメ将軍は言い放ちます。トメ将軍の率いる500の兵士たちの士気は高そうですが、ホスセリ校尉の率いる9000人の兵士たちは戦いたくなさそうです。トメ将軍が兵士たちに慕われていることを示した描写なのでしょう。するとホスセリ校尉は、トメ将軍以外は武器を捨てなくとも構わない、都までの道中は9000の兵士たちが護衛する、と言います。軍界線の先にはホスセリ校尉の率いる兵士たちも進めない決まりだ、と訝るトメ将軍に対してホスセリ校尉は、自分が受けた命は、謀反の嫌疑がかけられたトメ将軍を護送せよというもので、何人でその任に当たるかは指示されていないので、9000の兵士たちがトメ将軍を護送しても咎めを受けないはず、と説明します。ホスセリ校尉が、自分はトメ将軍の補佐で、9000の兵士たちも本来はトメ将軍の手勢であり、心は同じだ、と力強く言い、トメ将軍が笑みを浮かべるところで、今回は終了です。
複数の勢力・人物の動向が描かれている本作ですが、しばらくは、那国の内紛と千穂の謎で話が進みそうです。那国の内紛は、トメ将軍がウツヒオ王を初めとして那国首脳部に、ヤノハを日見子と認めさせることで終息するのではないか、と予想しています。その結果、以前よりトメ将軍を嫌っており、また警戒もしていたウラは失脚するかもしれません。ウラは、トメ将軍に島子の地位を奪われるのではないか、と警戒しているのでしょうし、庶民出身のトメ将軍を軽蔑もしているのでしょう。おそらくトメ将軍は、倭国から魏に派遣された大夫の難升米でしょうから、今後も那国の王位を奪うことはない、と予想しています。トメ将軍をホスセリ校尉と兵士たちが支持したのは、これまでの描写から納得のいく展開でした。人物造形も魅力の本作ですが、トメ将軍と鞠智彦(ククチヒコ)はとくに成功しているように思います。
千穂の話は、ヤマタノオロチ伝説と神武東征説話が組み合わされた面白いものになりそうで、謎解きの観点からも注目しています。鬼八荒神は鬼道に通じているとされ、『三国志』によると卑弥呼(日見子)は鬼道により人々を掌握した、とありますから、千穂の謎解きは本作でもかなり重要になってくるように思います。邑長の話によると、生贄とされた五瀬邑の娘たちは、毎年バラバラにされて千穂の入口に捨てられているとのことですから、差し出された娘たちに子供を産ませている、という私の予想は外れたかもしれません。もっとも、娘たちを生贄に差し出してからバラバラにされて千穂の入口に捨てられるまでの期間は明示されていないので、鬼八荒神は娘たちに子供を産ませた後に殺害しているのかもしれません。今のところはヤノハの思惑通りに事態が進んでいるように見えますが、暈の大夫である鞠智彦と最強の権力者であるイサオ王は一筋縄ではいかないでしょうし、暈は『三国志』の狗奴国でしょうから今後もヤノハとの対立が続いていくと思われ、話がさらに膨らんでいき面白くなるのではないか、と期待しています。
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