何故欧州の科学者はネアンデルタール人やデニソワ人のY-DNAを公表しないのだろう?
Twitterで検索していたら、表題の発言を発見しました。これは引用で、元の発言は
最近は「ネアンデルタール人は最も古いグループの現生人類であり、現代人と同じ民族である」と考えられる様になり、となると「デニソワ人やクロマニヨン人も当然、現生人類である」となる。何故欧州の科学者はネアンデルタール人やデニソワ人のY-DNAを公表しないのだろう?現生人類ならば、当然ある筈
となります。こう呟いた「ニコイの水芭蕉」氏の発言にはこのように出鱈目なものが多く、しかも呟きが多く検索の邪魔になるので、以前からミュートしていました。取り上げるべきではないのでしょうが、せっかくミュートしていたのに視界に入ってきてイラっとしてしまったので、苛立ちを解消するために言及します。そもそも、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)が「現代人と同じ民族」とはあまりにも常軌を逸した発言で、そもそも民族は遺伝的に定義できるものではありません。おそらく、現生人類(Homo sapiens)を「Homo sapiens sapiens」、ネアンデルタール人を「Homo sapiens neanderthalensis」とする種区分のことを念頭に置いているのでしょうが、これは両者が種ではなく亜種レベルで区分される、と言っているにすぎず、「民族」区分を意味しているのではありません。あまりにも常識的なことなので、わざわざ述べていて恥ずかしいくらいですが。
次に、ヨーロッパの研究者がネアンデルタール人やデニソワ人のY染色体DNAを公表していない、との認識ですが、こちらも出鱈目です。確かに、デニソワ人のY染色体DNAはまだ公表されていないと思いますが、これはデニソワ人男性ではY染色体DNAに基づく系統樹を推定できるだけの品質のデータが得られていないというだけで、ネアンデルタール人に関しては、以前にも取り上げましたが(関連記事)、イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)遺跡(関連記事)と、ベルギーのスピ(Spy)遺跡およびロシアのコーカサス地域のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)遺跡(関連記事)の個体のものが公表されています。エルシドロン遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Mendez et al., 2016)の図3は以下のようになっています。

スピ遺跡とメズマイスカヤ遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Hajdinjak et al., 2018)の図2は以下のようになっています。

このようにネアンデルタール人のY染色体DNAに関してはすでに3年半以上前(2016年4月)から公表されています。それを知らなかったのは仕方ないとしても、「ネアンデルタール人 Y染色体」で検索すればすぐに分かることなのに、その手間さえかけず、あたかもヨーロッパの研究者がわざとこうひょうしないかのように仄めかすのは、本当に悪質だと思います。まあ、こうした愚劣な陰謀論的発言は多くの場合、ちょっとした検索もしないような横着と傲慢さに基づいているのでしょう。
参考文献:
Hajdinjak M. et al.(2018): Reconstructing the genetic history of late Neanderthals. Nature, 555, 7698, 652–656.
http://dx.doi.org/10.1038/nature26151
Mendez FL, Poznik GD, Castellano S, and Bustamante CD.(2016): The Divergence of Neandertal and Modern Human Y Chromosomes. The American Journal of Human Genetics, 98, 4, 728-734.
https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2016.02.023
最近は「ネアンデルタール人は最も古いグループの現生人類であり、現代人と同じ民族である」と考えられる様になり、となると「デニソワ人やクロマニヨン人も当然、現生人類である」となる。何故欧州の科学者はネアンデルタール人やデニソワ人のY-DNAを公表しないのだろう?現生人類ならば、当然ある筈
となります。こう呟いた「ニコイの水芭蕉」氏の発言にはこのように出鱈目なものが多く、しかも呟きが多く検索の邪魔になるので、以前からミュートしていました。取り上げるべきではないのでしょうが、せっかくミュートしていたのに視界に入ってきてイラっとしてしまったので、苛立ちを解消するために言及します。そもそも、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)が「現代人と同じ民族」とはあまりにも常軌を逸した発言で、そもそも民族は遺伝的に定義できるものではありません。おそらく、現生人類(Homo sapiens)を「Homo sapiens sapiens」、ネアンデルタール人を「Homo sapiens neanderthalensis」とする種区分のことを念頭に置いているのでしょうが、これは両者が種ではなく亜種レベルで区分される、と言っているにすぎず、「民族」区分を意味しているのではありません。あまりにも常識的なことなので、わざわざ述べていて恥ずかしいくらいですが。
次に、ヨーロッパの研究者がネアンデルタール人やデニソワ人のY染色体DNAを公表していない、との認識ですが、こちらも出鱈目です。確かに、デニソワ人のY染色体DNAはまだ公表されていないと思いますが、これはデニソワ人男性ではY染色体DNAに基づく系統樹を推定できるだけの品質のデータが得られていないというだけで、ネアンデルタール人に関しては、以前にも取り上げましたが(関連記事)、イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)遺跡(関連記事)と、ベルギーのスピ(Spy)遺跡およびロシアのコーカサス地域のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)遺跡(関連記事)の個体のものが公表されています。エルシドロン遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Mendez et al., 2016)の図3は以下のようになっています。

スピ遺跡とメズマイスカヤ遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Hajdinjak et al., 2018)の図2は以下のようになっています。

このようにネアンデルタール人のY染色体DNAに関してはすでに3年半以上前(2016年4月)から公表されています。それを知らなかったのは仕方ないとしても、「ネアンデルタール人 Y染色体」で検索すればすぐに分かることなのに、その手間さえかけず、あたかもヨーロッパの研究者がわざとこうひょうしないかのように仄めかすのは、本当に悪質だと思います。まあ、こうした愚劣な陰謀論的発言は多くの場合、ちょっとした検索もしないような横着と傲慢さに基づいているのでしょう。
参考文献:
Hajdinjak M. et al.(2018): Reconstructing the genetic history of late Neanderthals. Nature, 555, 7698, 652–656.
http://dx.doi.org/10.1038/nature26151
Mendez FL, Poznik GD, Castellano S, and Bustamante CD.(2016): The Divergence of Neandertal and Modern Human Y Chromosomes. The American Journal of Human Genetics, 98, 4, 728-734.
https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2016.02.023
この記事へのコメント