鮮新世の温暖化
鮮新世の温暖化に関する二つの研究が公表されました。いずれも、現在の温暖化だけではなく、人類進化に関しても有益な知見になっているという点でも、注目されます。一方の研究(Dumitru et al., 2019)は、鮮新世温暖期における全球平均海水準を絞り込んでいます。鮮新世などの過去の温暖期における海水準の変化の再構築により、長期の温暖化に対する海水準と氷床の応答に関する知見が得られます。鮮新世温暖期の全球平均海水準(GMSL)の見積もりは複数存在しますが、これらには数十mの開きがあるため、過去と将来の氷床の安定性の評価が妨げられています。
本論文は、産業革命前よりも気温が平均して2~3°C高かったピアセンジアン(360万~258万年前頃)中期の温暖期において、全球の氷量の変化に起因して全球平均海水準が現在より約16.2 m高く、海洋の熱膨張を含めると約17.4 m高かった、と示します。この結果は、さらに温暖だった鮮新世の気候最温暖期(産業革命前よりも気温が約4°C高かったと推定されています)には、全球平均海水準が現在の海水準より23.5 m高く、熱膨張を加えるとさらに1.6 m高かったことを示しています。本論文は、地中海西部(スペインのマヨルカ島)から得られた洞窟内二次生成物に基づく、439万~327万年前の全球平均海水準データを6点提示とています。この記録は、海水準との関係が明確で、ウラン・鉛法年代の信頼性が高く、期間が長い点で類がなく、潜在的な海水準上昇の不確かさの定量化を可能にします。これらのデータは、氷床が温暖化に非常に敏感であることを示すとともに、将来の氷床モデルの較正において重要な目標を与えます。
もう一方の研究(Grant et al., 2019)は、鮮新世における海水準変動の振幅と起源を明らかにしています。地球は現在、300万年以上前の「中期鮮新世温暖期」に最後に存在した気候へと向かっています。当時は、大気中の二酸化炭素の濃度は約400 ppmで、軌道強制力に応答して全球の海水準が振動しており、全球平均海水準の最大値は、現在の値よりも約20 m高かった可能性があります。この規模の海水準上昇をもたらすには、グリーンランド氷床・西南極氷床・東南極といった海洋性氷床の広範囲にわたる後退あるいは崩壊が必要です。しかし、氷期–間氷期サイクルにおける海水準変動の相対的な振幅は、まだあまり絞り込まれていません。
本論文はこの課題に取り組むため、現代の波による堆積物輸送と水深の間の理論的な関係を較正し、その手法を、ニュージーランドのワンガヌイ盆地から得られた厚さ800 mの鮮新世の連続的な浅海堆積物における粒子のサイズに適用しました。この手法で得られた水深の変動からは、地殻変動による沈降を補正した後、相対的海水準(RSL)の周期的な変動が得られました。本論文では、中期~後期鮮新世(330万〜258万年前)頃の氷期–間氷期サイクルにわたって、海水準が平均して13 ± 5 m変動していたことを示します。得られた記録は、深海の酸素同位体記録から導かれる全球の氷の代理指標とは関係がなく、海水準サイクルは、離心率の変動による330万〜270万年前頃の軌道歳差によって調整される、南極大陸の日射の2万年周期の変化と一致しています。
したがって、氷床が南極大陸において安定化し、北半球において増大するため、海水準変動は、地軸の傾きの41000年周期のサイクルによって調整されます。厳密には、全球平均海水準の変化の絶対値ではなく、相対的海水準の変化の振幅が得られました。一方、氷河性地殻均衡に基づく相対的海水準の変化のシミュレーションでは、これらの記録は、地球の中心に対して記録されていない全球平均海水準として定義される、ユースタティック海水準に近いことを示しています。しかし、この見積もりにより、保守的な仮定の下では、鮮新世の最大海水準上昇が25 m未満に限定され、今世紀に予測されている気候条件の下での極域の氷量の変動に新たな制約条件が与えられました。
参考文献:
Dumitru OA. et al.(2019): Constraints on global mean sea level during Pliocene warmth. Nature, 574, 7777, 233–236.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1543-2
Grant GR. et al.(2019): The amplitude and origin of sea-level variability during the Pliocene epoch. Nature, 574, 7777, 237–241.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1619-z
本論文は、産業革命前よりも気温が平均して2~3°C高かったピアセンジアン(360万~258万年前頃)中期の温暖期において、全球の氷量の変化に起因して全球平均海水準が現在より約16.2 m高く、海洋の熱膨張を含めると約17.4 m高かった、と示します。この結果は、さらに温暖だった鮮新世の気候最温暖期(産業革命前よりも気温が約4°C高かったと推定されています)には、全球平均海水準が現在の海水準より23.5 m高く、熱膨張を加えるとさらに1.6 m高かったことを示しています。本論文は、地中海西部(スペインのマヨルカ島)から得られた洞窟内二次生成物に基づく、439万~327万年前の全球平均海水準データを6点提示とています。この記録は、海水準との関係が明確で、ウラン・鉛法年代の信頼性が高く、期間が長い点で類がなく、潜在的な海水準上昇の不確かさの定量化を可能にします。これらのデータは、氷床が温暖化に非常に敏感であることを示すとともに、将来の氷床モデルの較正において重要な目標を与えます。
もう一方の研究(Grant et al., 2019)は、鮮新世における海水準変動の振幅と起源を明らかにしています。地球は現在、300万年以上前の「中期鮮新世温暖期」に最後に存在した気候へと向かっています。当時は、大気中の二酸化炭素の濃度は約400 ppmで、軌道強制力に応答して全球の海水準が振動しており、全球平均海水準の最大値は、現在の値よりも約20 m高かった可能性があります。この規模の海水準上昇をもたらすには、グリーンランド氷床・西南極氷床・東南極といった海洋性氷床の広範囲にわたる後退あるいは崩壊が必要です。しかし、氷期–間氷期サイクルにおける海水準変動の相対的な振幅は、まだあまり絞り込まれていません。
本論文はこの課題に取り組むため、現代の波による堆積物輸送と水深の間の理論的な関係を較正し、その手法を、ニュージーランドのワンガヌイ盆地から得られた厚さ800 mの鮮新世の連続的な浅海堆積物における粒子のサイズに適用しました。この手法で得られた水深の変動からは、地殻変動による沈降を補正した後、相対的海水準(RSL)の周期的な変動が得られました。本論文では、中期~後期鮮新世(330万〜258万年前)頃の氷期–間氷期サイクルにわたって、海水準が平均して13 ± 5 m変動していたことを示します。得られた記録は、深海の酸素同位体記録から導かれる全球の氷の代理指標とは関係がなく、海水準サイクルは、離心率の変動による330万〜270万年前頃の軌道歳差によって調整される、南極大陸の日射の2万年周期の変化と一致しています。
したがって、氷床が南極大陸において安定化し、北半球において増大するため、海水準変動は、地軸の傾きの41000年周期のサイクルによって調整されます。厳密には、全球平均海水準の変化の絶対値ではなく、相対的海水準の変化の振幅が得られました。一方、氷河性地殻均衡に基づく相対的海水準の変化のシミュレーションでは、これらの記録は、地球の中心に対して記録されていない全球平均海水準として定義される、ユースタティック海水準に近いことを示しています。しかし、この見積もりにより、保守的な仮定の下では、鮮新世の最大海水準上昇が25 m未満に限定され、今世紀に予測されている気候条件の下での極域の氷量の変動に新たな制約条件が与えられました。
参考文献:
Dumitru OA. et al.(2019): Constraints on global mean sea level during Pliocene warmth. Nature, 574, 7777, 233–236.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1543-2
Grant GR. et al.(2019): The amplitude and origin of sea-level variability during the Pliocene epoch. Nature, 574, 7777, 237–241.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1619-z
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