久住眞理、久住武『ヒューマン 私たち人類の壮大な物語─生命誕生から人間の未来までを見すえる総合科学』

 人間総合科学大学より2018年5月に刊行されました。本書は人間の総合的理解を意図しています。そのため本書は、DNAのような分子から、細胞→組織→臓器→個体→個体群(社会)→生物圏(生態系)まで各階層を扱い、それらを統合して人間を理解しようとしています。したがって、狭義の生物学だけではなく、文化的な側面にも多くの分量が割かれており、農耕や産業革命、現在進行中の情報革命(第四次産業革命)も言及されています。幅広い視野で人間を総合的に理解しようとする本書の意図はよく伝わっていると思います。専門化・細分化の進展は当然重要ではあるものの、それらを統合化することこそ肝要なのだ、というわけです。

 これは正論でほとんどの人々もそう考えているでしょうが、当然実行はたいへん困難です。本書も、広範な分野を扱っているだけに、個々の分野の専門家には疑問の残る解説もあるでしょう。たとえば、ヘッケルの反復説に肯定的なところです。しかし本書は、参考文献も明記しており、体系的な人間理解の教科書・入門書としては有益だと思います。細胞やホルモンなど、重要ではあるものの、私も含めてあまりよく理解していない人が多いだろう人間の存立基盤についての基礎的な解説もあり、生物学の復習というか、その手がかりとしても役立つでしょう。

 本書は人間の統合的理解を意図していますから、進化の観点も強く打ち出しています。本書は広範な分野を扱っているだけに、人類進化について詳しく解説できているわけではありませんが、形態の進化と文化の変容について簡潔に述べており、参考文献一覧もなかなか充実していますから、人類進化の教科書・入門書としても機能していると思います。本書は、人間の疾病にも進化的基盤がある、と指摘します。これは重要な観点と言えるでしょうが、本書は生物の出現にまでさかのぼり、長い射程で人間の進化を把握しているのが特徴です。

 こうした点も含めて本書は教科書・入門書としてなかなか良いと思うのですが、やや慎重さに欠けるところがあるのは残念です。たとえば、P120の図では哺乳類の誕生が6500万年前とされていますが、P121の図では2億2千万年前に初期哺乳類が進化し、6400万年前に哺乳類が繁栄した、とあります。ここは統一された説明にしておいてもらいたかったところです。またP124では、アウストラロピテクス属が中東で発見されたとありますが、アフリカでしか発見されていません。もっとも、これらが放置の価値を大きく下げているとは思いませんが。


参考文献:
久住眞理、久住武(2018)『ヒューマン 私たち人類の壮大な物語─生命誕生から人間の未来までを見すえる総合科学』(人間総合科学大学)

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