先史時代の育児
先史時代の育児に関する研究(Dunne et al., 2019)が報道されました。授乳や離乳など、小児期の食餌に関する研究は、過去の社会の乳児の死亡率や出生率を理解する上で重要な意味を有します。乳児の骨のコラーゲンおよび歯の象牙質の試料の窒素安定同位体解析から離乳の時期に関する情報が得られていますが、先史時代の乳児がどのような食物を摂取していたのかについては、ほとんど知られていません。乳児に食餌を与えるのに使用されていた可能性がある既知の最古の土器は、5000年以上前となる新石器時代のヨーロッパで発見されており、こうした器はその後、青銅器時代および鉄器時代を通してより一般的なものになっていきました。
こうした容器に関しては、乳児の授乳に用いられていたという考えが示されていますが、病人や衰弱した人に食餌を与えるのに使われていたとも示唆されており、また実際に何を入れていたのか、突き止めるのは困難でした。その理由の一つは、注ぎ口の開口部が小さいことにあります。この研究はこうした課題を克服するため、バイエルン地方で発見された口の開いた椀状の容器3個を調べました。そのうちの2個は紀元前800~紀元前450年頃となる鉄器時代初期の墓地から出土し、残りの1個は、紀元前1200~紀元前800年頃となる後期青銅器時代の大きな共同墓地から出土しました。これらの容器は、0~6歳の子どもたちの遺骸の側で発見されました。
この研究は、容器の脂質残留物を分析し、生乳を含む動物性食品由来の脂肪酸を同定しました。2個の容器は反芻動物(種は特定されていません)の乳を入れるために使用されたと考えられ、1個の容器では反芻動物以外の乳(ブタの乳や母乳かもしれません)の混ざった残留物が見つかりました。この研究はこうした新知見から、これらの容器、離乳期に動物の乳を補助食品として乳児に与えるために使用された可能性を示す証拠になる、と指摘します。ただ、乳児に動物の乳を飲ませる習慣が広く普及していたとは考えられず、母親の死亡などの事情により母乳を飲ませられない状況での非常手段だったのだろう、との指摘もあります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【考古学】先史時代の哺乳瓶か
ドイツのバイエルン地方にある青銅器時代と鉄器時代の乳児の墓で発見された注ぎ口の付いた小型の土器が、乳児や幼児に動物の乳を飲ませるために使用されていた可能性が非常に高いことが明らかになった。これらの人工遺物の分析は、有史以前のヒト集団における離乳のやり方に関する手掛かりをもたらしている。分析結果を報告する論文が、今週掲載される。
液体を注ぐことのできる口の付いた土器の容器は、5000年以上前の新石器時代のものが発見されている。こうした容器は、乳児の授乳に用いられていたという考えが示されているが、実際に何を入れていたのかを突き止めるのは困難だった。その理由の1つは、注ぎ口の開口部が小さいことにある。この課題を克服するため、今回の研究で、Julie Dunne、Richard Evershedたちのグループは、バイエルン地方で発見された口の開いた椀状の容器(3個)を調べた。そのうちの2個は、紀元前800~450年のものと年代決定された鉄器時代初期の墓地から出土し、残りの1個は、紀元前1200~800年のものと年代決定された後期青銅器時代の大きな共同墓地から出土した。これらの容器は、0~6歳の子どもたちの遺骸のそばで発見された。
Evershedたちは、容器の脂質残留物の分析を行い、動物性食品(生乳を含む)由来の脂肪酸を同定した。2個の容器は、反芻動物の乳を入れるために使用されたと考えられ、1個の容器には、反芻動物以外の乳(ブタの乳や母乳の可能性あり)が混ざった残留物が見つかった。以上の新知見は、これらの容器が、離乳期に動物の乳を補助食品として乳児に与えるために使用された可能性を示す証拠となるとEvershedたちは考えている。
考古学:先史時代の小児の墓から出土した陶器の哺乳瓶に見つかった反芻動物の乳
考古学:先史時代の育児
今回、ドイツ・バイエルン州の青銅器時代と鉄器時代の乳児の墓から出土した小型の飲み口付きの土器3点には、かつて反芻動物の乳が入れられており、場合によっては粥状の肉も少量混ぜられていた可能性があることが明らかになった。この研究は、先史時代の乳児に食餌を与えるため、または離乳のために用いられていた食品の種類に関する直接的な証拠をもたらすものである。調べた器のうち2点は、バイエルン州の前期鉄器時代の墓地から出土したもので、年代は紀元前800~紀元前450年と推定されている。第3の器は後期青銅器時代(同じくバイエルン州)のもので、推定年代は紀元前1200~紀元前800年である。乳児に食餌を与えるために用いられていた可能のある器で最古のものは、5000年以上前の新石器時代までさかのぼる。
参考文献:
Dunne J. et al.(2019): Milk of ruminants in ceramic baby bottles from prehistoric child graves. Nature, 574, 7777, 246–248.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1572-x
こうした容器に関しては、乳児の授乳に用いられていたという考えが示されていますが、病人や衰弱した人に食餌を与えるのに使われていたとも示唆されており、また実際に何を入れていたのか、突き止めるのは困難でした。その理由の一つは、注ぎ口の開口部が小さいことにあります。この研究はこうした課題を克服するため、バイエルン地方で発見された口の開いた椀状の容器3個を調べました。そのうちの2個は紀元前800~紀元前450年頃となる鉄器時代初期の墓地から出土し、残りの1個は、紀元前1200~紀元前800年頃となる後期青銅器時代の大きな共同墓地から出土しました。これらの容器は、0~6歳の子どもたちの遺骸の側で発見されました。
この研究は、容器の脂質残留物を分析し、生乳を含む動物性食品由来の脂肪酸を同定しました。2個の容器は反芻動物(種は特定されていません)の乳を入れるために使用されたと考えられ、1個の容器では反芻動物以外の乳(ブタの乳や母乳かもしれません)の混ざった残留物が見つかりました。この研究はこうした新知見から、これらの容器、離乳期に動物の乳を補助食品として乳児に与えるために使用された可能性を示す証拠になる、と指摘します。ただ、乳児に動物の乳を飲ませる習慣が広く普及していたとは考えられず、母親の死亡などの事情により母乳を飲ませられない状況での非常手段だったのだろう、との指摘もあります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
【考古学】先史時代の哺乳瓶か
ドイツのバイエルン地方にある青銅器時代と鉄器時代の乳児の墓で発見された注ぎ口の付いた小型の土器が、乳児や幼児に動物の乳を飲ませるために使用されていた可能性が非常に高いことが明らかになった。これらの人工遺物の分析は、有史以前のヒト集団における離乳のやり方に関する手掛かりをもたらしている。分析結果を報告する論文が、今週掲載される。
液体を注ぐことのできる口の付いた土器の容器は、5000年以上前の新石器時代のものが発見されている。こうした容器は、乳児の授乳に用いられていたという考えが示されているが、実際に何を入れていたのかを突き止めるのは困難だった。その理由の1つは、注ぎ口の開口部が小さいことにある。この課題を克服するため、今回の研究で、Julie Dunne、Richard Evershedたちのグループは、バイエルン地方で発見された口の開いた椀状の容器(3個)を調べた。そのうちの2個は、紀元前800~450年のものと年代決定された鉄器時代初期の墓地から出土し、残りの1個は、紀元前1200~800年のものと年代決定された後期青銅器時代の大きな共同墓地から出土した。これらの容器は、0~6歳の子どもたちの遺骸のそばで発見された。
Evershedたちは、容器の脂質残留物の分析を行い、動物性食品(生乳を含む)由来の脂肪酸を同定した。2個の容器は、反芻動物の乳を入れるために使用されたと考えられ、1個の容器には、反芻動物以外の乳(ブタの乳や母乳の可能性あり)が混ざった残留物が見つかった。以上の新知見は、これらの容器が、離乳期に動物の乳を補助食品として乳児に与えるために使用された可能性を示す証拠となるとEvershedたちは考えている。
考古学:先史時代の小児の墓から出土した陶器の哺乳瓶に見つかった反芻動物の乳
考古学:先史時代の育児
今回、ドイツ・バイエルン州の青銅器時代と鉄器時代の乳児の墓から出土した小型の飲み口付きの土器3点には、かつて反芻動物の乳が入れられており、場合によっては粥状の肉も少量混ぜられていた可能性があることが明らかになった。この研究は、先史時代の乳児に食餌を与えるため、または離乳のために用いられていた食品の種類に関する直接的な証拠をもたらすものである。調べた器のうち2点は、バイエルン州の前期鉄器時代の墓地から出土したもので、年代は紀元前800~紀元前450年と推定されている。第3の器は後期青銅器時代(同じくバイエルン州)のもので、推定年代は紀元前1200~紀元前800年である。乳児に食餌を与えるために用いられていた可能のある器で最古のものは、5000年以上前の新石器時代までさかのぼる。
参考文献:
Dunne J. et al.(2019): Milk of ruminants in ceramic baby bottles from prehistoric child graves. Nature, 574, 7777, 246–248.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1572-x
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